よくある悲劇
「そうか、なら死んでもらうぜ!」
リーダー格とショートソード持ちが突撃をしてきた。
私は背中に紐で結んでいた槍を持つ。
この槍は特注で作ってもらったもので、槍の穂先がナイフや剣のような形状をしている。所謂、薙刀に近いかもしれない。
足は速くないが、二人同時はちと厳しい。
「おらぁぁぁ!!」
二人同時に上段からの振り下ろしが来た。
「くぅぅ!」
槍の柄でリーダーを受け、穂先でショートソードを受ける。
かなり力強い。リーダー格は元軍人とかそんなところか?ショートソード持ちもそれなりだが、
「そら!」
リーダー格を足払いを使った力業で押し退ける。
「ぐわっ!?」
「あぁ!?」
やはりショートソード持ちは素人だった。リーダーが後ろに飛ばされたのを見た途端、情けない声を上げて剣に力を入れられなくなった。
その隙を逃がさないように、少し遠心力をつけてショートソード持ちを槍の穂先で首目掛けて叩き斬る。
ショートソード持ちは声も上げずに、鮮血を撒き散らしながら倒れた。まずは一人目。
「クソッ!いけ!」
リーダーが小楯持ちに声を掛けると小楯が飛んできた。
「マジかよ!」
風切り音をすぐそばで聞きながら、もう一度突撃してきたリーダーの剣と自分の槍で何度か打ち合う。
「まさか躊躇いもなく殺すとは恐れ入るぜ。」
リーダーが攻防をしながら話しかけてきた。
「随分余裕そうじゃないか。」
「まさか、今にも倒れそうだぜ。」
何でこいつは笑ってるんだ?
こいつは何を………っ!?
「へっ!」
しくった!小楯持ちの警戒を忘れてた。
小楯を持っていた男に後ろから羽交い締めをされる。
「へへへっ!こうなりゃ俺達の勝ちだな。」
リーダーは舌舐りをしながら私の胸を触る。
「皮の服を着てるせいでそこまでだが、悪くわねぇな。よし、お前はそのまま抑えとけ!」
小楯持ちに怒鳴り付けると、私の槍を奪い、リーダー格はショートソード持ちの死体に向かって歩いていった。
「へへへ……」
この小楯持ちは私が抵抗せずリーダー格に触られたところをみて、少し魔が差したようだ。少しずつ力を緩めて、強引に胸に手を伸ばしてきた。
そろそろいけるかね。
「っづ!?」
緩んだ隙を見て、小楯持ちの顔に肘打ちを見舞う。
鼻血を吹き出し、尻餅をついた小楯持ちは何が起こったのか分かっていないのか、何も言わずにポカンとしていた。
その隙に私はリーダー格に向かって走り、後ろから右肩を狙って、腰に差していたナイフで突き刺す。
「うっ!?ぐぅわぁぁぁぁぁ!!!!?」
突然の痛みに、我慢出来なかったのだろう。右肩を押さえながらその場に座り込み、泣くように叫んでいた。
「ちっ!」
何となくムカついたから、その背中を思い切り蹴り付けて、紐でリーダー格を締め上げる。
「ぐっ!あぁぁぁ!てめぇ!!」
何やら喚いているが、あんなの無視無視。
私はリーダー格が持っていった槍を拾いながら、小楯持ちの方に振り向いた。
流石に立ち直っており、小楯を構えながら前傾姿勢で縮こまるように立っていた。
「悪いけど、捕虜は一人で十分なのさ!」
私は小楯持ちに向かって槍を繰り出す。走りながら、回るように遠心力を付ける。
小楯持ちも必死で受け止めようとしたようだが、小楯ごと吹き飛ばした。
「じゃあね。」
痛がる小楯持ちに近付き、そのまま小楯持ちの首に穂先を突き刺す。
死んだのを確認して死体を二つともパライルの国境ギリギリに投げ入れた。
めっちゃ重かった。
「てめぇ!ふざけんなよ!!ぶっ殺しt…………」
「しないと思うけど、舌を噛まないように口に………石でも詰めとくか。」
流石に五月蝿かったため、ぶん殴って気絶させて口の中に手頃な石を詰め込み、持ってきていた縄で口と腕と足を縛る。
「アンケイドくん!!いるんじゃないかい!?」
私が探るように叫ぶと、少し遠くの茂みが揺れる。
「コルテさん!僕です!アンケイドです!槍を降ろしてください!」
どうやら無事みたいだ。ここら辺意外と魔物が多いからね。
「良かったよ、アンケイドくん。もしもここにいなかったら私は一人で叫んで恥ずかしい思いをするところだったよ。」
「僕が死んでるとは思わなかったんですか?」
「そうだねぇ。最初に焚き火の跡を見た時に血の跡が無かったし。あのショートソードは急いで隠れた時に置いていったんだろう?」
「そうです。」
「だろうね。もし、呆気なくやられていたのなら、敵が態々火を消すとは思えなくてね。あの小楯が飛んできて、火を消して直ぐ様逃げたのは褒めるべき行動だ。それでアイツらが君のことを帰ってこないか待ってたら私が来ちゃったって感じだよね?」
