病は病院へ

白川津 中々

◾️

劇的体調不良。

頭痛と寒気。節々の痛み。高熱。経験則から分かる。完全にインのフル。やらかした。病院へ行こうにも昨日風呂も入らず遊び倒していたため外に出られない。どのような状態でも世間様の目は気になるもの。身なりはしっかり整えたいわけである。とはいえ現状を鑑みるとシャワーを浴びられるかも怪しい。しかし病院へ行かなくては薄く硬いせんべい布団が墓場となってしまう。まだ死ぬわけにはいかない。というわけで対処療法。とりあえず健康に良さげなものを食べて自己治癒力を高めようという原始的アイディアを思いつく。一旦自然回復で体調をある程度整え、然るべきタイミングでシャワーを浴び病院へゴーという算段。えいやで起き上がり、目眩に耐えて冷蔵庫を開けると、空。昨日の夜更かし中、暴飲暴食を敢行した結果食材が完全に消失していたのだ。これはまずい。なにか胃に入れなければと体を引き摺りリビングへ移動。備蓄を見ると、残っているのはレトルトカレー最強辛口のみだった。栄養素は間違いなく偏っている。しかし偉大なるガンジスの歴史とスパイスがウィルスなどに負けるわけがないという論理的思考により行動決定。パウチパックを温める。レンチン可能で即準備。ライスはなし。熱々のカレーを皿に注ぎ、スプーンで掬って口に入れる。瞬間、脳にバチバチと響く衝撃。痛みを伴う辛さが舌から脳へ。嚥下すると食道から胃までがズタズタに引き裂かれるような感覚が走った。これはまずいのではと思ったが、吹き出す汗に期待できるデトックス。これは多分きっと良質な効果が現れるだろう。決意を固め、皿を持ち上げ傾けて、雪崩のように落ちるカレーを呑み込み下す。そして体内が地獄となった。堪らず冷蔵庫へ駆け込み水を飲もうとするも、ない。そうとも冷蔵庫は空っぽなのだ。襲いくる胃の痙攣。明らかに、まずい。死ぬ。観念。タクシー呼んで病院へ。


道中、コンビニに寄ってもらい、水を買って飲んだ。俺はいったい、なにをしているんだろうという考えが頭を過り、涙が出てきた。暑い、春の日のことだった。

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