第20話 最終回

 

 次の日、早速、動きがあった。


 エリスが、カレンに、帰らず森に狩りに行こうと誘ったのだ。


 エリスが人を誘うというシュチュエーションは、本来、絶対に有り得ないのだが、エリスは生みの親であるサヤの命令には、何故か絶対に従う性質なのである。


 まだ、サヤが生みの親だと知らない宇宙船からナノマシンを通して、直接頭に命令を下してる時でさえも、しっかり命令に従って、俺に会いに来たしね。


 でもって、そんな有り得ない事態に、カレンは興奮気味。絶対に誘われる事のない憧れの人に誘われた訳だから無理もない。二つ返事で、帰らずの森への狩りをOKしたのである。


 基本、カレンは強い者が大好きで、それも自分が一番尊敬する元S級冒険者パーティー『熊の鉄槌』の氷の微笑エリスの誘いを断る事など、到底できないのだ。


 そして、エリスは、カレンだけを誘ったと思わせて、実は、俺やサヤを連れて来ちゃう流れ。


 まあ、俺は一応、エリスの孫だから、付いて来る場合もあるよね。


 カレンは、集合場所に俺が居る事を発見すると、まるで醜悪なゴブリンでも見るような残念そうな顔したが、俺の隣のエリスの顔見ると、すぐにニコニコ顔になりご機嫌になる。


 多分だが、カレンにとって、強ければ男でも女でもどうでも良さそうだ。

 強いエリスは大好きで、弱い俺はゴブリン以下という事なのだろう。ある意味分かり易い性格である。

 カレンに認めてもらう為には、俺が強い男だと分からせれば良いだけだから。


 そして、帰らずの森に、カレンの護衛が何人も付いて来ると、エリスが護衛まで護らないといけない羽目になり、カレンを守りきれなくるという理由で、カレンの護衛には作戦通り帰ってもらった。


 そして、いつものように帰らずの森に入ったけど、解るよね。


「エリス様、もう、相当奥に来てますけど、大丈夫なんですか?」


 流石の怖いもの無しの狂犬カレンでも、どうやら不安になって来たようだ。

 だってもう、俺達が居る場所って、他の冒険者なんか1人も居ない奥地だからね。


「ん?帰らずの森は、私の実家で庭のようなもの。だから、何も問題ない!」


 ビュン!


 エリスは、いつものように弓矢を打って、走って狩った獲物を回収に行くのだ。


 そのスピードが、とんでもなく速く、俺とカレンは必死に、置いていかれないように着いて行かないといけない。

 エリスから少しでも離れちゃうと、危険な魔物が襲ってくるからね。


 そこで、事件というか、イベントが起きたのである。

 そう、どう考えても、人の手で作ったであろう落とし穴に、見事、カレンがハマったのである。


 この落とし穴は、昨日、サヤとエリスがイベントの為にと、夜なべして作ったものらしい。


 しかし、先を行くエリスは全く気付いていない。

 というか、気付いてるのに、気付いてないフリをして、走り去って見えなくなってしまった。


 そしてここで、わざとらしくサヤが台詞を言うのだ。


「ああ! なんて事でしょう! カレンさんが落とし穴に落ちたのを気付かずに、エリスちゃんが先に行ってしまわれましたわ! ああ、マスターどうしましょう! こんな帰らずの森の奥地に、S級冒険者がおりませんと、私達など魔物の餌になってしまいますわ!」


 何故に、演劇風……

 どう考えても、下手くそ過ぎる三文芝居だが、俺も計画通りに乗っかる。


「兎に角、カレンさんを助けよう!」


 落とし穴の中を見ると、カレンが唇を噛み締めて、泣きそうな顔をしてる。そして、落とし穴から助けようと手を差し出したら、


「足が折れてるみたい……」


 カレンは、とても悔しそうな顔をして、俺に訴えてきた。

 まあ、あれだけのスピードで走ってたのだ。その勢いで、落とし穴に落ちたら足も折れるというもの。

 まあ、ポーション飲めば治るし、ここは恩を売る所である。


「そしたら、ゆっくり俺が抱き上げるから、足に力を入れないようにして」


「解った」


 今日のカレンは、とても従順。

 まあ、生まれて初めて、危険と言われる帰らずの森の深層に来て、そして頼みの綱のエリスも、先に行ってどこにも居なくなってるし、それから足まで骨折してしまっているのだ。

