蝗帷・槭?邂ア蠎ュ③

その像は、北に亀、東に竜、南に鳥、西に虎といった風に、四方位にそれぞれ一体ずつ配置されている。


「う〜ん……悪い気配は感じないよね。」

「そうですね。むしろ、神聖な気配を感じます。」


僕の問いかけに答えたミリアに続いてトウカもそんなことを口にする。


「うーん……どうする?多分、触ったら起動する感じだと思うけど……。」

「……いいんじゃないか?……恐らく、この像は"四神"を象ったものだろうしな。」

「"四神"?あー、確か東方の神格だっけ?」


レオンの言った言葉に僕が首を傾げつつ記憶を辿ると、、彼がその"四神"について説明してくれる。


「四神は、このクリスタ帝国から遠く離れた東方の小さな島国で信仰されている神の総称だな。北方の"玄武"、東方の"青竜"、南方の"朱雀"、西方の"白虎"の四体で、魔を遠ざけると言われているらしい。」

「へ〜……レオンは何でそんなことを知ってるの?」

「昔、そっちの方に行ったことがあってな。」

「なるほど。……まあ、何でこんなところにその"四神"の像があるのかはわからないけど、このダンジョンの感じ的にもよっぽど大丈夫でしょ。とりあえず、各自触る像を選んで。」


そんな僕の言葉に、僕たちはそれぞれが思い思いの像の元へ向かう。


「きれいに分かれたね……。それじゃあ、触ってみようか。」


そんな僕の声を合図に、僕たちは像に手を触れる。


── その瞬間、転移の魔法が発動し、僕はどこかへと飛ばされるのだった。


── ミリア 視点 ──

ノア君の合図で私が像に手を触れると、像に魔力が吸われる感覚の後、頭の中に声が響いてくる。


── ふむ……確かに素質はありそうだが……まだ鍛錬が足りぬな。……その剣を使いこなせるようになったら、また来ると良い。


その言葉が終わると同時に魔力を吸われる感覚も無くなり、像の纏っていた神聖な雰囲気も消失する。


── え、これだけ?変に気張って損しちゃったよ……。


そんなことを思いつつ後ろを振り返った私は、思わず声を漏らす。


「あれ?ノア君とトウカさんは?」


そこにはレオンさんだけがいて、ノア君とトウカさんの姿がなかったのだ。


「いや……分からん……。てっきり二人も声を聞いているのかと思ったが……。」

「レオンさんも?私もそうだったんだけど……二人とも、どこ行っちゃったんだろ?」

「……とりあえず、待つしかないだろう。……二人だったら、きっと大丈夫なはずだ。」

「そうだね。」


── ノア君……。お願いだから、無事に戻ってきてね。


ここにいないノア君に思いを馳せつつ、私はレオンさんと一緒に二人の帰りを待つのだった。


── トウカ 視点 ──

「ここは……?」


像に手を触れた瞬間に発動した転移の魔法によってどこまでも続くような真っ白な空間へと連れてこられた私は、周囲を見渡しながらそう言葉を漏らす。


「ここは妾の領域じゃ。」

「!?」


その言葉にまさか答えが返ってくるとは思っていなかった私は、その声に肩を跳ねさせた後周囲を見渡す。


── すると、私の前に、一羽の大きな鳥が降りてくる。燃えるように朱い身体と長い尾を持つ、私の倍以上はあろうかという鳥だ。


「フェニックス……?だけど、話すなんて聞いたことが……。」

「……やはり間違われるか……。……向こうでも間違えられてたしの……。確かに似とるが、そんなに間違われると妾もちょっと悲しくなってくるぞ……。」


その姿に私が言葉を漏らすと、目の前の大鳥がどこか悲しそうに言葉を口にする。心なしか、その身体も若干煤けているようにも見える。


「す、すみません。」

「いや、いいんじゃよ。向こうならまだしも、こっちじゃと妾のことを知っとる者も少ないじゃろうしな。……改めて、よく来たの。妾はアカネ。"朱雀"と呼ばれている存在じゃ。」

「は、初めまして。私はトウカ=シストです。」

「うむ。トウカじゃな。」

「それで、どうして私はここへ?それに、他の皆は……。」

「それなら心配はいらぬ。蒼と玄の二人の気に入った者はあの場に残っておるし、もう一人の方も琥白のところに移動しただけじゃしな。……とりあえず、ここに連れてきた目的を話してもいいかの?」

「あ、はい。」

「主をここに呼んだのは、お主に妾の加護を与えるためじゃ。」

「加護……ですか?」

「うむ。主は歳の割に、神聖魔法をかなりの練度で使えるじゃろう?それに、少し主の過去を見せてもらったが……主であればこの力を悪いようには使わないじゃろうしな。」

「そう……なんでしょうか。」

「ああ。今まで様々な者を見てきた妾が保証する。……妾の加護は簡単に言ってしまえば神聖魔法の効果の底上げじゃな。他にもいくつか効果はあったりするが、底上げに比べればほんの些細なものじゃ。」

「ですが、私はリトス教の……。」

「それに関しては問題ない。妾たちは、形式上はリトス教の唯一神、フェルティシール様の部下みたいなものじゃしな。」

「そうなんですか!?でも、そんな話は……。」


今まで聞いたこともない情報に、私は詳しく聞こうと問いを発しかけたところで、周囲が淡く輝き始める。


「む。もう時間か。余裕もないし、手早く済ませるぞ。」


その様子を見た大鳥が何かを呟くと、その体から溢れた朱い光が私へと飛んできて、私の身体に吸い込まれていく。


「……これで大丈夫じゃ。もし聞きたいことがあれば、ここに来るか神殿で祈れば良いはずじゃ。お主の旅路に、幸あらんことを祈っておるぞ。」


その言葉を最後に、私は彼女の領域から弾き出され、元居たあの部屋に転移するのだった。

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