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猫乃助

第1話 北校舎の変人

私立草華学園――総生徒数が1000人以上のマンモス校で少し街より離れた丘の上に創立。

卒業までの三年間で名前を知らないだけでなく一切接触の無い生徒同士がかなり存在する。

あの人と俺もそんな一組で、何の共通点もなく出会うキッカケなんかなかった。


そのキッカケを作ったのは先輩である紫藤賢哉さんだ。


先輩は俺の一個上で帰宅部だ。

その先輩と親しくなったのは偶然、屋上に行ったときに出会った。

大の苦手な英語の授業。そのたびに屋上へエスケープしていたわけだが、そこで紫藤さんに出会った。


「なんだ?一年の癖にサボりか?」


目つきの悪い長身の男。

雪の様に白い髪は詰襟だけ伸ばしてあり髪はゴムで縛っていて、左耳は三つもピアスをつけている。俺は明らかに近づかない方がいい人物だと判断したが、無視して帰る勇気もなかった。


「…一応二年です」


俺の身長は158……確かに小さい。けど、それはまだ成長期が来ていないだけであって直に伸びるはずなんだよ!!

そして紫藤さんは180……30cmも違えばさすがに俺が幼く見えたのだろうが、さっきも言ったように俺は二年、紫藤さんは三年。一年もあればきっとそのくらい背が伸びるはずだ。


「どちらにしろサボるのはよくないぞ。教室帰れ」

犬を追い払うようなジェスチャーに少しイラっとした。

「だったらアンタは何でサボるんだよ!アンタこそ教室もどれよ」

「先輩に対して随分な口の聞き方だな……」

フェンスに寄りかかっていた紫藤さんはその長い脚でズンズン間を埋めてくる。


やべー!明らかに怒らせた!!


振り上げられた手はきっと俺を殴る為のものだと思い腕で顔を覆った。

しかし、痛みも衝撃も無く目を開けたら紫藤さんは笑顔で俺の頭を撫でていた

「正面きって初対面の人間に良くそこまで言えるな・・・気に入ったぞ」

と、気に入られたのが原因だ。


何度か屋上で話してみると気さくで親切な人だった。

背の伸びる体操とか、身長を伸ばすのにいい料理とか教えてくれたし、ついつい色々な事を相談してしまった。

……その中には俺が今まで誰にも言った事のない事もあった。






俺は幽霊が見える。





大体クラスにそういうことを言うやつが何人かいた。

興味を引きたくて。

誰かと違うことをアピールしたくて。


でも俺はそんなんじゃない。


リアルに見えて、声が聞こえてもう困るのだ。ポルターガイスト現象だっていつもの事。写真を撮れば心霊写真。

寝ると苦しく身動きが取れない・・・つまり金縛り。


そんな状況を誰に相談したらいいか。


「んなの、あいつに頼めばいい」

必死に悩んで紫藤さんに相談したら、あっけらかんとした様子でそういった。

「アイツって?」

「学校一の変人で異端者。まぁーあってみれば分かる」

言われるがまま俺は北校舎へ向かった。


北校舎は幽霊が出るという曰く憑き校舎。


数年前に新校舎を設立してからは倉庫の代わりに使う以外は利用されていないそうだ。そこでは自殺した女子がいたとか、トイレで花子さんが出たとか、人体模型が走っていたとか……いわゆる七不思議の名所だ。

そんな場所に好き好んで部室を設置した変人を発見するのにそれほど時間は掛からなかった。

入ってすぐの場所にある用務室から光りが洩れていた。

「あのー…」

開けてみると女子が一人。

真っ黒な髪は肩で綺麗に切りそろえてあるが、何故か一箇所だけ長く、紫藤さんのように縛っていた。

小顔なその子には不釣合いな大きい黒縁の眼鏡、和室にソファと一見不釣合いな家具。

床には所狭しと本やメモなどの書類が散乱していた。

「……汚い」

「汚くて結構。此処は私以外使わないし近づかない。

――お前は誰だ?興味本位で来たのなら早急に帰れ、目障りだチビ」

「……チビだと?」

「チビにチビといって何が悪い」

ソファに寝転んだ女は此方も見ずに悪態をついた。

「お前だって……え?」

文句を言ってやろうと思ったが、俺は言葉を失った。立ち上がった女は俺より背が高かったのだ。

「用件はなんだ。言った筈だ、興味本位で来たのなら早急に帰れ」

女はドアに手を掛けている。俺の返答次第で即座にドアを閉める気だろう。

どうせ締め出されるのならと、質問をぶつけた。

「……幽霊が見える原因はなんですか」

無表情だった女は一瞬眉を動かした。

「誰から私の事を聞いた」

「先輩の紫藤さんから」

ドアは閉まらなかったが、ミシっという聞きなれない音が聞こえた。驚いて俺は下を見ていた。この人の顔を見るのが怖い。

「紫藤だと?」

「はい……その、北校舎にいる氷野に頼めばどうにかなるって」

追い出されるだろうか?

しかし、相手は何も言わない。長い沈黙に耐え切れず、恐る恐る見上げると、明らかに嫌そうな顔をしていた。

書いたかのようにものすごく深い皺が眉間に寄っている。

眼鏡のレンズ越しに目が合うと、女は俺に背を向けてソファに戻っていった。

「……入れ」

「は?」

意外な返答に驚いた。

てっきり追い返されると思ったから。

「入れといったんだ。それともそこで話をするのか?」

「あ、いや」


部屋に入ったはいいが……どこに立っていたらいいのだろうか?汚すぎで足の踏み場がぁー!!

「……はぁ」

俺の心を読んだのだろうか。ロッカーから綺麗な座布団を一枚引っ張り出して床に置いた。

「此処なら座れるだろう」

「――どうも」

なぜか正座してる俺。だってなんか無駄に圧力あるんだもん、仕方ないじゃん。

氷野と紫藤さんが言っていた女は紫藤さん以上に目つきが悪かった。

「で、具体的に私に何をしてほしいんだ?」

ノートを片手に俺の話を聞き始めた。

「―――ほう、これらの霊障を払ってほしいと」

紫藤さんに話したととおり今までの経験を話すと、「くだらん」と鼻で笑われた。

「くだらんて…俺としてはかなりの問題なんだよ!!」

「その状況で今まで生きてきたのだろう?ならいい加減諦めろ。

それとも、その霊障はつい最近おき始めたというのか?」

「そうっす……小さいときからならもう諦めたかもしれないけど、こういう経験をし始めたのはこの学園に入ってからだし…」

「……ほう?」

ずっとノートに視線を落としていた女は顔をあげて、興味を持ったような視線を向けてくる。これはいけるか?

「氷野さんならこれをどうにかできるんですよね!!」

期待を込めて問いかけるが……

「できるがそれをする理由が無い」

「は?」

書きかけていたノートを閉じた。

「なんで見ず知らずの貴様のために苦労しなきゃならんのだ。

それに見合う何かを用意しろ」

溜息をつきながらノートを本棚に仕舞ってしまった。

「何かって……」

「私が納得するものだ。それが用意できないのならこの話はなしだ。帰れ」

報酬を要求するのは分かるけど、俺にどうしろっていうんだよ。……その日は渋々北校舎を後にした。




氷野さんの納得する物って何だよ。

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