4話

◆side:文月裕也◆


翌朝。

昨夜散々無駄に悩んでいた裕也は、椎名の作った朝食を食べながらため息を一つついた。

いや、一つどころじゃない。結構出てると思う。


「行きたくねぇ……」

「はぁ……このチキンお兄ちゃん、略してチキ兄がよ……。朝からため息ため息、終わってる顔を見せられる妹の身にもなって」

「……ごめんって」

「そもそもなーんでそんなに悩んでるのさ、普通に接してくれるでしょ、芽衣ちゃんも智樹くんも」


その通りである。あの二人の性格は裕也自身が一番理解しているつもりだし、ちょっと逃げたくらいでどうこうなる関係でもないのは分かっている……。


「分かってるんだけど……ね?」

「ね?じゃない、ほら遅刻するよー」

「いや、かなり家から近いから、まだいける」

「どうしてお兄はこういう時だけ頭の回転早いの……ほら、早く早く」

「うわーん、ひっぱられるー、いじめだー」

「バカ言ってないで行動」

「はい……」


相変わらず呆れ顔をしながら至極真っ当な意見を放ってくる椎名に負ける裕也、なんとも滑稽である。

椎名は『もう少し家でゆっくりしてから行く』とのことで追い出されてしまった裕也は、とぼとぼとした足取りで、学校へ足を運んでいた……のだが。


「いやー、春の天気というのは良いもので」

「うんうん、そうだねぇ~」

「……で、どうして一緒に登校しているんですか?……芽衣さん?」

「……?」


はて?という顔で首を傾げる芽衣さん。


「いや、そんな可愛い誤魔化し方されても無理だよ、さすがに」

「かわっ……!?こほん、まぁ裕也くんなら理由は分かるよね」


悪い顔をしながら『どう?ドッキリ大成功!』と言っている椎名の顔が頭に浮かんできたので追い払っておく。


「まさか突撃されるとは……」

「ん?嫌だったとは言わせないよ?」

「あはは……」

「んー?」


にっこり笑顔でこちらの発言を待ってくれている芽衣……ただ、笑っているようには見えない。


「すいませんでした……」


謝罪は受け入れてくれたようだが、まだ少し膨れ顔な芽衣は少し前に歩いてから振り返り、こちらを見ながら話しだす。


「ほんとだよぅ!急に逃げるなんて!おこだよ!わたし!」


なんとも可愛い言い回しで、片手を腰に当てこちらを指さしながら頬をぷくーっと膨らませる芽衣は、かなり破壊力がある。


「いやほんとに、ちょっと気まずくなっちゃってつい……もう大丈夫だから」

「ほんと?きらいになったとかじゃない?」

「それだけは本当に無い!!」

「そ、そっか」


芽衣にそんなことを考えさせてしまった、それは重罪だ。一人脳内反省会を行うことを決意していると、ようやく機嫌を直してくれたのか自然な笑顔を見せてくれるようになった。


(なんか、浮気を疑われてる彼氏みたい)


……邪な考えを頭から取り除いて雑談を続けていると、あっという間に学校に着いていて、このまま雑談を続けるわけにもいかないので続きは放課後にということで教室前で別れた。


◆◇◆◇


「にゃはは、ちゃんと会ったか」


時は流れて昼休み。

いつも通り我が妹……椎名と昼ご飯を食べるために合流して話をしていると、やはりというか……すぐに犯人は見つかった。

……まぁ元から一人しか思い浮かばなかったけど。


「お前なぁ……めっちゃびっくりしたわ」

「チキ兄はどうせヒヨって話しかけられないと思ったから、妹なりの手助けってもんですよ」


口を『ω』の形にして、ドヤ!っと胸に手を置く椎名。

なんともウザったい表情をしているが、実際自分から話しかけに行けたかと言われると怪しかったので、感謝せざるを得ない。


「はいはい、ありがとうございます妹様」

「もっとあがめてくれていいよ、あ、近くにタピ屋出来たらしいからそれで――」


調子乗りモードに入ったので、無視してご飯を食べ進めていく。

……まぁ、お目当てのものは今度買って帰ってあげるとしよう。


「で、お兄は芽衣ちゃん達とお昼ご飯食べなくてよかったの?」

「まぁ、また放課後って話したし、椎名との時間も大事だし」

「…………ふむ、なぜそれを芽衣ちゃん相手に出来ないかね?」


そんなことを話していたら、予鈴五分前を告げる鐘が鳴った。


「っと、やべべ。それじゃお兄、がんばるんだよ」


そう言い残すと椎名は口に残ったパンを詰め込み、走り去っていった。

良い子は廊下……中庭でも歩きましょうね。


「……やべ、俺も行かないと」


◇side:紬芽衣◇


すこし時は戻り、二年二組の教室にて。


「……ってことがあって!無事嫌われてなかったよ!安心安心」


お昼。わたし、芽衣は幼馴染の智樹と一緒にお昼ご飯を食べながら、朝の出来事を話していた。


「なんというか……行動力すげーな、お前も、椎名も」

「ふふん、そうでしょー」

「いや、褒めてないけどな?」

「?」

「まぁ……良かったな、地味に俺も話すの久しぶりだからなぁ」

「なに、智樹緊張してるの~?」

「昨日のお前ほどじゃねーよ」

「なっ!かわらないもん!」


……智樹と、が子供らしい言い合いをして、それを俯瞰している裕也くんとわたしが、行きすぎそうなタイミングで仲裁に入る。

それがわたし達幼馴染のもとの姿。ここ数年は二人だったけど……また一人、裕也くんが輪に戻ってきそうで。


「……話す事リスト、つくっておいた方がいいかな?」

「お前もまだ緊張してんじゃねーか」


まぁ、今はこの時間をのんびり過ごして……また考えれば良いよね!

わたし達はお昼ご飯を食べながら雑談を続け、放課後に備えていた。

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