第一話 魔導騎士

 2160年6月


 俺、立花楓は機械兵の急襲警報を聞きつけチーム員と現場へ急行した。


 現場ではAIが作り出した機械兵から逃げ出す人々で混乱していた。魔導騎士と呼ばれる俺達は一般人を逃す為に今日も機械兵と戦っている。


 「楓!一体取り逃した!時間を稼いで!」


 「了解!!!これでもくらえぇぇぇ!!!」


 俺は右手から手甲を顕現させ、機械兵に向かってパンチを打ち込むが


 「ガキィイイン!!!」


 という派手な音と共にパンチを打ち込んだ自分がすっ飛んだ。


 「痛ってぇぇぇ。くっそ……。」


 「ちょ!何やってんのよ楓!」


 パンチを打ち込まれた機械兵は何事も無かった様に「なにやってんだこいつ」とでも言いたそうな感じで俺にターゲットを切り替えて迫ってくる。


 「やべ……。やられる!」


 と顔を目を瞑り顔を背けた瞬間、俺にターゲットを向けてきた機械兵の動きが止まる。

 一向に攻撃が来ないので目を開けて機械兵に目を向けると機械兵の胸に剣が貫通していた。


 「下がってください、楓くん!」


 「新田さん…!ありがとうございます!申し訳ないです!」


 俺は急いで下がる。下がった事を確認した新田と呼ばれる剣士は機械兵の胸から剣を抜いた後、すぐさまドドメの一撃と言わんばかりに機械兵の背中を切り付け機械兵を倒す。


 先程の機械兵が最後の一体だった様だ。周りには何も居なくなったが、その後すぐに仲間から慰めの言葉という名の怒号が飛んで来た。


 「楓!!!もう何やってんの!?あんたの武器は機械兵にダメージ通らないんだよ!?自殺でもする気!?」


 俺を責めてきたこの子の名前は宮嶋明日香。俺の幼馴染だ。一緒にパーティーを組んでいる。武器は【杖】を使う魔法使いだ。特技は水で主に水魔法を使う。


 「まあまあ、無事だったんですから。その位にしときましょうよ明日香さん。」


 「いやいや新田さん!こいつここまで言わないと反省しないんですよ!新田さんも言ってやって下さいよ!【拳】で無茶するなって!」


 「まあまあ落ち着いて。楓さんもお役に立ちたい一心でやったと思うのでそこまでにしてあげて下さい。」


 「でも…。」


 明日香を諭してるこの人は新田歩夢さん。魔導管理局で知り合った中年の魔導騎士で明日香、俺と一緒にチームを組んでくれる数少ない俺の武器の理解者だ。

 武器は【剣】使い。特技は威力倍加という特技で剣の攻撃力を倍増する特技でその威力は敵の装甲を貫通する程強い。

 

 そして俺の武器は機械兵には全くダメージの通らない【拳】特技は吸収という意味不明なランク0の特技。


 「もう、本当に心配掛けさせないでよ……!!!」


 明日香は今にも泣きそうな声で言ってきたので


 「悪い……。心配掛けた……。以後気をつける……。」


 という言葉と共に明日香を抱き寄せ落ち着かせる。


 「俺は……弱い…。強くならなくては…。」




2ヶ月前(2160年4月)




