領主様は料理人 ――ナーロッパ民の口にフランス料理をぶち込んでやるぜの巻――
毘沙丸/見習い蛮族
第1話 フレンチの料理人、ナーロッパの大地に立つ
剣と魔法の異世界ファンタジー、中世ヨーロッパ風の雰囲気を添えて。
そんな、いわゆるナーロッパ的な異世界に転生したら、何をしたいだろうか。
どんな異世界か、どんな境遇なのか、チートはあるのか、物語によって様々な味付けはあるだろうものの、おおむね「成功」を目指すはずだ。
成功といっても色々だ。
超強い冒険者になってドラゴンみたいな強力な魔物を打ち倒して名誉を得るか。
大金持ちになって何不自由ない立場になるか。
奴隷を買ってみたりハーレムを築いてみてもいいだろう。
あるいは田舎でスローライフをするのもいい。成功の形は人それぞれだ。
面白そうだと思う。これは本音だ。
男なんてものはいくつになっても剣と魔法の冒険譚に憧れるものだ。
いざ自分がその立場になったときにゲーム感覚で人生をプレイできるかはさておき、せっかく異世界転生した以上は何かしらやってみたいと思う。
冒険者ギルドに登録してみたり、ゴブリンの討伐依頼を請けてみたり、モンスターを倒してレベルアップ!だとか、貴族になったり魔法学園に通ってみたり、そういういわゆる異世界っぽさを味わいがてら、金!酒!女!名誉!みたいなギラッギラの人生を送ってみるのは面白そうである。
ただし、前世にでかい未練がなければの話だ。
俺の前世は料理人だった。自分の店を出すのが夢だった。
高校を卒業して調理師学校で料理を学び、社会人になってからはあちこちの飲食店で修業をすること十年あまり。
フランス料理の技術を磨きながら安月給をやりくりして金を貯め、そろそろ独り立ちして店を開こうか、どんな土地にしようかな、と。
そんなことを考え始めた矢先に転生トラックめいた交通事故に突っ込まれた。
気が付けば異世界の人間に意識が憑依していたというわけだ。
俺は激怒した。ブチギレであった。失われたものの重さにである。
現代日本で個人が飲食店を出すなんてのは異世界とか関係なく普通に冒険である。
十何年もの下準備を経て実力を付け、金を貯め、ようやくこれから世界と勝負するのだと意気込んでいたところで、君の人生お終いね、と唐突に幕が下りてしまった。
こつこつ貯めていた金が、すっと宙に溶けて消えてしまったような心持ちだ。
こんなもん誰でもブチ切れるに決まっていた。
そんな中、「あっ異世界に転生したんだ!じゃあ二回目の人生は異世界ファンタジーっぽいからゴブリンたーおそ!」って気分になるか?ならないんだよ。
もう一周、三回目の人生があるんだったらそういう普通の冒険っぽいことをしてみたいなとは思う。異世界ライフをエンジョイしてみたいなと思う。
が、少なくとも今は。この二回目の人生はそうではない。
前世における未練を昇華させなければ俺は先に進めない。
他のことなどどうでもいい。
自分の店を出し、自由に料理の腕を振るう。全てはそれを叶えてからのことだ。
というわけで店を出した。
早えよという突っ込みが飛んできそうだが、まあ聞いてほしい。
俺の憑依先の人物はとある貴族の三男だった。食い道楽の遊び人だったのだが、そろそろどこかに婿に行けと言われていて、まさに自由をなくしつつある立場だった。
そんな彼に憑依した俺は、最初は夜逃げを考えていた。
料理が作れない生活など受け入れられない。
が、ちょうどその頃、村を一つ作ろうっていう話が家中で持ちあがった。
領地の端のほう、山沿いのド田舎にダンジョンが見つかったからだ。
ダンジョンからは資源が採れる。だからすぐそばに開拓村を作って発展させようってことになったらしい。
これだ、と思って俺はその責任者に立候補した。
自分が領主になれば、俺がルールである。
村を発展させるという義務を果たしてさえいれば、俺が店を持って料理を売っていたとしても村の食糧問題を解決しているだけという言い訳が効く……かもしれない。
そして何より初期投資に貴族家の金が使える。これがでかい。
その大半はインフラ整備などに回さないといけないだろうが、村の規模にしては立派な領主館の大半……一部が料理を提供できる造りになっていたり、大がかりな調理設備や酒蔵があるぐらいは誤差であろう。
普段使われないスペースの有効活用と言い張る予定だ。
そういうわけで、何もなかった土地に開拓村を作る業務を俺が引き受けて、半年。
最低限の村としての体裁と、村の規模にそぐわない立派な俺の店が出来た。
俺は形になった自分の店を眺めて感慨にふけった。
前世から続く未練が一つ昇華した瞬間である。
この店で、異世界の人間を相手にフランス料理を作って食わす。
なんだか笑いがこみ上げてきて、俺は自分の店の前に立ち尽くしながら笑った。
フハハ笑いに始まり、ヒャーッハッハッハへと至る大はしゃぎであった。
村人にはドン引かれた。
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