防御マンションから人民を救出せよ!
芦屋 瞭銘
第一章 協力要請
第1話 人殺しオートロック
「こちらです」
案内されたのは、住宅街に建つごくごく普通のマンションだった。
高級感のあるダークグレーの玄関の先。オートロックと思われる長方体を目にした瞬間、俺の足は緊張と共に止まる。
このマンションのオートロックには絶対に近づくなと案内人にキツく言われていた。
なぜかって? 迂闊に近づくと命を落とすかもしれないからだ。
「少しお待ちください」
俺だってまだ信じていない。マンションのオートロックに人が殺されるだなんて。
そのはずなのだが周辺の張り詰めた空気がその信憑性を少しずつ高め始めている。
周りには警察らしき人が多くいた。刑事ドラマとかでよく見るスーツ姿ではなく、どちらかというと突入しそうなタイプの服と気迫を身に纏っている。
「動かないでくださいね」
大きな防護盾を持った女性が俺の目の前を守るように立った。ここに来るまでに聞かされた漫画みたいな話が、急激に現実味を帯びる。鎧で完全防備の男がオートロックに近づくのを盾の小窓から覗く。するとオートロックの奥側から、大型犬ぐらいの物体が俊敏な動きで飛び出した。
「……!」
直方体の石の上に乗ったそれをよく見ると、カメレオンのようなトカゲのような、とにかく爬虫類の類の形をしていることだけはわかった。それしか分からなかったのは、風圧と轟音に驚いて目を離してしまったから。
見間違いじゃなきゃ、あの爬虫類はビームのようなものを放ったと思う。
「撤退!!」
誰かの叫び声と共にその場にいる全員がマンションから走って逃げ始める。俺もそれに続いてその場から離れた。
まだ心臓がうるさい。きっと、いや絶対にあのビームに当たったら死ぬだろう。迂闊に近づくと命を落とすという事実を信じずにナメていた自分をはっ倒したくなった。
ここは今、IT災害と呼ばれるものに苛まれている。
ーーーーー
「説明が遅れて申し訳ございませんでした。ちょうど午前の確認に間に合ったので実際に見ていただいた方が早いかと思いまして」
「あ、そうっすね……危険だってのはよーくわかりました」
「それは何よりです」
例のマンションのすぐ近くにあるプレハブ小屋のような場所に案内され、細いパイプのデスクと椅子に俺は座っていた。俺があのマンションに連れてこられた経緯と目的をしてくれるらしい。
真っ白なホワイトボードにマンションの写真や俺の情報が貼られていき、ようやく準備が整ったようでスーツ姿の女性が軽くお辞儀をしてきた。
「改めまして朔來 創(さくら そう)様。今回はIT災害の人民救出の協力要請に応じていただき、心から感謝いたします」
そう言われてさあっと血の気が引く。自分で要請に応じておきながら、ちゃんと理解できたのはたった今。
俺は今からあのバケモノのような機械をどうにかしなければならないってことだ。
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