第三話 悩める冥王

少女を見たときから、ハデスの様子は少しおかしかった。

裁判の時はどこか上の空に見え、死者への判決を間違えそうにもなった。さらに、平時も壁にぶつかることが多くなり呼ばれても返事が返ってくるのが普段より遅かった。

そして何より、地上への様子を見に行くことが増えた。かつては一週間に一度の頻度であったのに今はほぼ毎日である。

(ハデス様…何かあったのか…?)

執事のような格好をした骸骨が心配していた。彼はハデスとは最も付き合いが長い骸骨であり裁判の補佐も担当していた。

(かつてはミスをする事も少なかったし、判決を間違えそうになるなど今まで無かった。しかもどこか上の空だ…。これは、確かめてみる必要があるかもしれんな…。)


そして翌日。裁判を終えたハデスに骸骨は問いかけた。

「ハデス様。」

「どうした。」

「具合が悪いのですか?」

「いや、悪くはない。なぜそのような事を聞く?」

「いえ、最近のハデス様はどこか上の空に見えますし、今日も裁判で多くのミスをしていましたので心配で…。」

「そうか。心配をかけてすまんな。」

「いえいえ滅相もない!お元気なら何よりです!」

「実はな。最近少し妙な気分なのだ。」

「と、言いますと?」

「前に地上を見に行った時、一人の少女を見てな…それから変な気分なのだ…なぜか妙に胸が高鳴る…。」

「そうなのですか…。なるほど…。ハデス様!」

「な、なんだ?」

いきなり大声を出されて少し驚くハデス。

「私が思うに…それは恋心というものだと思われます!」

「恋心…?なんだそれは。」

「簡単に言えば…ハデス様はその少女を好きになったということなのです!」

それを聞いて衝撃を受けるハデス。しかし、同時に納得もした。

(なるほど…だから最近あの少女のことばかり考えてしまうのだな…。)

「なあ…。」

「はい!何でしょう?」

「私は…その少女と仲良くなりたい…どうすれば良い…?」

骸骨に尋ねるハデス。見ると顔が少し紅くなっていた。

「でしたら…ゼウス様に相談してみては?」

「ゼウスに…?」

「はい。あの方なら女の口説き方などをご存知だと思われます。」

ゼウスとは、ハデスの兄にあたる神である。主神であり、どんなことでも可能な万能神である。ただし、女癖が悪い困った面を持っている。

「分かった…。相談してみる…。」

こうしてハデスは後日、ゼウスに相談してみることにした。

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冥王の婚姻 サイレントウイング @20060414

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