第4話 麗しき預言者
それは二年になって一ヶ月もたっていない何一つ変わらない平凡なとある一日。
ふと教室で耳にした預言者の噂―――
『一年生で腰まである亜麻色の髪の少女の予言は外れることが無い
それを聞きたくて他校からもその詞を聞きに来るとか』
そんな噂を耳にした。おそらく俺がミス研に入ったという事がどこかからバレたのだろう。隠していないが別に公言もしていない。誰が言ったんだろうか。
まぁ、この噂話を俺にしたのは単に親切心からなんだろう。ミス研としては凄く惹かれる興味深い内容だった。
―――そう、ミステリー研究部ならね
「はぁー」
ミスはミスでもミステーク……。俺には関係ない話なんだよなぁ。
なんだかんだでミス研入部五日目。今までの所活動なし、平和そのものだ。
唯一の活動があったとすれば部室の掃除。……だけどあのゴミのような紙は全て必要なものらしく触ったら丸一日部室に入れてもらえなかった。
それ以来俺は部室の一角で放課後少し顔を出して挨拶だけして帰ってきていた。
そんな活動でいいのかとも思うけど、やめるんだしまぁいいか。
「ふぃ~…」
放課後になり俺はいつものように部室へ行こうと背中を伸ばしてから席を立ちあがった。
「なぁ」
キラキラした目で俺を見ているのは、この前席替えで隣になった……だれだっけ?
「何?」
「折角だからさ、放課後お前の未来を予言してもらおうぜ」
そんなに親しくないが、向こうは色んな生徒とたしかよく話をしていたようないなかったような。興味が無いからよく覚えていない。
「どこら辺が折角かわかんないんだけど」
「一年生に百発百中で予言する子が居るんだよ!神の声が聞こえるって電波な子なんだけど、それがカワイイの何の……」
ほぅと頬を染めて思い出に浸っている。あ、思い出した大槻だ。この間は三年生に告白して玉砕したって泣いてたな。電波な子でも可愛きゃいいのか、大槻よ……。
「で、俺を誘ったのはその子を見たいから?」
「おう!」
理由は酷くアホ臭いが、予言か……
それは凄く気になった。
将来を言い当てる予言はいわば神の声を聞く者とされる。
俺無宗教で特に何も信仰していないから、実際に神様がいるって言われてちょっと興味がわいた。
―――そんなものが本当に存在するかどうか
昔から、神様っていうのは嫌いな部類に入る。
だって、祈った所で助けてくれるわけじゃない。気休め位になるかもしれないがそんなもの、俺はいらない。
所詮救うのは己の努力、そう信じてきたし、そうやって生きていた。
「神の声ねぇ……」
本当に彼女が聞いているのは、神の声なのだろうか。
「悪いけど、部活に顔出さないといけないから断るよ」
「そんなこと言わないでくれよぉー!お前を連れて行かないと、俺と会ってくれないんだよ!!」
「どういう事?」
ブレザーを掴んで俺を引き留める大槻に恐怖を覚える。なぜ俺を連れて行かないといけないのか、その神の声とやらに言われたのか?
「2回目にあの子の所に行くにはご新規さん連れて行かないと有料なんだ!頼む、もうお前以外居ないんだよ!」
「アホくさ」
友人や他のクラスメイトには軒並み声を掛けてしまい、あと予言に行っていないのはこのクラスだと俺だけだという事らしい。
お金を払えばいいだろうと言ったら、すでに今月のバイト代はすべて彼女に会うためにつぎ込んだそうだ。大槻の将来が不安だ。
「頼む、一生のお願いだぁ!」
「あーもー、うざいな。分かったよ、行けばいいんだろ!だた部活の先輩に一声かけてからな」
LINEで氷野さんに今日は部室に顔を出せない事を伝えると「貴様も物好きだな」と返事が返ってきた。
物好きなんじゃなくて、人付き合いで仕方なくなんですよ。
「はぁ~」
「ため息は幸せが逃げるぞ?さぁ、張り切って予言を聞きに行こう!」
スキップ交じりの大槻の後ろを着いていく。
「……あのさ、付き合ってくれてありがとな。贄川ってさ、とっつきにくいイメージだったけど、結構いいやつじゃん」
「お前の押しが強すぎるだけだ。俺は一度は断ってんだからな」
なんて雑談をしながら連れてこられたのは視聴覚室……こんなとこで予言をしているのか?餌を前にした犬の様に大槻は嬉しそうだった。
「いいか、俺が先に入るからな!!」
「あーどうぞ」
暫らくすると中から大槻の幸せそうな叫びが聞こえた。その預言者とやらを見ることが出来たんだろうな。そんなに可愛いのか?
少し期待に胸を躍らせて入室許可が出るのを今か今かと待ったら、大槻が出てきた後、黒いローブを羽織った男子が……ん?
「紫藤さん?!」
「おー、お前さんここで何してる?」
「いや、こっちが聞きたいんですけど」
「何ってアルバイト。此処の案内番て意外と給料良いんだぞ?」
「バイトですか」
へー、預言者って儲かるんだな。そうだよな、大槻みたいな金づるがいるんだもんな。
「まぁそれだけじゃないんだ。ちょっと気になることもあるんでね。ほら早く入れ。
神の声を求める生徒が多くて連日混んでるんだぞ」
紫藤さんの指の先には行列となりつつある生徒の群れ。ここに居る何割が神の声を求めているんだろうか?なんか、大槻のような歓声が時々聞こえてくる。
不安になりながらも、促されて中へ入る。
カーテンを締め切り真っ暗な部屋。光源は教室の真ん中に置かれた机の上の蝋燭の明かりだけ。これ先生に見られたら怒られないのか?
そして大槻が言っていたと思われる女子が俺を出迎えてくれた。
「いらっしゃいませ、迷える子羊よ」
亜麻色の髪の少女は色白で人形のように精気の無い表情だ。
……どこら辺が可愛いのだろうか?どちらかと言えば薄気味悪い。いや、こういう事は言うべきじゃない。伊達食う虫も好き好きというしね。
「さぁ座って」
部屋の中は妙な甘い匂いが立ち込める。アロマキャンドルってやつなのかもしれない。視聴覚室に入ってから少し頭がボーっとする。
「ふふ、私には見えるわ。貴方の未来が見える」
蝋燭の光に照らされて、どこか神秘的に見える。なるほど、こういった雰囲気づくりって大切なんだな。
「今、貴方は悩んでます。このままでいいのか、決別すべきか。
決別なさい。そうすれば平穏が訪れます。
決断は早い方がいいですね、じゃないと貴方が傷つくことになるでしょう。
明日、学校へ登校するとき気をつけなさい。そう、特に頭上に……」
声はエコーがかかったかのように何度も脳内で木霊する。
その声が何故か心地よくて、いつの間にか夢心地のような気持になっている。
「さぁ、子羊よ。私の予言を信ずれば貴方は救われます。
救われたいのでしょう?大丈夫、信じてくれるなら、私も神もあなたの味方です」
その後の事をあまり覚えていない。俺は、気づけば北校舎にあるミス研の前に立っていた。
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