十字架昇架

 暴力装置としての国家、ではなくリヴァイアサンと書きたかったのだけれども、とりあえずという文字を使いたかったのでこれにした。

 ホップスの『リヴァイアサン』は、もはや説明不要の名著だろう。

 権利の本質は暴力である。権利を十全に行使できる状態を『万人による万人のための闘争』とホッブズが述べたように、傷害、強盗、殺人に至るまで、すべての行為を行う権利を人は有している。

 そして、この混乱を避けるため、人々は自由の一部を譲渡し、強力な国家(リヴァイアサン)に権力を委ねる契約を結ぶ。というのが社会契約論だ。

 見方を変えれば、国家とは権利の増幅装置である。個人では抗いきれない強大な暴力機関によって、個人では守りきれなかった多くの権利が保障されるのである。

 本作品は、この国家の暴力装置としての側面を、イエスの逸話をもとに描いている。国家とはいかに理不尽な暴力をふるってくるのかを読者に突きつけてくるのだが、同時に、イエスの教えがこの圧倒的ともいえる暴力を遥かにしのぐ暴力を有していることを読者に思い出させる。


暴力:A 読みやすさ:A 面白さ:B

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