第2話
「ここ?」
地図に従って進むととある家の前に出た。
真っ赤な屋根にベージュの外壁。庭には薔薇が咲き乱れている。
「ご近所さんだ…」
僕の家から歩いて5分。学校では魔女の住んでいる”魔女の家”と呼ばれている。メルヘンチックで可愛いのに…
とりあえず、インターホンを鳴らす。
「…誰?」
刺々しい声がした。広告を張り出したことを忘れてるのか?
「広告を見てきたんだけど」
すると声の主は態度を一変させて楽しそうな声になった。
「来てくれたの!?待ってて、今鍵を開けるから!」
カチャリ、カチャリと鍵が開く。
ガチャッと音を立てて扉が開く。
「ようこそ、解呪師さん!」
門の向こうで彼女が言う。
そう、家の扉の前には門があった。
「ってそういえばこの家には門があったね!開けて入ってきてくれる?」
「いいの?」
勝手に開けて入っていいものか。
「私、外に出られないから」
外に出られない。そういえば、この家から彼女が出入りするところを僕は見たことがない。それが”呪い”に関係しているのだろうか。
「…詳しい話は中に入ってからね!」
「お邪魔します」
これが僕と彼女の、解呪師と姫の出会いだった。
「とりあえず、ここに座ってて。お茶持って来るから」
元気だなぁ。それが僕の彼女に対する第一印象だった。外に出られないなんて全く感じないほど。きっと、体に異常をきたしているものではないんだろう。
いや、何真面目に呪いについて考察してんだ。 解呪師として呼ばれたわけだからその事自体は当たり前なのだが。呪いなんかあるわけ無い。この子に何があったとしてもそれはなにか別の要因があるはずだ。
「はい、お茶」
「あ、ありがとう」
年が近そうに見えたからか、敬語のことを忘れてしまう。
「私は神埼沙紀。よろしくね」
「僕は天宮薫。よろしく」
神埼沙希…?どこかで聞いたことあるような。まあいい。今はそんなことより呪いのほうが重要だ。
「呪いって何?」
「いきなりそれ?」
「いや、だって僕は呪いなんて存在しないって証明して安心して寝たいんだよ」
彼女が少しの間黙る。気を悪くしたかもしれない。
「あはは!あなた面白いね!」
え?
「なんで?」
「だって普通はそんなこと言わないもん」
気を悪くしたわけではないらしい。
「で、さっきの質問なんだけど…」
「あぁ、どんなものかってこと?それはね、」
この家から出られないの
「え?」
「どんな手段を使ってもこの家からは出られない。一度、買い物に行こうと外に出たの。そしたら、いつの間にか自分の部屋に居て、片手にカッターを持ってた。それ以来、外に出ようとはしてない。」
あの時感じた恐怖は今も忘れられないわ、と言う彼女はどこか寂しそうに見えた。そしてすごく苦しそうだった。
「外にね、出たいの。最後に外に出たのは小学生の頃だから。でも、呪いがあるから出られない。」
呪いなんて非科学的なものあるわけがない。そう思っていた。今もそうだ。これは呪いじゃないと証明したい自分がいる。でないと恐れてしまうから。
「ねえ、呪いを解いて私を自由にしてくれる?」
「わかった。」
断ることができなかった。あの、苦しそうな寂しそうな顔を見た時点で僕は負けていた。
「何をすれば良い?」
「呪いの原因を探してほしいの。それがわかれば解決方法が見えてくるかもしれないから。」
何故、彼女が外に出られなくなったのか。僕は彼女と知り合ったばかりで何もわからない。そんな僕に頼んだところで無理だろう。それくらい気づくのではないか?
「鍵、渡しておく。いつ来てもいいよ。」
手の上に冷たい感覚があった。
「そんな簡単に渡しちゃだめでしょ。僕が悪者かもしれないのに」
「悪い人は自分で悪人なんて言わないでしょ」
いや、そうなんだけどさ。
「警戒心を持とうよ」
「大丈夫。別にもう、されて困ることなんて無い」
諦め、だろうか。その時彼女の目は少し怖かった。
「ま、犯罪者が来てくれたらそれはそれで楽しそうだし!いつでもウェルカムだよ!」
やはり、この子は不思議な子だ。
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