幼馴染と再会したら空も晴れる~再会した幼馴染の猛攻が止まらない~

下無川ぜんざい

一章

出会いと別れの季節、または再会

1話

ピピピ、というありふれたアラームの音で目が覚める。

なにか懐かしい夢を見ていた気がするけど、内容はなんとなくしか覚えていない。

確か……もう何年も会っていない幼馴染が出て来る夢だったような気がするけど、気にしていても仕方がない。


「んん……」


カーテンの隙間からはやわらかな太陽の光が差し込んできて、顔のあたりを照らしてくる。

せっかく部屋の電気を消して寝ているのに、これじゃあ意味がない。

俺、文月裕也ふづき ゆうやはそんなことを考えながら、体を起こす。


「――い?……お兄ー?起きてるー?」


それとほぼ同時に部屋の扉をノックされ、扉越しに話しかけられた。

扉の先に居るのは妹の文月椎名ふづき しいな

裕也のひとつ下で、高校一年生になる歳の女の子だ。


「んー……今起きた」

「偉いぞお兄、新しい高校を初日から遅刻は、さすがに違うもんね」


いつも通りジト目をしている椎名は遠慮を知らない強さで扉を開ける。


「妹に起こしてもらうなんて、まだまだ子供だねぇ」


そう言いながら、裕也の部屋にあるそこそこ良い椅子にひょいと座ると、綺麗に結ばれているサイドテールがぴょんと跳ねた。


「勝手に座るな、あと子供扱いするな」

「ひとりで起きれるなんて偉いねー」

「おいこら」


我が家のノリはだいたいいつもこんな感じで、とても元気で仲のいい兄妹だ。


「それじゃ、もうご飯できてるから早く支度して降りてくるんだよ」

「ありがとう、すぐ行く」


茶番はもう飽きたのか表情を元に戻して椅子から降り、部屋のドアノブを握りながらこちらに一言告げると、――バンッ と勢いよく扉を閉めて部屋を出て行った。


扉の事はもう少し、労わってやってもいいと思うけど。


◆◇◆◇


支度を済ませリビングへ向かうと、既に朝食が用意されていた。

今日の献立は目玉焼きを乗せた食パンにコーンスープ、サラダ。なんと豪華な朝ごはんだろう。


「いただきます」


同時に手を合わせてから、すべての生き物と椎名に感謝する。

黙々とパンを食べ進めていると、サラダを食べる手を止めて箸を置いた椎名が話しかけてきた。


「それにしてもお兄、二年生から転校なんて馴染めるのかね?」

「お前は良いよな、一年からだから大して被害なくて」


嫌味っぽくそう言っておくが、椎名はわははと笑っている。

まぁ別に裕也たちが悪いわけでもないので、罪悪感を持たれても困るのだが。


「まぁなんとかなるでしょー。お兄、外面だけはちゃんとしてるもんね」

「まるで家ではちゃんとしてないみたいな言い方」

「妹に朝ごはん作らせて、なんなら起こしに行ってあげてるわけだけど」

「ぐうのねも出ません」


なぜ高校二年生のタイミングで転校?と思うかもしれないが、両親が転勤族なのでこれまでも何度か転校しているのだ。

良い点を挙げると――色々な場所を見れるので毎回新鮮なこと。

悪い点を挙げると――今まで作って来た友達が全てパーになること……これは何度経験してもそう慣れるものじゃない。


(しかも今回は……)


「それにしても、まさか突然海外とはね」

「いやほんとに、ビックリにもほどがあるよ」


裕也たちの父親が突然、海外に行くと言い始めたのだ。

さすがに高校生という大事な時期、じゃあ俺たちも……と、ノコノコついていくわけにもいかない。

母親も心配そうにしていて、とても父親に着いて行きたそうにしていたので背中を押し、小学生まで住んでいた場所に妹と二人で戻って、二人暮らしを始めた。


――というのが、妹と二人で生活している経緯だ。


詳しく知らされずにせっせこ引っ越し作業が進んでいったので未だに実感があまりないが、通う高校から近い家ということで、良いんじゃないかと思っている。


「……だからあの夢を見たのか」

「むぐむぐ……ん?なんか言ったー?」

「いや、なんでもないよ」

「?そっか」



たまに軽い雑談をしながら朝食をペロリと完食し、流れでそのまま皿洗いを済ませると、あっという間に登校の時間が近づいてくる。


「初日から通常授業かー、大変だ」

「始業式の日だから甘えるなって話だよお兄」

「そうはいっても、椎名もだろ」

「うん、正直……すごいメンドクサイ」


なんやかんや言いながらも、登校からは逃げられない。

椎名より少し早く、家を出ることにする。


◆◇◆◇


通学路を歩いていると、所々から春の訪れを感じる。

たとえば地面には散った桜の花びらが落ちており、沢山の人々に踏まれた花びらは色を失い、しわしわになっている。


「……我ながらもう少しエモい言い回しを考えられなかったものか」


まぁ、ライトノベルとかでよくある、桜舞い散る中メインヒロインと遭遇し、風景と相まって一目惚れする……わけでもないし、パンをくわえて走ってたらヒロインとぶつかるわけでもないし。

言うとしたら散った桜の花びらの話くらいしかない。


(……とはいえ、この季節は涼しくて良いなぁ、最近の夏はすごい暑いし……)


そう、大して面白くないことを考えながら足を進めていると、少しずつ同じ制服を着た人々が目に入ってきて、学校が近付いているのだと思う。

高校に近いこのマンション、いざ歩いてみると結構近かった。

寝坊しても走ればなんとか間に合いそうな距離感に感動を覚えつつ、気付けば校門の前に。


(到着、桜ヶ丘高校……っと、これ……すごいな)


なんとも良くあるネーミングセンスだと一瞬思ってしまった自分を叱りたい。

校門を抜けると大きな桜の木が出迎えてくれるこの景色はそう思わせてくれるほど圧巻で、目を奪われてしまう。


(でっかー、写真撮って親に送りつけとこっと)


写真を一枚撮ってLINEに送りつけ、スマホを閉じる。

ずっと校門の前に突っ立っていても邪魔なだけなので、さっそく中に入っていく。


(えっと……職員室に行けば良いんだっけ)


桜に目を奪われつつも学校に足を踏み入れ、事前に貰っていた学校案内のマップを頼りに校内を進んでいく。

……学校の地図を凝視しながら歩く見慣れない生徒がいるからかたまに視線を感じるが、まぁいいだろう。


「お、君が文月くんね」


少し歩いていると、突然そう名前を呼ばれたので前を見る。

……ゴツい、三十代くらいの人が立っていた。


(デカいな...二メートルはあるか?)


「百九十ね、これでもう二百回は言われた気がするよ」

「あ、すいません」


心の声が漏れていたようだ。


「自己紹介がまだだった、僕は君のクラス……二年一組と体育教師を担当している後藤信二、よろしくね」


そう言うと後藤先生は手を差し出してきた。


「よろしくお願いします……」


笑いで手を握り返すと、とても強い力で握られた。ただただフィジカルが強いのか、もしくはさっきのを根に持ってか……どちらにしろ、握られた手はしっかり痛かった。

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