真夏の青い夢

日前 滴(ひまえ しずく)

真夏の青い夢

 「私が希望になるの」

 彼女は私にそう言った。


 私が十五歳の少年であり、彼女が十七歳の少女だった夏。

 謎の生命体アスケラが現れた。

 アスケラは富士山の上空に出現した黒い輪から這い出てきた。

 見た目は真っ青なトカゲ、体長は推定75メートル。

 富士山を下った奴は麓の町をのそのそと歩きまわり、破壊した。

 現れてから数時間、日が沈みかけてきた頃、奴は地中に潜った。

 その時点で死者は数万人に上り、すぐに自衛隊が動き出した。

 近隣の市町村には避難指示が出され、高速道路は翌日になっても渋滞が緩和しなかった。

 奴が現れてから二十時間が経った頃、東京の都心を震源とする地震が起きた。最大震度は六。しかし局所的な揺れで都心以外は震度二にも満たないほどの揺れだった。都心の被害は著しく、交通に大きな影響が出て、死者は前日に起きた惨事と同じくらいの数になった。

 しかし、この二時間後に起こることを日本の人口の何割が予想していただろうか。

 私はその恐ろしい予想を当ててしまった何割かの一人であった。

 都心で再び地震が起きた。スマホの地震速報でテレビをつけると東京の様子が映されていた。カメラの揺れは徐々に大きくなり、地面が盛り上がってきたと思った次の瞬間青い何かが地面から現れた。アスケラだった。地震は奴が地上に這い出ようとしたことで起きたのだ。

 アスケラという名前は妖怪研究家がSNSで「あれは日本の伝承に出てくるアスケラという化け物だ」と言ったことから広まり、政府もこの呼び名を採用した。


 奴が地上に出てきた数時間後東京は壊滅状態になり、奴はまた地中へ潜った。

 「次に奴が地上に這い出てくるのはここかもしれない。」

 日本住む者は皆一様に凄まじい恐怖に支配された。

 人々がとった選択は様々だった。

 国外に逃げる者、北海道や沖縄に逃げる者、自分は大丈夫だという根拠のない思い込みで何もしない者、いつも通り通勤する者。

 私は家族とともに母の実家がある青森に逃げた。

 そこで会ったのが彼女だった。縁側に腰かけていた私に声をかけてくれた。

 彼女も同じく避難してきたと語った。

 私たち二人はほぼ毎日夏の日差しに照らされながら縁側で、暑ければ家の中で将棋などをして仲良くなった。

 その間にも奴は昼間の間歩き回って少しずつ死者を増やしていた。


 ある日いつものように縁側に来た彼女は私にこう言った。

 「私アスケラを倒したい。一緒に来てくれない?」

 私は何を言っているのか分からなかったが二つ返事で了承した。私は彼女に恋していた。

 奴は仙台にいた。私はスマホで電車を調べた。

 「じゃあ行くよ。」彼女は唐突に私の手を握り言った。

 気が付くと私の目の前には真っ青なトカゲがいた。

 私が状況を理解できないでいると彼女は満面の笑みで言った。

 「私が希望になるの。みんなの希望に。仲良くしてくれてありがとう。」

 彼女の体は神々しく光り輝き、それと共にアスケラも発光した。

 次の瞬間彼女もアスケラも跡形もなく消えていた。


 あれは夢だったのではないかと今でも思う。しかし死者は誰一人戻ってこなかった。

 私は今でも夏の日差しに彼女の笑顔を思い出す。




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