第2話 依頼主
「あ、来たわね〜。こっちよタツミちゃん〜。」
5人が喫茶店に入って店内を見渡していると、間延びした口調の金髪のショートボブで金眼の明らかに外国人の風貌の女性が声をかけてきた。
「レピス……頼むから、ちゃん付けは辞めないか? 結構恥ずかしいんだが?」
声の主の方を見るとタツミはウンザリとした表情で首をガックリと落とした。そしてレピスと呼ばれた女性の座っていたテーブル席へと腰をかける。
「そんな事言ってもね〜。だったら〜お義姉さんと呼んでくれたら〜考えても良いわよ〜。」
「断る。まだ兄さんとは結婚してないだろうが!」
「婚約してるんだから〜別に良いじゃないの〜。」
そう言ってレピスは左手の薬指に付けている指輪を全員に見せた。
「ねぇ、タツミ君。確かお兄さんとレピスって付き合い始めてからまだ一月ちょっとしか経ってないわよね? 早くない?」
ユキが驚いた表情でタツミに聞くが、目の前にある指輪が真実を物語っているので全員が黙っていた。
「俗に言うスピード結婚だわね……まぁあのお兄さんなら何が起こっても不思議じゃ無いと言うか。」
ナギが呆れた様子でなんとか口を開いたが、その場にいた全員が同意だったのかその後に続く者はいなかった。
「で、稲葉さんは?」
レンが微妙な空気にリセットをかけるかの様に質問すると、レピスは腕時計を見て首を捻る。
「そろそろの筈なのだけど〜。」
同時に喫茶店のドアが開く音がして厳つい40代位の細身のスーツ姿のイケオジ系の男性が入店して来た。
男性は集団に気が付くとネクタイを直しながら近づいて行く。
「すまない、待たせたね。お詫びと言っては何だが好きな物を頼んでくれ。時間も時間だし夕飯代わりでも構わないよ。話も少しは長くなりそうだからね。」
言われた瞬間、ナギとユキはすぐにメニューを開いて何を頼もうかと探し始めた。
「流石稲葉さん! じゃあ私はこのカレーセットとブレンドで!」
「ん~だったら私はサンドイッチセットとカフェオレでいくわ。」
二人は即決すると注文をマスターに注文する。その様子を見て稲葉と呼ばれた男性は微笑ましい物を見る様な表情で頷いていた。
「ほら、君達も頼みなさい。腹が空いては頭に栄養が行かないぞ? レピさんも好きなのを頼んで。」
「そうね~、では遠慮無く頼みましょうか~。」
レピスが残った3人にメニューを渡して促す。3人はこの話が長くて厄介な案件だと瞬時に理解したのか、複雑そうな表情をしていた。
そして各自が頼んだメニューが届くと喫茶店ならではのコーヒーの良い香りがテーブルに漂う。
「さて、では食べながら聞いてくれ。今回の依頼は最近起きている連続放火事件なのだが、不審火にしては全てボヤで済んでいて防犯カメラに被疑者が映っていない状況が続いている。」
稲葉がゆっくりと全員を見渡しながら説明を始める。
「ナルホド、防犯カメラにも映っていないが事件は起きている。つまりは普通の人には見えない者が犯人と言う事ですか?」
タツミが稲葉の言いたい事を先読みするかの様に言葉を続けると、稲葉は黙って頷いた。
「そうだ、これを見てくれ。」
そう言うと稲葉はタブレットを出してある画像を全員に見える様にテーブルの上に置く。
「コレが放火現場だが、発火する瞬間に君達なら何か見えるだろう?」
そこには誰も居ないゴミ捨て場からいきなり発火する映像が流れていた。しかし火は小さく、少し燃えただけですぐに消えた。
「あ~何か居るな。昼間に放火でおかしいと思ったが、そう言う事か。」
「居るわね。小動物型かしら? 流石に人間がやるなら夜中にやるわよね。」
レンとナギが真っ先に答えると、他のメンツも頷く。
「恐らくだが下位精霊か何かが現世に迷い込んでいるのだと思う。早急に下位精霊の場合は駆除を依頼したい。発生時刻は常に午後2時前後になっているので参考にしてくれ。」
「下位精霊の場合は駆除……と言う事は上位精霊だった場合は?」
稲葉の言葉の裏を読んでタツミが質問すると、稲葉は顎を手で撫でながらニヤリと笑ってタツミを見る。
