巨大熊の掌底大虐殺

 言葉とは記号である。それでは、記号とは何かという疑問が浮かぶ。

 現象学の創始者フッサールの言葉を借りれば、記号とは2つの意味がある。それは『表現』と『指標』である。

 本作品は熊が人を殺した時の擬音『ぱんぶしゅるるる』という言葉が印象的だ。ぱん、と蚊でも潰したかのようで、ぶしゅるるる、と血が噴水の様に溢れているように私は感じた。要するに滑稽なだ。

 しかし、起こっているのは凄惨な事態である。狂暴な熊がショッピングモールに侵入し人を次々と殺していく。その度に、ぶしゅるるる、ぶしゅるるる、と鳴り響くわけだ。読んでいく内に、ぶしゅるるる、という言葉に抱く印象が変わっていく。

 これは現象学でいうところの現前化の変容だろう。それは、ぶしゅるるる、という言葉の印象が変わっていく度に、圧倒的な熊の暴力性が読者に襲ってくるのである。


暴力:A 読みやすさ:C 面白さ:A

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る