第2鏡

「あれ?」


 そのあと、一瞬目の前が白くなり、何となくチカっとして見えた。目をぱちぱちさせて、さっきの文字のあった場所を見つめてみても、そこには何もない。指で擦ってみても、同じことだ。


「なんだったんだろ。」


 私は、気を取り直して、髪をとくために鏡を見た。すると、何かがおかしい。


 映っているのが、私ではない。


 息をヒッと吸い込むと、そのまま止まった。そして、なんとも言えない声が喉をうわずって出てくる。それは、言うなれば「きゃ〜!」だったのだろう。

 けれど、音は聞こえないにしても、目の前の相手も同じく叫んだに違いなかった。そんな様子だった。


「何、こわ。怖いんだけど。え?」


 恐る恐るもう一度覗き込むと、相手も同じように覗き込んできた。向こうも、部屋の照明は消えていて、どこかからオレンジの灯りが彼に当たっているように見える。

 相手は男の子だ。男の子と言っても、とても美しい男の子に見える。正面で分けられた前髪に、スッと嫌味のない鼻、目は優しさを帯びた二重に、女の子のように愛らしい唇をしている。私は、ついこの間、昔の映画を見た時にこんな気持ちになったな、と思った。

「小さな恋のメロディー」に出てきた男の子だ。主人公のマーク・レスターのような甘い雰囲気を持った日本人。(ややこしいな)

 お母さんが好きでおすすめされて見たけど、キュンとしたんだよなあ。

 あのマーク・レスターは小学生くらいだけれど、目の前にいる男の子は、あんなに幼くはない。ギリ中学生か、高校生になりたてくらいか。幼さを残した男の子。


 しかし、こんな夜に、美しい男の子の顔がぼんやりと鏡に映っている状況は怖すぎる。

背筋を凍らせながらも、私はじっと彼を凝視した。彼もまた、こちらを伺っている。

 そして、ついぞ口を開いた。その口はパクパクと動いているけれど、多分「だれ?」と言っている。

私は、慌ててスマホを使いメモに「あなたこそ、誰?」と打った。彼は驚いた顔をしている。そして、同じくスマホを出して、何か打っている。


「こっちが先に聞いたんだ。怖いんだけど。幽霊?」


 それはこっちのセリフだー!

もしかしたら、相手には相手の鏡の中に私がいるのかも知れないな、と思った。


「生きてる。こっちは鏡にあなたが映ってるけど、そっちは?」


彼は、ハッとした顔をして、素早くスマホを操作した。


「こっちも鏡の中にあんたがいる。どうなってんの。」


知らんわ。こっちが聞きたい。私は、なんて打とうか考えて、「あなたの鏡には文字はある?」と打った。

そして、ふと顔を上げると、鏡は私を映していた。鏡に映っていた彼はいなくなり、何事もなかったのようだった。


「3minutesだからか。」


3分経ったんだ。私が呟いてから。

もう一度、鏡をよく見たけれど、あの文字はどこにもなかった。

電気をつけて見てみても、同じことだった。


私は、不思議な体験が気になったまま、キャンドルの灯を消した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る