ありったけの愛をあげるから
雫 のん
プロローグ 種族混合学園
私はずっと「ノーマル」だった。
総人口の七割はその種族に属し、特別な力なんて何も持たず生まれてくる。当たり前に平凡な家に生まれ、学校に通い、卒業後は誰にでもできるような雑務ばかりをこなしていくのだ。
私は今朝もいつも通り、白くくすんだ茶色の癖だらけの長い髪をブラシで抑え、何とか一つにまとめて登校してきた。
一般的に、「ノーマル」は黒みがかった、または茶色がかった髪色をしている。だから、白みのある私の髪色は「ノーマル」の中だと珍しい。
一般的に白みのある髪色をしているのは、この広い宇宙で大々的に活躍している、総人口のおそよ一割の「魔法使い」。
彼らの扱う魔法は、「ノーマル」がどれだけ勉強をして科学の力で立ち向かっても敵わないものばかり。はるか昔、数的には明らかに優位でありながらも武力で制圧された「ノーマル」は、「魔法使い」の指導の元で大人しく慎ましく暮らすしかなくなった。
しかし、その流れは今、変わりつつある。
数年前、とある「魔法使い」がこのままじゃいけないと声を上げた。
彼女は「「ノーマル」にも機会を、「モンスター」や「化物」にも人権を」と説き続け、たった数年で社会のあり方そのものをガラッと変えてしまったのだ。
彼女に続いた多くの人々によって「ノーマル」にも参政権が与えられ、「怪物」や「モンスター」の見た目は個性の一つなんだと多様性が語られた。種族混合の学園が作られ、この宇宙はグローバル化していった。
今日入学式を終えたばかりの私が通うこの学園も、その一つ。
ここは一定以上の能力を認められた「魔法使い」「ノーマル」「怪物」は誰でも通うことができるシステムになっている。それらと比べると知能指数が極端に低い「モンスター」にはとてつもなく高い壁だが、ごく少数ながらも体育館に集う新入生の中に姿が見られた。
「魔法使い」そして私達「ノーマル」は、これまで正義の名の下におよそ二割の「モンスター」、一割にも満たない「化物」達を迫害し、侵略し、彼らの幸福を奪い続けてきた。
魔法によく似た、しかし魔法よりも戦闘力に長けた彼らの能力を、その人から外れた異形な外見を恐れ、「魔法使い」や「ノーマル」を守るための栄光な仕事として、討伐職なんてものがあったりもした。
この学園には全ての種族が混在している。
「魔法使い」ですら「怪物」と比べると戦闘力は大きく劣り、数の利でこれまで彼らを虐げてきたのだから、この小さな小さな世界ではその逆が起こっても何一つとしておかしくない。
「怪物」からすると数年前まで自分達を虐げ殺そうとしてきた奴らが、急に多様性だの何だの言い出して学校を勧めてきたのだ。もしかしたら身内の仇かもしれない人達と同じ部屋に集まること。それが何を意味しているのか。
左隣に座るのは銀髪の美しい「魔法使い」で精霊族の女の子。右隣には「ノーマル」で最も戦闘力の高い貴族で裕福な家柄の女の子。
ここにいるのは「ノーマル」だとしても一般人なんて一人もいない。――私も含めて。
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