7,純度100%の世界観

「準備は良い? 今から同期するからね?」

「明確なタイミングがわからない以上準備なんてできっこないわ。勝手に始めちゃっていいわよ」

「それなら遠慮なく。ほら、どうぞ」


 せめてもの合図として紫澱が指を鳴らすと、少し遅れて望美の瞳にアメジスト色の煌めきが宿った。


「おぉ……? ……うぁ、ちょっ、ちょっと待って、酔うかも」

「あ、視えた?」

「視え過ぎだわ。待ってねごめん、その眼鏡貸してちょうだい」

「あ~そういうことね。はいはい、どうぞ」

「ありがとう……うわ待ってさっきよりはマシになったけどこっちも中々に気持ち悪いわ。ぐっわんぐわんする」


 どうやら目論見が成功したらしい望美は、生まれて初めて視る純粋な世界を前に圧倒される。

 一度情報量を減らし脳の負担を軽くするため眼鏡を借りはしたものの、これまた生まれて初めて視るフィルター越しの景色に平衡感覚を弄られたような錯覚を起こしてしまった。


「あ~、ちょっとずつ落ち着いてきた。見たくないものまで視えるってこういうことを言ってたのね」

「完全に純粋なものはそうでないものにとって毒になる、これは何事でも一緒よ。眼鏡があって助かったでしょ?」

「いやほんと、便利ねぇこれ。どこで買ったの?」

「昔立ち寄った商店街でちょっとね。安かったわよ」

「へぇ~。明らかに普通じゃなさそうだけど。今度私も行ってみようかしら」


 先ほどまでのふらつきが嘘のように、もうこの景色にも慣れたらしい望美は眼鏡を付け外ししながら世界の違いを楽しんでいる。

 紫澱もその早さには驚いたようだが、普段から自分との体力や身体能力の差を見せつけられていた彼女は「体が丈夫だと慣れるのも早いのね」と勝手に納得した。

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