 そして、一緒に居るのが、自分より弱いと思ってる俺とじゃ、そりゃあ不安になるよね。


「ちょっと待ってて!」


 俺は、落ちてた枝を拾い、カレンの足を無理矢理伸ばして真っ直ぐにして、添え木をする。


 カレンの足を無理矢理ひっぱった時、顔を引き攣らせていたが、カレンは我慢して、叫び声の1つも出さなかった。


「私が、アンタを必ず守るから」


 カレンは、俺の事を、自分より弱いと思ってるからか、剣を杖代わりにして、迷わずエリスを追わずに、帰らずの森から出る選択をする。


 カレンは、以外と冷静だ。

 というか、野性的で勘が鋭い女なので、出来るだけ生存できる方法を、直感的に導き出したのかもしれない。


 そうこうしてると、俺達を囲うように帰らずの森の凶悪な魔物が群がってくる。


 カレンは、足を引きずりながらも、剣を握る。


「ウラァァァーー! コッチに来い! 私が相手になってやる!」


 カレンは、躊躇なく大声を出して、魔物の意識を自分に向けるようにする。

 どうやら、カレンは俺が思ってたような嫌な女では無かったようである。


 ただ、弱い男が嫌いなだけで、弱いものを躊躇なく助けようとする、正義感に溢れた強い女の子なのだ。


 そして、足が折れてるというのに、必死に俺を守ろうと、自分にヘイトが向くように、大声を発しながら無我夢中で戦い続けている。

 だけれども、足が自由に動かないのは相当辛い。


 カレンは、同年代の者相手なら、多分、最強だろう。下手するとまだ10歳なのに、A級冒険者ぐらいの実力を持ってるかもしれない。

 それほど強いのだが、如何せん、足が自由に動かないとカレンの強さは半減してしまうのだ。


 カレンの剣は、天性の才能もあるのだが、それと同時にスピードとパワーで成り立ってる。

 そのスピードが、足が折れてる事にによって、全く使えていないのだ。


 そして、とうとう、カレンは足の痛みに耐えかねて、動きが乱れてしまう。


「クッ!」


 帰らずの森の深層の魔物は、カレンが体制を崩したのを見逃さない。


「マスター!」


 サヤが、ここぞとばかり合図する。


「ああ。解ってる!」


 俺は、サヤに返事を返す前に、既に弓矢を放っている。


 ヒュン! ヒュン! ヒュン!ヒュン!


 俺は、その場にいた魔物の大群を全て、一瞬に瞬殺してやったのだ。

 そう、俺は、この辺りの魔物など、もう1年ぐらい前から余裕で倒せる実力を持っていたのである。


 まあ、カレンを見てたら、想像以上に強く、きっと足が折れてなかったら、俺と同様、この程度の魔物など余裕で倒してたと思うけど。

 本当に、カレンの足がたまたま折れたのは、俺にとって不幸中の幸いだったのだ。


「アンタ……強かったんなら、早く助けなさいよ……」


 カレンが、俺の事を、キッと!と、睨みつけながら文句を言ってくる。

 やはり、狂犬カレン……弱ってても怖い。というか、イベントこなしても、何も変わってないし……


「ですが、カレンさんが私に任せろ!と、言ってたもんで……」


 俺は、作戦失敗してしまったんだと思い、取り敢えず、言い訳する。

 というか、今迄、サヤが考えたイベント、ことごとく失敗してるような……


「バカ!私より強かったんなら、遠慮なんて要らなわよ! 強いのは正義なんだから、アンタは私より正義なの!

 それから、私の事は、カレンと呼び捨てでいいわよ! 魔物に襲われてる時に、さん付けなど不要よ!」


「マスター、ツンデレですよ」


 すかさず、サヤが指摘する。というか、サヤの作戦、実は効果があったようだ。


「ああ。本物、初めてみた」


「何よ!ツンデレって、早く私をお姫様抱っこしなさい!

 私は、足が痛いのよ!」


「いや……お姫様抱っこしたら、両腕が塞がって、戦闘できなくなるんですけど?」


「敵が出て来たら、そん時は、下ろせば良いだけでしょ!

 だから、すぐに私をお姫様抱っこして、帰らずの森から脱出するのよ!」


「そんな無茶な……」


「マスター! これがツンデレなんですよ!強がってるけど、強いマスターに甘えたいんですよ!」


 もう、サヤは鼻高々。自分が考えたイベントが上手くいったと、クルクル飛び回って有頂天。


「護衛騎士、魔物が来たわよ!」


「承知!!」


 どうやら、俺は、カレンに護衛騎士と認められたようである。

 ならば、白馬の騎士として、ちょっと緊張するが、カレンをお姫様抱っこして帰らずの森を脱出する義務が生じる。


 まあ、俺は、カレンの騎士様だから、姫を抱っこするのは、役得だよね。

 カレンは、凶暴じゃなければ、普通に可愛いし。


 そして、サヤがGPSで、敵の位置を把握してるから、敵に突然襲われる心配は無いしね!

 まあ、敵が出て来る度に、カレンを優しく降ろし、敵と戦うのは本当骨が折れた。カレンの骨が折れてるだけに!


 もう、本当に、宇宙船ジョークを、思わず口走ってしまいそうになるほど大変だったのだ。


 その代わり、次の日から、カレンに認められたのか、毎日に話し掛けられるようになって、ちょっと嬉しい。


 とは言っても、修行に付き合わされてるだけなのだけど。


「テッタ! どこに居るの! 今日も私の修行に付き合いなさい!そして、私の方が強いという事を、ボコボコにして分からせてあげるんだから!」


 まあ、こんな風にね。



 ~終わり~


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グレイに転生した俺は、人類に憧れて恋に恋い焦がれ恋に泣き、早く人間になりたいと叫ぶのだ 飼猫 タマ @purinsyokora

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