第25話 想定外の来客
――散々だった。本当に散々な一日だった。
帰りのホームルームが行われる中、げっそりとやつれた純蓮はまわりのクラスメイトに気づかれないように、そっとひとつため息をつく。
ギリギリの時間ではあるものの始業にはなんとか間に合った。ただし、本当の問題は昼休みに起こったのだ。
いつもなら純蓮の昼ごはんは料理長が前日に用意してくれていたおかずを影吉がお弁当にしてくれている。ただ、純蓮は今日家を飛び出してきてしまった為、それを受け取り損ねてしまっていたのだ。
そこで、仕方なく学食で昼食を取ろうと考えたのだが、今までひとりで外食をしたことなどない純蓮は注文をするのに手間取った。本当に、一切の誇張などなしに、びっくりするほど手間取った。毎日学食を利用している生徒たちは、きっと天才に違いない。と、何度も頭によぎるほどだった。
その他にも細々とした災難が続いた結果、純蓮はすっかり自信を喪失してしまっていた。
「……わたくし、本当に影吉に頼りきりでしたのね」
自身の無力さを痛感して、純蓮はぐっと唇を噛む。ただ、すぐに両手でぱしと頬を包むと、彼女は決意した。
「ですけど、そうと知れたのは大きな一歩ですわ! わたくしは、今からもっと自立をしてみせるのです」
純蓮は今日一日、影吉がどうしてあんなにも純蓮に対し過保護になるのかを考えた。そしてその主な原因として、影吉はいまだに純蓮のことを「保護対象の小さな子ども」として考えているのではないかという仮説を立てたのだ。
「きっと、わたくしがもっとしっかりすれば影吉だって少しは安心してくれますわ。そうすればアルマさんとの関係だって……」
そこまでを考えて、純蓮はぴたと言葉を止める。
アルマは依頼をしたその日に、「五日間の調査期間」と話していた。依頼をした次の日が一日目だと考えて、今日はその調査期間の最終日だ。きっと彼は、調査期間が終わったから、といって途中で依頼を投げ出したりはしない。それでも、依頼の結果がどうなったとしても、いつか絶対に依頼は終わる。
――そのとき、殺し屋と依頼人という関係だったふたりは一体どうなってしまうのだろう。
込み上げてくる嫌な予感に蓋をして、純蓮はおもむろに帰りのホームルームが終わった教室を離れる。だが、たとえこの嫌な想像が本当になるとしても、目下の課題は変わらない。
「……まずは、アルマさんに昨日のことを謝らなければ」
いまだ歓談する生徒たちがひしめく廊下を、彼女はひとり歩いていった。
◇◇◇
「ねぇねぇ、あそこにいる人って誰かのお姉さんかな?」
「ね! そうなのかな? すっごくスタイルいいよねー」
昇降口から出てすぐに、純蓮は気付く。なにやら、生徒たちが誰かの噂をしているようだ。生徒たちは黄色い歓声をあげながら、噂話に花を咲かせている。彼女たちの視線の先を追うと、校門の辺りに女性がひとり立っていた。
深い赤色の髪をひとまとめにした背の高いその女性は、集まる視線に臆することもなく佇んでいる。彼女はふと純蓮の方に視線を向けると、にこりと微笑み手を上げた。
「やぁ、お嬢さん」
「……店長さん!?」
そこに居たのは、紛れもなく喫茶ルミナリクの店長、ロゼだった。まるでドラマのワンシーンかと見紛うほど画になる彼女の様子に瞠目しつつも、純蓮はぱたぱたとロゼの元へ歩み寄り疑問を投げかける。
「ど、どうして……、店長さんがここにいるのですか?」
「それはもちろん、君に会いに来たんだよ」
彼女は同性の純蓮ですらドキリとしてしまうほどに、妖艶な笑みを浮かべる。そして、ロゼの返答に驚く純蓮の手を取り、彼女はこう告げたのだ。
「それじゃあ今から、私と一緒にデートをしようか!」
「…………へ?」
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