忘れ者

your clown ユピエロ

初めての出会い

町外れの廃工場にコツ、コツ、コツと足音が響き渡る。

誰もいないこの場所で俺は体を休めるためにゴミ山に横たわる。

臭いさえ気にしなければ良い場所だ。

ようやくこの廃工場での生活がようやく板についてきた。そんことを思っていると、


ぐぅ~


どうやら俺は空腹らしい。


「食い物は...買うしかないか」


そう言葉を吐き俺は近くのスーパーへと向かう。

考えて見れば昨日の夜から何も口にしていないことに気がついた。


「つくづく人間様の体は不便だな」


いっそ光合成ができればな、と思いながら歩くことに意識を集中させた。




スーパーへ向かう途中に酔っ払いに絡まれてしまった。


「そこの君、俺達と飲まない?もちろん奢るよ」


腕時計を見ると時刻は午後9時半、随分と早く出来上がってしまったようだ。


「いえ、俺はまだ未成年なんで」

「え~残念、じゃあ烏龍茶でもいいからさ面白い話聞かせてよ」


どうやら話のネタが欲しいらしい、別にあげる義理もないので俺は手を叩いた。

パン


「あれ何してたんだっけ俺?」

「大丈夫ですかお客さん」


相手は俺のこと忘れたようなのでスーパーへと足を再び進めた。


俺には特別な力がある、だが神や悪魔がいるな怒鳴ってやりたい。

俺は手を叩くと世界から俺という存在の痕跡が抹消され忘れるようだ。

この力に目覚めたのは十二歳のときで手を叩いた瞬間家族や親戚、近所の人、更にはネットや戸籍の記録までもが消えていた。

その時俺は初めての自分の持った力の異常さを悟った。他にも色々実験して分かったのは一時間に一回自分という痕跡が抹消されてまた、相手の意識から消えると俺との関わりは全て記憶から消えてしまうらしいということだった。

他には俺が自分の所有物と認識したものも同様に痕跡が抹消されることだ。

この力を活かすも殺すのも俺次第、どうせならこの力を使って何かしてみたいものだ。



スーパーから帰って来ると廃工場扉が数ミリ開いていた。


「誰かいるのか」


と声を小さくして数ミリの隙間から中を除いてみる、すると中にいたのは5人の少女達だった。

ふと不思議に思い時間を確認すると10時半を回った頃で普通なら補導される時間帯だ。

なのに少女達はこんな廃工場にいる、面倒くさい事になったと思っていると

ギィィと扉が開いた


しまったと気付いたときにはもう遅かった


「誰?」


少女5人が俺のことナイフで今にも首を掻き切らんとするような鋭い眼光で射抜いていた。




「だからここの住人だよ」


あのあと俺は廃工場の真ん中に椅子に座らされ縛られて説明を求められていた。


「なぜ」

「なぜってここが一番住み心地が良いからだ」


一人は俺の真正面にいて、後四人は俺が動いた時のために監視をしていた。


「そういえば名前を言ってなかったな、俺は関 縁辞(せき えんじ)だ、お前は」

「...」


俺と話していた奴は4人とアイコンタクトをとり


「ノア」

「他は?」

「ルシア」

「ネラ」

「ユノ」

「ズサ」


どうやら本名を言うつもりはないらしい。

それもそうか、考えてみれば俺は彼女たちからしたら不審人物だからな。


「一つ疑問なんだがお前たちはなんでこんな時間に此処にいるんだ」

「答える義理はない」

「いや、義理はなくてもお前たちは立派な非行を行っているからこの拘束を解かれた後お前らを交番に届けなくちゃいけないんだよ」

「無理、非行行為を行っているのは一緒のはず」

「俺はお前らと違うんだよ」


早くこんな茶番から開放されたいが...どうやら無理らしい、先ほどの言葉の節々から俺を逃がすという意図は見受けられない。


「わかった、私達にも明日がある。だから明日の朝まで逃げないで」


そんな事を考えていると相手は違ったのか、妙な提案をしてきたので俺は考える。

明日の朝は特にやることはなかったはずだ。


「わかった、ちなみに逃げたらどうなるんだ?」

「地の果てまで探し出して無惨に監禁する」

「わ、わかった」


恐怖をしながら返事をする。

縛られていた腕と足を開放され俺は廃工場の扉の側による。


「逃げないでね」

「分かってるよ」


そんなやり取りをして俺は彼女達からやっと開放される。

ふと時計を見ると午後11時30分、此処についてから一時間ほど経過したらしい。


「いや、まて45分だと」


俺は力で一時間に一回俺に関する痕跡が抹消される。

これは今まで覆すことのできないことだ、だがあの少女達は11時を回っても俺のことを忘れていなかった。

一瞬、忘れた瞬間に状況を理解したのかと思ったが、普通なら何かの仕草はあるだろう。

彼女達に拘束されたのは10時35分ぐらいだろう。


「いや、まさかそんなことが...」


もしものことが頭をよぎり俺は即座に頬を叩く。

そんなことがあるはずがないと思いながら夜食の準備をした。





これが後に妙な人間関係になるとは誰も知らなかった。





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