大好きなりんごみたいな

第1話

 母はりんごをよく食べる。だから、りんごによく似ている。

 飾らない人で、とてもお喋り。話し出すと止まらない。でも、聞いていると面白いから誰も止めない。

 りんごもそうだ。見た目は素朴なのに、切ると蜜がじんわりあふれだす。一口食べるとしっとり甘く、手が止まらない。みんな、りんごの美味しさを知っているから、食べるのを邪魔する人はいない。

 いや、そんなことはないかも。りんごは美味しいから、一つでも多く食べようとして取り合いになるんだ。

 母の話を「もっと聞かせて」とせがむように。


「隙ありっ!」

「あっ、それ私の!」


 最後の一切れを妹に取られた。

 母の実家から送られてくるりんごは、とても美味しいから、いつも取り合いになる。

「お母さーん」

「たくさんあるから大丈夫。もう一つ剝いてあげるからね」

母はふんわりと、りんごみたいに笑った。

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大好きなりんごみたいな @hosihitotubu

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