登山
Kei
登山
空は見事に晴れている。空気もいい。
ずっと都会で生活してきた俺は、いままで感じたことのない清々しさの中にいた。周りにも眼下にも広大な自然が広がっている。コンクリートに慣れ切った目に、木々の緑がとても優しい。
こんな気持ちは初めてだった。周りには誰もおらず緊張することもない。雑踏にもみくちゃにされ続けてきた心身が完全に解放されている。そう感じる。
主治医は俺に生活のストレスから離れて気分を変えるようにと言った。
実際、心が潰れそうになっていた。仕事だけじゃない。妻との生活も行き詰っていた。
ここに来て本当に正解だった。今まで登山なんてしたことがなかったが、ネットで眺めのいい山を調べて、簡単な装備を整えて… 思い切って登ってよかった。こんな趣味もあるともっと早く知りたかった。
岩の割れ目から生えているタンポポが美しい。
上を向いて、ゆっくりと流れる雲を眺める。
いつまでもここにいたい——
生活がある。だから帰らないといけない。
——しかし今は、このまま帰らないという選択肢もある。
足を滑らせたのは幸運だったのかもしれない。そう思った俺は、岩に引っかけた手を離した。
俺は崖から真っ逆さまに落ちていった。
登山 Kei @Keitlyn
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