「すごいですコルテさん、六級なだけはありますね。」
「煽てたって何も出ないよ。さぁ、荷物は荒らされて無いようだし、帰りの準備をしなよ。」
「そうですね!ありがとうございました。」
アンケイドがギルドに干渉される程なのがよく分かったよ。その都度礼儀正しく、今やっている夜営地点の片付けも早くて的確だ。有望なのは間違いないだろう。何か厄介なのも持ってそうだけど…言わぬが花ってやつね。
「あっ!辺りの警戒まで任せてしまって申し訳ありません!」
「いいよいいよ。さぁ、一緒に帰ろう。」
「意外と面倒見が良いんですね。」
「意外とは余計だねぇ。あっ、キュウリいる?」
「あぁ、じゃあ、貰います。」
パリパリパリ
パリパリパリ
二人で無言で食べる音はなかなかどうして、聞いてていい気分になった。
あ、マイバルの咀嚼音は無しで。アイツ唾液多いからぺちゃぺちゃ音すんだよなぁ。
「そういえばその盗賊は引き摺ったままで良いんですか?」
アンケイドが後ろに目を向けながら聞いてきた。
「あ?良いんだよ。なるべく平らなとこ選んで歩いてるし。大丈夫でしょ。」
まぁ、身体中に真新しい切り傷が見えるけど………別にいいだろ。
「そう…ですね。
その盗賊ってどうなるんでしょうか?」
「あー取り敢えず拷問からの奴隷送りだけど、こいつらはパライルの奴らだろうからどうだろうな。」
「なんでパライルの人間って分かるんですか?」
そっかぁ、最近は戦争が無かったから分からないか。
「パライルの人はな、ロングソードを振り上げながら斬り付ける戦法を多用するのさ。軍でもよく使われてる。
それともう一つ、小楯だ。小楯しか持っていないのはパライルのギルドメンバーがよくやる戦法だ。小楯に鋭利な細かい刃を仕掛けて、攻撃にも防御にも使えるようにな。」
「へぇー、便利なんですか?」
「知らん。使ったこと無いし、楯ごと人を飛ばせば済むしなぁ。まぁ、使い方だろ。」
アンケイドが反応に困ったように苦笑いを浮かべた。私だって知らないものは知らないのさ。
「おっ、森を抜けたか。」
「そうですね。取り敢えず一安心です。」
伐採され、開拓された土地ではあまり魔物が寄り付かない。森と魔物が深く関わってるのかもと思うが、そういうのはお偉いさんの御仕事だし、放置一択ね。
途中何人かのギルドメンバーとすれ違ったが、後ろのこいつを見て「あぁ」みたいな反応して同情の目をに向けてきた。助けてくれても良いのになぁ?
「ラフィリアぁ~戻ったよぉ~。」
「すみません。遅くなりました。」
アンケイドくんと二人でギルドの建物内に入る。
盗賊のあれは門兵に引き渡しておいた。どうなるかは……興味ないや。
「アンケイドさん御無事でなによりです!
それとコルテさんもお手数お掛けしました。」
ラフィリアは嬉しそうな、何だかホッとしたような顔で深く頭を下げた。
「僕は無事です。盗賊には襲われましたが、コルテさんに助けて貰いました。」
「そうだったんですか!?コルテさんに頼んでおいて良かったです。」
「アッハッハ。気にしないでよ。それと盗賊は門兵に引き渡したからそっちで確認してね。」
「承知しました。
それではアンケイドさん。少し問題は起きましたが、調査の報告書をこちらに。」
ラフィリアは一枚の紙を取り出し、アンケイドに渡す。報告書とは依頼の内容を事細かに書かなければいけない……わけでは無いが少しでも矛盾があると、ギルドからの評価が下がり、一定までいくと十級に落とされてしまう。
調査って実入りは良いけど、報告書を書くのが特に面倒なんだよねぇ。
「はい。纏めておきます。」
アンケイドはギルド内にあるテーブルイスに座り、書き込み始めた。
「真面目だねぇ。」
「そうですね。彼のような方が被害に遭わずに済んで本当に良かったです。」
「そうだね。」
何だろう?さっきから視線を感じる……
「あのーラフィリアさん。何でしょうか?」
「いえ、レッドワイルドボアの討伐はどうしたのかなと………」
「…………………行ってくるネ。」
「はい、お気を付けて。」
私はすごく気まずい雰囲気を感じたがやはりプロ。ラフィリアは何も無かったかのように対応をしてくれた。
赤猪に関してはすぐに終わった。
だって誘導して木に激突させて、隙が出来たら槍で突くだけだからね。
……こういうことしてるから五級に上がれないのか?
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