第1章:新たな世界の扉

遠くに広がる大森林は、王国にとってただの森ではない。人々はその森を畏れ、尊び、そして大切にしてきた。木々の間には古からの魔物や神聖な存在が眠っており、森自体がひとつの生き物のように脈打っていると言われている。村の人々は、常にその静寂の中で暮らし、訪れる者は一歩足を踏み入れるたびに、誰もがその空気に圧倒されるのを感じるだろう。


大森林の深奥に広がるその静けさは、他のどんな場所とも違う。木々の間をわずかな風が通り抜けると、葉が震え、森全体がひとつの呼吸をしているかのように感じられる。その緑の海の中には、時折、異形の影がうごめくこともあるという。それが人間の目に映ることは滅多にないが、深く森に住む者たちにはその存在を知っている者も少なくない。大森林は、自然の秩序が保たれる神聖な場所であり、そこに住まう者たちの守護者として、どんな脅威からも森を守っている。


村人たちの間には、古くから語り継がれた話がある。その話の中で、森の深い場所に住む者が、時折村を守るために現れると言われている。誰もその存在を見たことはなく、その姿を語る者もいない。だが、全ての村人はその者が存在していることを疑うことなく信じている。


その者は、神様のような存在であり、伝説の中で語られる「守護者」だと言われている。その名は知られていない。村人たちはその者をただ「守護神」と呼ぶことが多い。森の奥深くからひっそりと現れ、村を外敵から守る役目を果たしているらしいのだが、姿を見た者は誰もいないため、実際にどんな姿をしているのかは誰も知らない。何度も村の周りを徘徊し、気配を感じる者はいるが、それが本当に守護者であるかどうかも分からない。ただ、村に災難が降りかかるようなことがあれば、その存在が無意識のうちに守ってくれるのだと、村人たちは信じて疑わない。


そして、森の奥から何かが出てくる気配を感じた者は恐れ、すぐに避ける。それが守護者であったとしても、その姿を見たら恐怖を感じるに違いないからだ。村人たちはそれを「神聖な力」として尊重し、決してその領域に踏み込むことはない。もし、村のどこかで異変が起きれば、その者が現れると信じているのだ。


その者がどこに住んでいるのか、何者であるのか、誰も確かめた者はない。しかし、村を守ってくれていることに、村人たちは感謝している。彼らにとってその存在は、ただの伝説や神話の一部に過ぎないが、それでも間違いなく村にとって重要な役割を果たしていると信じているのだ。


王都に向かう決意を胸に、フィンは村を出発した。村の人々に別れを告げることなく、静かに旅立つ決心を固めていた。王都には、きっと新しい世界が広がっているだろう。あの女性たちにもう一度出会うために、もっと近くで触れ合うために。その思いが彼を突き動かしていた。


数日後、王都に到着したフィンは、その賑やかな街並みに圧倒されながらも、目の前の新しい世界に心を躍らせていた。王都の中を歩いていると、数えきれないほどの人々が行き交い、あらゆる商売が営まれている。異種族の者たちも普通に歩いており、その美しい姿にフィンは心を奪われた。彼の目は、ひときわ美しいエルフや、妖艶なサキュバスにすぐに引き寄せられた。


王都の中央にある冒険者ギルドへ向かい、フィンはその重い扉を開けた。中は賑やかで、さまざまな冒険者が集まっている様子だった。掲示板にはさまざまな依頼が掲示されている。フィンはしばらくその掲示板を見つめ、ここで何かを見つけることができるのではないかという期待に胸を膨らませた。


ギルドのカウンターに近づき、ひとりの女性がにこやかな笑顔で彼に声をかけた。


「冒険者登録を希望ですか?」


フィンは頷きながら、新たな生活を始める決意を固めていた。これから何が待っているのかはわからない。しかし、ひとつだけ確かなことは、彼がここで新たな冒険を始めるということだった。


「はい、お願いします。」


その言葉と共に、フィンは新たな世界へと一歩を踏み出した。

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