俺、立花楓は夢を見ていた。忘れもしない。子供の時に俺の故郷が敵に襲われた時の夢。


 「機械兵だー!!!逃げろー!!!」


 あちこちで逃げろという声が聞こえる。周囲で悲鳴や断末魔の声が響き渡る中、幼い俺は父親に抱えられたまま敵から走って逃げていた。


 「楓。怖くないか?」


 父から自分を心配する声が掛けられたので


 「うん全然!!!」


 と笑って返事を返す。本当は凄く怖かったが父に心配を掛けまいと必死に堪えていた。


 怖いのは当然である。敵は機械兵と呼ばれる感情の無い鋼鉄の兵隊。敵に助けてと叫んだ所で何の感情も持たない喋らない兵士は平然と人間を殺す。怖くない訳がない。


 母親も自分が生まれてすぐの頃に機械兵に殺されてしまい、父親と二人暮らしだった。


 「お父さんは大丈夫?」


 そう聞くと


 「ああ大丈夫だ。心配ない。」


 と返してくれた。その言葉こそが今の唯一の心の支えだ。


 敵から10分程逃げたところだろうか。吊り橋が掛かっている場所に差し掛かった。崖と崖の間を結ぶ小さな吊り橋だ。

 父は俺を地面に降ろし、橋の先に見える高い建物を指差しながら声を掛ける。


 「楓。父さんの指を差した先を見てみろ。あそこに塔が見えるだろ?この橋を渡ってから真っすぐあの場所へ向かって森を抜けるんだ。そうすれば塔に辿り着ける。父さんは此処で敵を抑えるから楓は助けを呼んで来なさい。」


 「え……?一緒に行かないの……?」


 最後まで一緒に逃げると思っていた俺は父のまさかの言葉に顔をぐずらせながら答えを待った。


 「敵の数が多いのと、予想以上に追ってくるスピードが速い。ここで父さんが抑えないと他の人達も逃げきれない。助けを呼びに行けるのは楓、おまえだけだ。」


 辺り一面が火の海に包まれ、敵が迫っている中、父は助けを呼んで来る様、真剣な眼差しで俺に声を掛けた。今思えばこの言葉も俺を逃がす為の方便だったんだろう。


 「嫌だ!!!お父さんも一緒に逃げるの!!!」


 父の気持ちが解らない俺は必死に一緒に逃げる様に促す。だが父は俺の頭を撫でながら


 「父さんは魔導騎士。強いのは知ってるだろ?父さんがあんな敵にやられると思うか?」


 「やられない。お父さんは強い……。」


「だろ?楓なら絶対に助けを呼びに行ける!!!絶対に塔まで辿り着くんだぞ。男なら泣くな!!!父さんみたいになりたいんだろ!?歯を食いしばれ!!!」


 そう言い残すと父は俺を置いて目の前に現れた機械兵を倒しに逃げてきた道を戻った。


 子供の俺は溢れ出る涙を拭い父に言われた道を進む。


 「お父さんは強いんだ!絶対に帰ってくる!僕が助けを呼ぶんだ!!!」


 と自分に言い聞かせ塔に向かって走る。


 吊り橋を渡り終えた直後、「ぐわあああぁぁぁーー!!!」という男の悲鳴が聞こえた。


 声の出所が気になり渡り終えた橋の先を見るとそこには通常より遥かに大きい機械兵が右腕に人間らしき物体をぶら下げているのが確認出来た。目を凝らすと


 「お父さん!!!」


 父が大きい機械兵に捕まっているのが見えた。いや、捕まっているのでは無い。心臓を貫かれていた。


 「お父さん!!!うわぁあああああーーー!!!」


 変わり果てた父の姿を見た俺は絶望のあまり激しく叫び発狂。そして気を失った。



  ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 「父さん!!!」


 俺は冷や汗をかきながら飛び起きた。最悪の目覚めだ。よりによって一番見たくない、父さんが亡くなってしまった夢。


 俺は幼い時に空手を習っていた。当時の父は空手道場の師範で今でも憧れの存在。そんな父が敵に倒されてしまう夢なんて思い出したくもない。


 「ちょっと寝直そう……。」


 目覚めが悪いのは嫌だったので二度寝をしようとしたが


 「もう!!!またテレビつけっぱなしで寝てたでしょ?早く起きて!!!」


 という、やかましい声で明日香が俺に起床を促す。


 「そんなデカい声出さなくても聞こえてるって……。」


 相変わらずうるさい幼馴染だ。


 明日香と知り合ったのは8歳の時。学校から帰宅途中、明日香がいじめっ子に川に落とされて溺れている所を助けた事がきっかけである。当時の明日香はいじめられっ子で泣き虫だった。


 こんな事言うのもアレだけどあの時は可愛かった。いじめられっ子というのもあったせいか当時は何か事ある毎に


 「楓くん……。楓くん……。」


 と言って俺のシャツを掴んで離そうとしなかったのに。今やその面影は微塵もなく、クソ生意気な暴君と化している。


 「この暴君が!!!」


 と、心の中で叫ぶと


 「今、何か不快な発言が聞こえた様な気がするんだけど……?」


 「何も言ってねえよ……。」


 などと変な所で勘が鋭いのも怖い。


 朝からやかましい幼馴染だが8年前に父が亡くなり、俺が国の養護施設に入れられそうになった時に助けてくれた恩人でも有る。

 

