クリスタ帝国 シスト公爵領
「── と、こんな感じですね。」
「なるほど……。ちなみに、他に気づいたことは?」
「そうですね……。……強いて言うなら、その辺のダンジョンで出てくるデュラハンに比べるとちょっとだけ強かったかな?くらいですね。」
とは言っても本当に誤差のようなレベルだし、あまり気にするようなことでもないと思うけど。
僕がそのことを伝えると、
「情報の提供、ありがとうございます。……ここ最近、『魔の森』のモンスターが活発化しているという報告が増えていまして……。ノアさんほどの実力者から見てもそう感じるのであれば、警戒しておいて損はないでしょうから。」
と、ギルドマスターは感謝の気持ちを述べる。
「いえ、人々の安全が第一ですから。……ところでトウカさん、シスト公爵領にはいつ?」
「それでしたら、ノアさんたちの都合に合わせて動くことになっています。」
「だったら、今すぐ向かうことってできる?」
「はい、可能です。」
「じゃあ……。ミリアー、こっち来てー。」
「ん〜?どうしたのノア君?」
「今からシスト公爵領に向かうことになりそうだから、何かここでしたいこととかってあるのかなーって。」
「ん〜、特にないかな〜。」
「じゃあ、今からお願いしても?」
「分かりました。では、着いてきてください。」
そう言ってギルドの外へと向かっていくトウカさんの後に続いてギルドを後にすると、少し離れたところに見慣れない物体があった。金属でできた箱のような形で、下の方に丸い何かがついている。
「トウカさん、あれは?」
「これは魔導車という、最近開発された移動用の魔導具です。……開発というよりは、再現の方が正しいですが。」
「ということは、これで向かうということですか?」
「はい。これなら、半日もあればシスト公爵領まで向かうことができます。」
そう言うとトウカさんは、箱の側面についていた扉を開け、中の椅子に座る。
「ノアさんとミリアさんは後ろの座席へお願いします。もし休みたければ、椅子の背もたれを倒してもらって大丈夫です。」
そう言う彼女に促されるまま椅子に座った僕は、その座り心地の良さに驚くことになる。
── これが普及すれば、だいぶ移動が楽になるな……。……さっきから若干頭が痛いし、休ませてもらおうかな……。
「……じゃあ、少し休ませてもらいます。」
僕はそう言って、椅子の背もたれを倒す。そしてそのまま横になると、そのまま意識をシャットアウトした。
── 数時間後 ──
「ノア君、着いたよ〜。」
僕はそんなミリアの声で目を覚ます。
「もう……?」
「うん。ノア君、珍しくぐっすりだったからね〜。」
── まあ、しばらく寝てたおかげかだいぶ楽になったし、これなら特に支障は生まれないだろう。しかし……。
「……何でだろ……。何故か、見覚えがあるような……。」
「……もしかして?」
「……うん。その可能性があるかもしれない。」
「ノアさん、どうですか?」
すると、トウカさんが話しかけてくる。
「あ、トウカさん。……やっぱり、どこか見覚えがある感じはあります。」
「そうですか。」
「……少し、僕の感覚に従って歩いてみてもいいですか?」
「はい。もちろんです。」
彼女の了承を得た僕は、何となくではあるが呼ばれているような感じのする方向へ向け、歩いていく。
しばらく歩くと、やがて遠くに大きな屋敷が見えてくる。そしてその屋敷までの間には、これまた非常に大きな庭が広がっていた。
「ここは……?」
ここまで歩いてくる道中で再び痛み出した頭を無視し、僕はトウカさんに質問する。
「……ここが、私が案内しようと思っていた、シスト公爵家の本邸です。……とりあえず、着いてきてください。」
そう言うと彼女は門を開け、広大な庭を歩いていく。
「すごいねノア君!まさか案内されてない目的地に着いちゃうなんて!」
「……うん……。」
「あれ?大丈夫?調子悪い?」
「……大丈夫。とりあえず、トウカさんに着いていこう。」
僕はそう言って、先を行くトウカさんを追いかける。
── 何で?僕はここに来たことはないはず……。なのに、どうしてこうも懐かしいんだ?
庭の片隅に造られた東屋や、庭園たち。一見何の変哲もないようなそれも、何故か懐かしい。
「……着きました。」
やがて僕たちは、本邸の入り口にたどり着く。そしてトウカさんが扉を開けると、そこには暖かく、しかし高級感を感じさせるエントランスが広がっていた。
それを見て、僕の心臓が大きく音を立てる。間違いない。僕はこの場所を
はやる気持ちを抑えてトウカさんの後に着いていくと、やがてとある部屋の前にたどり着く。
「この部屋で、私の父がお待ちしています。今回の依頼の依頼主になりますので、一応挨拶をお願いします。」
トウカさんはそう言って部屋の扉を開く。
── 部屋の中は本棚が並ぶ、書斎のような部屋だった。そして、その部屋の奥に置かれた机の奥に、1人の男性がいた。
若干くすんだ金髪に、浅葱色の瞳。その優しげな風貌は、トウカさんに通ずるものを感じる。
「おや?君たちは……。……ああ、『雪下の誓い』の御二方かな?私はエルド=シスト。このシスト公爵家の当主を勤めさせてもらっているよ。」
風貌に違わない、優しい声。それは、本来の優しさ以上に暖かく感じられた。
そして、その声を聞いた瞬間、先ほどからどんどん強くなっていた頭痛がさらに強くなる。僕はそれに耐えきれず、思わず膝をつく。
「!?ノア君!?」
「ノアさん!?」
そんな焦ったような2人の声も、どこか遠くに聞こえる。
そして僕は、そのまま意識を手放した。
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