【500PV感謝!】ALERT ――滅びの警報が響くとき(休載中)
玉置寿ん
はじまりの警鐘
1・はじまりはじまり
もしかするとあなたは、これから始める物語をただのフィクションと思うかもしれない。単なるわたしの頭のなかの想像、小説か映画に夢中になったあまり再現された、存在しない記憶に過ぎないと。
そうお考えになるのなら、結構。そうとして読んでいただいて一向にかまわない。もしくは、ばかばかしいとお思いなら、今すぐ閉じていただいたってわたしはなんとも感じない。
だけどもし、信じていただけるのなら、わたしは喜んであなたにすべてを語りましょう。
あなたのお考えの通り、これはわたしの自己満足でしかない。自身の罪を晴らすことなど叶わない。あの街を愛した彼や、親切にしてくれた彼女に、とても顔向けができないまま。
だけどそれでいいのだ。許しを請うのではない、ただ、この記憶を少しでも長くとどめておきたいだけなのだから。
これは、わたしが出会った「彼ら」の人生の一瞬間。かすかに残る記録。満開となり、さかりを過ぎた大花が、その花弁を落とすまでの物語だ。
******
もう、体感では二十分も自転車をこいでいる。
サイクリングなら、まだいい。でも今は、ずっと全速力で立ちこぎだ。
陸上やってる人なら理解してくれるかな。長距離走三キロのタイムが三十分の、体力のなさ。
一度サドルにおしりをつけてしまえば、きっともう動けなくなる。目は見開きっぱなしで、乾季のサバンナみたいだ。息なんて、生存本能だけでなんとか成り立っている。
どうして、こんなになっているかは聞かないで。私にもわからないから。
耳障りな金属音とともに、普段ならあり得ない角度をつけて曲がり角を進む。
喉に鉄の味が広がって、するする透過するよう。呼吸がなめらかに浅くなっていくのを感じながら、信号無視。大丈夫、ここの交番は機能していないから。
だけど、運がよかったのはここまでだった。
本日五回目の信号無視で、左から来たバイクを避けようとしたとき、私の愛車はその乱暴な運転に耐えられなかったようだ。自転車の赤いボディと地面との角度が四十五度をきって、勢いのまま倒れた。
地面に打ち付けられた脚をひきずって走りだそうとしたときには、もう遅い。パーカーのフードをつかまれて、顔面からアスファルトに落下する。あまりにも鈍痛が響いたから、鼻の骨が折れたかと思った。
「手間かけさせやがって……!」
私を押さえつけている人が、そんなことをぶつぶつ繰り返している。酸欠の脳みそは、なんでこの人、こんなに足速いんだよってことしか考えられなかった。
きっと、私は誰かの怒りを買って目をつけられたんだ。そうじゃなきゃ、自転車を裸足で追っかけたりしないだろう。
そのとき、右脚に激痛が走った。獲物が抵抗しないとわかったハンターが、私から手を離したかわり、負傷した箇所をピンポイントで蹴ってきたのだ。
うめく私に、そいつは一言「ざまあ」と笑った。
瞬間、その声の主の身体はぶっ飛んだ。
なにが起こったのかわからず、いや理解する気もなかったけど、私は首を後ろにまわした。
「ったく……」
そこに立っていたのは、背の高い女の子だった。短い髪を、耳の後ろで二つに結んでいる。厚底のスニーカーが、彼女の身長をさらに誇張していた。
「大丈夫?……って、そんなわけないか」
その子の手が差し伸べられた。
おそるおそる手をとると、彼女は私を立たせて笑った。
「ごめんね、怖い思いさせて」
反射的に、ぶんぶんと首を横に振る。それよりも、彼女の手のひらが驚くほど冷たいことが気になった。
私の表情に気づいた彼女は、力強い声でまた笑う。
「私、低体温症なの」
と、なぜか楽しそうに。
私の手を握ったまま、その子はさっき蹴り飛ばした少年のほうを向いた。
「あんたね、いくらヒヨコちゃんだとはいえ、非関係者を襲うなよ。だいたい私らがさ、受けた挑戦を放って逃げるはずないでしょ。頭使んなさい」
巻き込まれたマヌケと話すときとは全然違う、太くてよく通る声。
ヒヨコちゃんと呼ばれた少年は、後ずさりしたのち走り去った。
「ごめんね。あいつはたぶん、フィフスの下っ端。手柄あげたくて、うちに挑戦状たたきつけてきたの。それでたまたま、ケンカ会場にあなたが来ちゃったんだと思う」
その子は話しながら、チェーンの外れた自転車を起こした。
「ねえ、あなた名前は?」
名前……、私の愛車の?
「スカーレット弐号です」
「え?」
「え」
気まずいものが二人の間を流れる。
それから彼女はその空気を吹っ飛ばすくらい、からから笑った。
「あは、あはは! 自転車に名前つけちゃうなんて、おもしろいね。けど、あなた自身の名前を知りたいんだ」
顔が熱い。これは、さすがに……。今すぐ穴を掘って潜りこんでしまいたい衝動にかられつつ、目線を下げて答えようとする。
「あ、えっと、す――」
「ごめんごめん、先に名乗るべきか。私、斎藤はる子」
「あ、わた私、
「瑞乃、いい名前ね」
これが、少年ギャング団“ALERT”の一員、ナッツことはるちゃんとの出会いだった。
〈 『ALERT』を選んで、読んでくださりありがとうございます!
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