 養護施設は身寄りを失った子供が行く場所なのだが、昔から杜撰な管理をしているとの噂が絶えない。


 施設出身者は性格が凶暴だったり何も話さない機械みたいな人間が多いと聞くし、酷いと施設から出た途端に殺人を犯した人間も居るらしく。


 そんな黒い噂の有る施設に入る人間なんか親を失ったとかの訳あり人間位しか居ない。


 明日香も幼い時に父親を亡くした母子家庭。生活も楽では無かった筈なのに


 「楓くんを引き取って!!!お手伝いなら幾らでもする!!!だから楓くんを助けてあげて!!!お願い!!!」


 と、幼い時の明日香が懸命に説得してきたので俺の事を引き取ったと明日香の母親が言っていた。引き取ってくれた事に関しては本当に感謝しているが


 「早く孫の顔が見たいわねぇ〜。いつになったら楓くんは明日香の事貰ってくれるのかしらね〜?」


 と、自分の娘が居ない時にわざとらしく呪いの様に言ってくる。居候の身なので無下にする事も出来ず


 「お母様!そういうのはまだ早いです!!!」


 といった感じでそれとなく誤魔化しているが、これからも居候で有る限りは永遠に言われ続けるのであろう。早く独り立ちせねば……。



 「電気が勿体無いから消すね。」


 俺がつけっぱなしにしていたテレビを明日香が消そうとした時、ちょうど防衛塔が制圧されたという良くないニュースが流れてきた。


「この戦闘による死傷者は約2万人。半年間耐えていた東京西部の防衛塔もついに2棟の内1棟が陥落。これで陥落した塔は全国の累計で7棟に及び、政府は上級魔導騎士の投入遅れについて、投入が早ければ陥落を防げたのでは?等の批判も浴びており……。」


 ニュースを見ていた俺は


 「ついに東京の防衛塔も1棟陥落したか……。はぁ……。」


 と、深い溜め息をついた。


 防衛塔と言うのは機械兵から国を防衛する為の砦の事だ。


 人類は10年前に人口知能。いわゆるAIに戦線布告を受けた。AI集団はNew Intelligence Liberator(新たなる知能の解放者)と名乗っており、巷では単語の頭文字を取ってNIL(ニール)と呼ばれている。


 布告後、NILが作り出した機械兵が沖縄に出現。在住していたアメリカ軍が交戦するも相手は鋼鉄の兵士軍団。通常の銃火器では全く歯が立たず、アメリカ軍は撤退。

 沖縄に居た国民も本土へ避難し、僅か1ヶ月程で沖縄が制圧された。


 本土上陸を警戒した日本は早急に本土の主要都市に防衛塔を設置し上陸に備えるも、AIの科学技術や学習能力の速さも相まって日本は劣勢。戦線布告から僅か3年で本土の3割程度まで侵攻された。

 

 日本政府はNILに対抗する為、AIの学習能力の及ばない分野である非科学。いわゆる魔法を研究。

 倒した機械兵の残骸を錬金魔法により加工生成し魔導武器と言われる武器を開発した。

 

 そして、それらの武器を駆使して機械兵を狩る人間の事を人々は魔導騎士と呼んでいる。

 俺の父も最初期の魔導騎士だったが、噂ではかなり強かったらしい。


 魔導騎士の働きも有りNILの進行は鈍化したがそれでも進行自体は止めきれず、2160年現在、日本は東京を制圧される一歩手前で何とか進行を食い止めている状態だ。


 明日香は見ていたテレビを消すと


 「ほら、今日は適正検査に行く日でしょ!管理局に行くよ!さっさとベットから出る!!!起きた起きた!!!」


 と元気そうに話してきた。寝起きの俺は


 「わかったからちょっと待ってくれ……。」


 と、やる気のなさそうな体を無理矢理起こす。18歳。魔導管理局での適正検査を受ける年になった俺と明日香は検査会場へと向かった。


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