Chapter33 宗谷岬③
命3つ
鏡子はまだ疑心暗鬼だ。
「確証は無いが、確信はある。組織に確認したら、戦後の一時期、ソ連の保険省で極秘にマレビトの研究していたようや、死んだマレビトを生き返る前にソ連に持ち込んだが、爆発せんかった。しかし生き返りもせんかった。分かるか?ええか、マレビトは予め決められた条件によって生かされている。不死で存るが不滅ではないも、そう。この国を出られないんや無い、条件が揃えれば出られる。マレビトは“条件のいきもの”や」
コトブキを試す様に鏡子は睨む。
「日本を出て、どうするのさ?」
「自分で世界を見て考えろ。海を越える為にふたつある命のひとつを捨て、外に出ろ。外に出れば、お前は永遠ではなくなる。限りある時間を取り戻せ!」
コトブキを見て鏡子は少し笑う。
「いいよ、貰ってあげる、あんたの命」
そう言って、鏡子からコトブキにキスをする。唐突にキスをされて、少し驚くが、コトブキも鏡子に唇を強く当てる。
唇を互いに離し、ふたりは微笑む。
コトブキの目元のホクロが鏡子の目元の同じ所に移る。
「寿々、俺は命を返したぞ。これで俺はもう人間や、いや、ヒトや」
「それが、あんたに命をくれたひとの名前?」
「そして、俺をこんな世界に引き摺り込んだ張本人や」
地鳴りの様な流氷が割れる音の中、ジリジリとコトブキ達との間合いを詰めるカラスとハタノ達にコトブキは大声で叫ぶ。
「俺はヒトになった!殺そうと思えば殺せる!お前らを撃つぞ!」
聞こえないのか、構わず間合いを詰めるカラス達とハタノにコトブキは散弾銃を抜き、ひとりのカラス達に向け、引き金を引く。狙ったカラスの胸に当たり、血が飛び散る。
他のカラス達の動きが止まる。
ニヤリとするハタノは、連れてきたマレビト部隊のひとりからライフルを取り上げ、銃口をカラス達に向ける。
「お前らは帰って、お前らの老いた主人に伝えろ。お前はマレビトにはなれない、マレビトの女から生まれても、マレビトにはなれない」
ハタノがそう言って、カラス達の足元に向けてライフルの引き金を引くと、軽快な連射音が、あたりに響き、カラス達の足元の雪が粉雪の様に舞いはね上がる。
「俺も先に、鏡子に命を返した。もうヒトだ。お前らを撃つ事が出来るぞ」
カラス達は互いの顔を見合わせ、そろりそろりと後退し、消えて行く。
その場には、ハタノと3人のマレビト隊だけになり、岬に立つ、コトブキ、鏡子、モリオを見ながら、ハタノはライフルを捨てる。
「お前ら3人もカスミの所へ行け、ここからは俺とコトブキでカタを付ける事だ」
ハタノは、マレビト隊達に下がる様に言い、ひとりコトブキ達に近付く。
それを見ていたコトブキが鏡子に向かって、散弾銃を投げる。
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