第3話 働くことを決意

 60銭ほどの大きな窓を開けたまま2日経つが、窓埋めをする気配が無い。

 しかし、俺は『埋めない窓は無い』と思っている。だから、ショートをするか悩んでいた。

 上値も重く、レートは少しずつだが落ちてきている。


(どうする? 窓埋め狙いのショートを持つか?)


 ショートポジを持つか迷っていたら、『アメリカと韓国が為替協議を行った』というヘッドラインが流れる。

 この報道を受け、ドル円は急落!


「くっそ〜、躊躇せず入っておけばよかったぁぁぁ」


 あれよあれよという間に、2円も落ちる。

 こうなってくると、リバが怖くて追っかけることができない。

 したがって、値動きが落ち着くまで傍観することにした。


 しばらく待っていると、値動きが落ち着いてきたので参戦――!


「よしよし、良い感じだ!」


 お得意の小突きトレードでコツコツ稼ぐ!


「アァァア、捕まったァァァ。切るか? 切るべきか?」


 そう思ったが……積み重ねた利益が無くなるのを恐れ、決めたはずの損切りラインに達したのに切ることが出来なかった。

 その結果、一気にマイナスへ……。


(またやってしまった……。もしかしたら、戻ってくるんじゃと思って切れないんだよな……)


 結局、この日はマイナスで終了。

 あくる日からもコツコツドカンを繰り返し、プラスに持って行くことが出来ないでいた。


 そんなある日から約1ヶ月間、トランプ関係のヘッドラインに相場が荒らされた。

 内容は、アップルに25%の関税、EUに50%の関税、裁判所がトランプ関税は違法であると差し止めを命令、トランプとイーロンマスクの仲たがいなどだ!


 ヘッドラインが流れるたびに、相場は乱高下。

 そして俺はというと……いつものごとく、急騰急落に飛び乗り爆損。

 バカは死なないというが、ホントにその通りである。


 少し時間が経つと前回の失敗を忘れ、同じことを繰り返す。

 これでは一生勝つことが出来ない。

 何回目の宣言か分からないが、俺は再び決めたマイルールを守ることを誓った。


 それから数日後、イスラエルとイランの戦争が勃発!

 このことにより、相場が乱高下。


 さらに数日後、米連邦準備理事会(FRB)のボウマン副議長が早期利下げを支持する姿勢を示し、相場が乱高下。


「あ〜もう、次から次へと……今年は何なんだよ」


 いや、これがFXか……。

 その後も要人発言やアメリカの雇用統計などで爆損。


 結局今年も上手く立ち回ることが出来ず、資金を減らしていった。

 そこで、働きたくないが……再び働くことを決意!


 この選択に至った経緯は、資産を減らし続けているからだけではない。

 社畜になれば、毎月給与が手に入る。

 つまり、FXで負けても生活には困らない。

 その結果メンタルが安定し、余裕を持ってトレードできるからだ。


 問題は、45歳でこれといった経歴がない俺を雇ってくれる会社があるのか?

 普通に考えて、きちんとした会社は無理だろう。

 そうなると、工場勤務しかないか。


 求人情報を閲覧し、条件が良さそうな案件を探す。

 すると、寮費無料でそこそこの時給の案件を発見。

 すぐさま派遣会社に電話をし、面接を受けることにした。


 8年前に利用したことがある派遣会社だったのもあってか、面接の日に『合格にするから、頑張って』と言われ、雇ってもらえることになった。


(無遅刻無欠勤と勤務態度が真面目だったのがよかったのかな)



     ◇◇◇



 面接から約一ヶ月後、ついに赴任日が来た。


(今回の寮はどんな感じかな? 頼むからボロいのは止めてくれよ)


 俺の不安は取り越し苦労だった。

 案内された寮は築13年で、間取りは1LDK。一番気にしていた遮音性もそこそこあるので、隣人の生活音があまり気にならない。


(これなら心置きなく、YouTube配信できる。やったぜ!)


 俺は2ヶ月前くらいからYouTubeでFXのライブ配信をしていた。そのため、壁が薄い物件だったらまともに配信できないからどうしようかと思っていた。

 と言っても……登録者が全くいないから気にする必要性はないか……。


 さらに、通勤時間も20分以内で行ける。勤務形態も日勤だし、文句のつけようがない。

 あとは逃げ出さないよう頑張るだけ!


(いくつになっても、新生活が始まると気分が上がるな。よぉし、やってやるぜぇ!)


 入寮日の翌日から研修が始まった。

 研修は4日間ほどあり、内容は主に座学。そのため、かなり楽だった。


 ――しかし、楽だったのはここまで。


 現場に配属されると、常に立ちっぱなしでの作業。

 約2年間無職だっため、怠惰な生活を送っていた俺には逃げ出したくなるようなキツさ。


(だが俺は逃げん、逃げんぞ)


 そう、こうなったのは、言わば自業自得。この2年、トレードで成果を上げることが出来なかった自分自身が悪い。

 まさに、身から出た錆ってやつだ。

 再び専業トレーダーに返り咲くまでは、兼業トレーダーとして頑張るしかない。

 そう意気込み、仕事をしながらトレードをする日々が始まる!

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FXに夢と希望を託した男の話!(第2部) オーストリッチマン @kikujiroumaru

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