脱出と再会①

元の体に戻ってきた僕は、まず刀の方を見る。そこには札が全て剥がれ、縄からも解き放たれた刀が宙に浮いていた。それを手に取ると、頭の中に声が響く。


「ああ、ありがとうございます……!この"風流"、この身尽きるまであなた様にお仕えさせていただきます……!」


それは、どこか恍惚としたような、彼女の声だった。


「一つ質問なんだけど、前みたいに人の姿をとることってできるの?」

そう僕が聞くと、


「はい、可能です。」

と返ってくる。


「じゃあ、出立の準備を手伝ってくれないかな?そろそろここから出て、僕のしたかったことを一緒にしに行こうよ!」

「はい……!どこまでもお供します!」


そうして1日かけて、僕たちは準備と確認を終わらせた。あの空間で最後に受け取った「魔導」のスキル、これかなりやばいスキルだった。今までぼんやりとしたイメージしか持ってなかった魔術の様々なことがはっきりとわかるようになったし、刀をしまうのに使ってたあれをスキル「時空間魔法」として体系化することにも成功した。


そして今僕は最後の確認を終え、長い時間を過ごしたこの家の前に立っていた。

こうして改めて見ると、今までの様々な思い出が蘇ってくる。それらの思い出たちを振り返りつつ、僕は家に向かい深く頭を下げる。

「今まで、本当にありがとうございました。」


──そうして家を後にした僕は、ダンジョンをひたすら上へ上へと向かっていた。

ダンジョン内に出現する魔物たちは見たことないやつばかりだったけど、正直弱くて拍子抜けしてしまった。


──だってみるからに階層守護者っぽかったでっかい黒いトカゲとかなんかいろんな装飾のついたゴツいゴーレムとかいたけど、1発ももらわずに終わっちゃったんだもん。


そんなこんなでかなりのペースで階層を駆け上って行った僕は、いよいよ見覚えのある階層── 第1階層にたどり着いていた。ここまできたらもう一息。そう気合を入れ直し、僕は階層全体に魔力の波を広げていく。


「魔導」スキルのおかげでできるようになったこの索敵、便利だな〜。何がどこにあるのかが、実際に見てるみたいにはっきりわかる。

……ん?何だこの反応。1人の人と……!


明らかにこの階層に不釣り合いな反応を感知した僕は、そちらに向かい全力で駆け出した。


── ミリア 視点 ──

私はミリア=グリーツ。このチェブリス王国を拠点に、Aランク冒険者として活動してる。今日はEランクパーティーの昇格試験の監督として、第1階層に来てたんだけど……。


「どうしてここにこんなモンスターがいるの!?」


私はモンスターの攻撃をいなしつつそう叫ぶ。モンスターの名はミノタウロス。通常、この王都ダンジョンでは第75階層より下で出てくるモンスターだ。だから、普通はこんなところにはいないはずなんだけど……。


「もしかして異常出現イレギュラー?!」


そう、ダンジョン内では、ごく稀により深いところで出現するはずのモンスターが浅い階層に出現することがあり、それを私たち冒険者は異常出現と呼んでいる。


ふつう異常出現が起こった時にはギルドで討伐隊を結成してすぐに討伐するんだけど、今回はそんな時間はない。とりあえずEランクパーティーは逃がしてギルドに報告するように伝えたけど、多分討伐隊は間に合わない。普通ミノタウロスは単独ソロで討伐するようなモンスターじゃないし、私も単独で戦っても勝てない。でも、少しでも時間を稼ぐ……!


そう考えつつ戦ってはいたけど、ミノタウロスの攻撃を逸らし損ねて剣が飛ばされる。


「あ……。」


思わず声が漏れる。

ミノタウロスは勝利を確信したのか、斧を思い切り振りかぶる。

やっぱりダメだったかぁ…‥。でも、向こう側にはきっと彼が待ってる。


「ノア君、私も今、そっちに行くね……。」


ミノタウロスが斧を振り下ろす。そして……

ザンッ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る