第二章

いざ、帝国へ

── 第三者 視点 ──

チェブリス王国とクリスタ帝国との間に存在する、名もなき平原。そこを、とある商隊のキャラバンが通っていた。


「── しかし、まさかあの『雪下の誓い』を雇えるとは思ってもいませんでしたよ。」

「いえ、こちらもクリスタ帝国へ向かう用事があったので、お互い様ですよ。」


そう言って笑うのは、この商隊のリーダーと思しき、質のいい衣服に身を包んだ男性と、外套を身に纏い顔を隠した、小柄な少年だ。


「しかし、何故クリスタ帝国へ?」

「『聖女』さんから、協力の依頼が来たんです。なんでも、最近見つかった特殊なダンジョンの攻略を手伝ってほしいとのことで。」

「ほう……。……ちなみに、そのダンジョンというのはどこに?」

「流石にそれは言えませんね。もし危険なダンジョンだったりしたら危ないので。」

「それもそうですね。それより……。」


男性はそこで一度言葉を切ると、少年が持つ刀を見、言う。


「その刀は、やはり?」

「……ええ。何度も言わせていただいていますが、これは僕の命の恩人なので。」


その言葉には、絶対に刀を手放さないという強い意志が込められていた。


「そうですか。ところで……。」


男性が何かを言おうとした瞬間、外で見張りをしていた冒険者が焦った様子で彼らに話しかける。


「ほ、報告です!『魔の森』方面から、こちらに向けモンスターが!」

「……編成は?」


その言葉に、少年が反応する。彼の纏う雰囲気は先ほどまでの穏やかなものから一転し、圧倒的な猛者のそれになっている。


「オ、オークが5体に、オーガ3体、そして……。」

「そして?」

「……デュラハンが、1体です……!」


その言葉に、商隊のリーダーと思しき男性は絶望を顔に浮かべる。


「デュラハンだと!?」

「……伝令、お願いできる?」


そんな男性とは裏腹に、少年は落ち着いた様子で言う。


「ミリアに、オークとオーガそれぞれ3体ずつを任せて。で、残りの人たちでオーク2体をやって。」

「デ、デュラハンは……?」


その言葉に、少年は刀を握り、言う。


「もちろん、僕がやるよ。」


── やがて、商隊の方へ、報告にあった通りのモンスターたちが向かってくる。そして、そんなモンスターたちの前に立つのは、1人の少女だった。


輝くような金髪に、碧い瞳。その手に持つ剣は、誰が見ても業物だとわかる逸品だ。


「えーっと、オークとオーガ、それぞれ3体だっけ?……ノア君があっちをやってくれてる間に、終わらせちゃおう!」


そう言うや否や、少女はモンスターの集団へ突っ込んでいく。そんな彼女に向けオークやオーガはそれぞれ手に持った得物を振るうが、その攻撃は1つとして少女に当たらない。


「私だって、強くなってるんだよ!」


そして、そのまま手に持った剣で、オーガのうち1体の身体を一刀両断する。


「す、すげえ……!」

「あれが『剣聖』ミリア……!」

「おい!俺たちもやるぞ!」


そんな彼女の横では、4人の冒険者たちが残り2体のオークを相手取っていた。


「……くっ!」

「大丈夫!?」


しばらく耐えていたパーティーだったが、前衛の剣士がオークの攻撃を受け止めた反動で剣を取り落とす。その時、自分が相手取っていた全てのモンスターを倒したミリアが駆けつけ、そのままの勢いでオークを斬り捨てる。


「助かった!……それより、デュラハンは!?」

「……大丈夫。もうすぐ終わりそう。」


そんな彼女たちの視線の先では、先ほどの少年が自身の3倍はあろうかという巨大な鎧を相手に、完全に押さえ込んでいた。


「ノア君〜!こっちは終わったよ〜!」


そんなミリアの言葉を聞いた少年は、


「……じゃあ、こっちも終わりにするね。」


と言い、そのまま鎧を、ちょうど関節から斬り飛ばすような形で討伐する。


「す、すげぇ……!あのデュラハン相手に、無傷で討伐を……!」

「なんてったってノア君はSランクだからね〜。」

「……どう?怪我はない?」

「うん!大丈夫!」

「ならよかった。……トーリさん、行きましょう。」


そんなミリアの答えに、少年は小さく笑みを浮かべる。そしてその後、リーダーに向けてそう言った。


「あ、ああ……。……すごいな、Sランクというのは……。」


トーリと呼ばれた男性は、いまだに目の前で起こったことが信じられない様子をしていたが、出発の準備を整える。


「……とりあえず、問題はなさそうでよかった。」

「そうだね〜。」

「まあ、この辺にはこれ以上のモンスターはいなさそうだし、しばらくゆっくりしてよっか。」

「そうだね。」


そんな彼らを乗せた馬車は、ゆっくりと、そして確実に、クリスタ帝国への道を辿っていった。

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