「その時はタツミ君の出番だよ。上位精霊を駆除しては自然エネルギーのバランスが崩れてしまう可能性が高いからね。」
稲葉はそう言うと、持って来たカバンから人数分のホルスターに収まった銃を取り出してテーブルに置いた。ゴトンと重い音がテーブルに響くとそれがモデルガンでは無い事がすぐに解る。
「今回は何回使えるんですか?」
ヒジリが銃を見ながら質問する。
「3回分だ。銃身部分に各自の名前が書いてあるのでいつも通りに使ってくれ。間違ってもタツミ君以外は他人のを使ってはいかんからな?」
発言を聞いてから各自が自分の名前が入った銃を手に取って各自がホルスターを装着する。それを見ているマスターは素知らぬフリをしているので関係者なのが伺えた。
「分かってます。流石に間違って使ったら死ぬ可能性の方が高いんですから気を付けて使いますから。」
ヒジリがそう言いながら銃のマガジンを出して赤色の弾頭を確認していた。他の4人もマガジンをチェックしてしていた。
各自で違うのは弾頭の色がタツミは黄色、ヒジリは赤、レンは青、ナギは緑、ユキは無色透明となっていた。
「で、早速だけど現場は?」
ナギはそう言って稲葉の方へと手を出す。
「理解が早くて助かるよ。そしてこっちを見てくれ。」
稲葉はタブレットの画面を地図に切り替えて手渡すと、そこにはバツ印が数点書かれていた。
「コレが発火元かしら?」
ヒジリが地図に書いてあるバツ印の意味を瞬時に理解すると、それに番号が振ってあるのにもすぐに気がついた。
「つまりこの印を見ると、扇状的に進んでいるようね……それに間隔も一定ですね。となると次は道の分岐が有るとしたら……明日、ここかここら辺ということね。」
ヒジリは地図に2箇所にバツ印追加で付けた。
「ほほう、相変わらずヒジリちゃんは頭の回転が早いな。ウチの部隊の意見とほぼ一緒だな。」
稲葉はそう言うとコーヒーを飲み干してテーブルの上に置くと、料理が冷めないうちに先に食べろと言わんばかりにタブレットをしまった。
「まずは食べ終わってからにしなさい。腹が減っては戦は出来ぬからな。それに今回の被害も少ないし急ぎの案件では無い。まぁ三日程で解決してくれると助かる。今の画像はみんなのスマホに転送しておくよ。」
稲葉はナギの言葉を聞いて大きく笑うと食事を促す。そして自分はコーヒーをおかわしてゆっくりとその様子を楽しそうに見守っていた。
全員が「3日って全然急ぎの内容じゃないか」と思った表情をしたが稲葉は素知らぬフリをしてコーヒーを飲んでいた。
「クロちゃん~3日は急ぎの案件だと思うのだけど~?」
レピスがみんなの意見を代表したかの様に言うが、稲葉は首をかしげて答えた。
「レピさん、何を言っているんですか? 急ぎの案件とは即日解決しなければいけない内容ですよ? 3日も猶予が有るんだからこうやってゆっくりと喫茶店で話しているんじゃないですか?」
「急ぎだったら~どう呼び出してたのかしら~?」
レピスが呆れた顔で聞き返すと、稲葉は至極真面目な表情で答えて来た。
「え? 全員に緊急招集掛けますよ? 学校なんて国家権力でどうとでもなりますから! 今までは緊急案件では無かっただけです。」
「そこまでする内容っていったい何なのよ!? と言うか気安く国家権力振りかざさないで!」
ユキが真っ先に苦情を言うが、稲葉は全く悪びれてる表情は無かった。それを見てヒートアップしそうなユキをヒジリが止める。
「ユキちゃん、一応私達も国家権力に保護されてる立場だから……落ち着いて。精霊使いなんて世間一般にバレたら面倒事に巻き込まれるだけじゃすまないよ。」
その場の全員が諦めた様な表情で沈黙のまま食事をしたのだった。ただしレピスを除いてだが。
「ん~美味しいわね~。マスター後でレシピ教えてくれない~? 彼に作ってあげたいわ~。」
陽気な将来の義姉にタツミだけは更に複雑そうな表情をしていたのだった。
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