拝読しました。
- ★★★ Excellent!!!
拝読しました。以下(箇条書きにはなりますが)感想となります。長文ですので流し読みで結構ですし、的外れであれば無視して頂いて結構です。
・冒頭のたった一文+「とぅるるるん」という擬音に、この作品のアイデンティティが濃縮されていると感じました。
・「深い微睡みの中から引き摺り出されて、そのまま電波の海に押し出される」という文章が、とても詩的です。主人公をそうさせるのみならず、読者をも電波の海へと押し出すことに成功していると感じました。続く文章も、BluetoothとiPhoneの接続という一見すると無機的な現象を、ここまで詩的に表現できるのかと唸らされる気持です。ただそれがあまりに高度なため、読者の感性が追いつかず、「雰囲気」だけで消費されるという懸念もあると感じました。それは以下に続く「ぽこぽこ」という擬音も同じで、これはおそらく音楽ではなくイヤフォンが吐き出す音自体を表現したものだと考察しますが、おそらくこれを読みとれる読者はかなり限られるのかなとも思いました。
・「ご主人の心の声が、やわらかな耳の皮膚から伝わってくる」という文章も、胃もたれするほど(良い意味で)詩的ですね。ただ僭越ながら「自分ならこうするかも」という案を挙げさせて頂くならば、「耳の皮膚から」という表現はやや身体の浅い部分に留まる印象を受けるので、もう少し誇張して「鼓膜から」などでも良いのかなと思いました。
・イヤフォンが罪悪感を感じたり、ご主人の感情を聞き取ったり、好きな音楽が流れて振動板が熱くなったりする。途轍もない感性ですね。いわゆる擬人化という技術がとても高いレベルで結晶化されていると感じました。また、主人公の感情を聞き取れるというポイントについて、これが主人公の感情を描写する上での視点として、とても役立っていると思います。また、この一方向性(↔︎双方向性)が、エルがアールに嘘をついた理由にも結びつくという構成の妙には舌を巻きました。
・タイトルとこれまでの冒頭から鑑みて、これはご主人とイヤフォンの恋愛小説なのだなと高を括っていました。それが良い意味で裏切られたのが、「エル」の登場でした。「なるほどそっちできたか!」と唸らされました。二人の会話のテンポもとてもリズミカルで良いですね。
・少し飛びますが、二人はイヤフォンケースの外にいる時しか起きていられないという設定が、Bluetoothイヤフォンならではのもので、とても巧いと感じました。この設定がクライマックスにまで効いてくる訳ですから、イヤフォン小説(そんなものがあるかは分かりませんが)の最高到達点だと思います。
・「大好き」の意味をとり違えるシーンは、正直なところ少しありきたりだなと感じてしまいました。しかし、「ご主人を挟んだ左耳にまで、私の鼓動が伝わってしまいそうで」という表現が、それまでのありきたりな描写がすべて序章だったようなインパクトで、完全に心を撃ち抜かれてしまいました。
・Bluetoothイヤフォンってたまに不可解な現象を見せることがありますが、それを彼らのいたずらとして描くのが、とても和やかですね。恋愛の描写というのは、互いの方を向くことだけではなく、一緒の方を向くことによっても成立するのだと勉強になりました。
・主人公と幼馴染ちゃんのすれ違いが、エルとアールのすれ違いによって、より深いものになっていると感じました。主人公が間違えてアールを渡してしまい、エルの嘘がバレるという展開はちょっと完璧すぎて可愛げがないくらいです。ただ、その嘘バレはもう少し焦らしてあげると、本当は好きだったんだという情報の開示にいっそうインパクトが出ると思います。ただメインは、もちろんエルとアールの関係性でしょうから、無駄に長引かせたくないという気持も凄く分かります。
・エルとアールの心のズレが、同期のズレという物理的な現象に落とし込まれるのは圧巻です。
・「だから知ることは、辛いだけだ。お互い好きなのに、一歩踏み出すだけで変われるのに、すれ違ったままで進めない。今の関係を壊すことが怖くて踏み出せない。すぐそこに希望があるのに伝えられない。その気持ちを知りながら何もできない。そんなの辛すぎる。だからエルは、それを自分だけで抱え込もうとした。私には何も知らせずに、受け止めようとしてくれた」という文章は、この作品の主題そのものといっても過言ではありません。主人公と幼馴染の関係性、エルとアールの関係性。それらの答えが、この文章に結晶化されています。この文章が先、作品が後だと言われても頷くレベルです。
・合唱曲にこそばゆさを感じていた伏線がクライマックスで回収されるのは圧巻でした。エルとアールたちが背中を押し、主人公が一歩を踏み出す。先ほどはエルとアールの関係性がメインであると書きましたが、最後には主人公の涙ぐましい成長を見ることができます。しかしやはり二言はありません、最後には私たち読者をもってしても聞きとれない彼らの物語の始まりによって、本作は幕を下ろします。
以上となります。ササッと書いたので、まだ書き足りないことだらけですが、これ以上長文になっても失礼なので、この辺りで筆を置きます。思わず嫉妬してしまうほど、ただただ素晴らしい作品でした。カクヨムコンでのご健闘を心より願っております。