2.抵抗

 閉じた瞼越しに赤い光を感じる。

 そっと目を開けて飛び込んできたのは、赤い夕日だった。驚いて起き上がると、そこには見渡す限り、赤い色をした荒野が広がっていた。俺は自分の部屋で配信していたのにも関わらずだ。


 不意に後ろから何かが迫る様な不気味な気配を感じた。振り返ると【人型の怪物】が襲いかかってきた。


俺は咄嗟に両手を前に出して、怪物と距離を取ろうとした。たげど、怪物は俺の左腕を掴み、そのまま肘を起点に逆に折り曲げた。


「あ” あ” あ” あ” あ” あ” あ” あ” あ”ッ!!!!」


 腕を折られた痛みで絶叫する。俺は生まれてこのかた喧嘩なんかしたことがない。まして骨折もしたことがない。生まれて初めて経験する激痛は夢では現実の出来事だと教えてくれる。


 恐怖で腰が抜け、這いつくばりながら俺は怪物から逃れようとした。だが、怪物は俺の脇腹を蹴り上げ、地面に転がった。


 怪物は腰にぶら下げた短刀を抜き、俺にのしかかる。


 殺される。無我夢中で石を掴み、反射的に怪物を殴った。怪物の顳顬から大量の血が流れ、昏倒した。


 荒い呼吸を何とか整えて、大の字になって気絶した怪物の姿を確認する。赤黒い肌に禿げ上がった頭部、上半身裸で腰巻きの姿はダンジョン・オブ・ソーサリーで何度も見た敵の姿だって。


「<亜人デミヒューマン>……」


 成人男性と同じぐらいの背丈であり子供程度の知能を持つという設定の彼らはプレイヤーを見るや否や襲いかかり、時には仲間を呼び、徒党を組んで攻撃をする。そう。仲間を呼ぶのだ。仮に仲間を呼ばれたら、今の状態の俺では絶対に殺されるだろう。そうなる前に決着をつけなくてはいけない。


 俺は亜人が持っていたナイフを取り、震えを無理矢理抑えるため、両手で必要以上に握りしめた。


 ▼亜人を倒しました。EXP+3

 ▼レベルが上がりました

 ▼ステータスポイント3ポイント取得

 ▼武器を手に入れました

 ・血のついた短刀


 無我夢中で歩いた。喉が渇き、瞼が重い。

 折られた左腕の痛みは歩みを進めるごとに激しさが増してゆく。今すぐに座りこみたかった。


 だが、俺が想像通りなら、ここで歩くのを止めれば、確実に死んでしまう。


 赤土の荒野を東に向かって歩いていく。程なくして『石造りの家が連なった集落』に辿り着いた。


「大丈夫ですカ?旅人。ここは<石の村>デス。私ハ第7世代型自律式魔導駆動体。セブンと呼んでくだサイ」


 思わず嗚呼っと声を漏らした。もう間違いない。ここはダンジョン・オブ・ソーサリーの世界で、俺はこのゲームの世界に囚われてしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る