精霊使い達の学園生活

@texiru

第1話 日常の風景

 セミの声が反響する体育館に気合の入った声が響いている。


「セイヤァァァァァ!」

「メェェェェェン!」

「コテェェェェ!」



 剣道部の面々の気合の入った声と全身を防具で包んだ男性陣の道着姿はセミの声と相まって熱気が更にこもって暑苦しさを倍増させていた。


 その風景を少しだけ風が入って涼しい入り口付近に三人の少女達が手持ち扇風機を使いながら眺めているのが確認できた。


「まだ7月の頭なのに何でセミは元気なのかしらね? 時期的に早すぎる気がするわよ。」


 他の2人に比べて頭一つ分くらい小柄なお団子頭の少女が冷シートを取り出して汗を拭き始める。


「最近は異常に暑いからね、セミが出て来る時期も早くなったんだね。」


 腰まであるの長い髪を背中の真ん中辺りでゆったりと一本結いにしている少女はハンカチで汗を拭きながら同意している。


「そもそも何でこの暑いのに見学に来てるの? 私が一番無関係なんですけど?」


 胸元まで伸びた髪をおさげにした少女は鞄からうちわを出して手持ち扇風機から変えて仰ぎだした。


「ユキ……うちわは辞めなさいよ……おっさんポイわよ? それにみんなで待ち合わせて行こうって言ったのはアンタじゃないの。」


 お団子頭の少女がジト目でユキと呼んだ少女に嫌なら早く帰れと言う表情をしている。


「だって1人で行くの寂しいじゃない! 何で仲間なのに私だけ1人行動になるのよ! ナギは解って言ってるわよね!?」


 ナギと呼ばれたお団子頭の少女は面倒臭そうな表情をして手でシッシと追い払おうとしている。


「わざわざ彼氏待ちの私達に付き合ってる時点でそうなるって解っているわよね? 嫌なら先に待ち合わせの涼しい場所で待っていれば良いじゃない? 1人でね! 大事だからもう一度言うわね、1人で!」

「アンタねぇ……相変わらず扱いが雑すぎるんですけど? 少しは治したら? そんな感じじゃ友達作りに苦労するわよ?」


 ユキも負けじと嫌味で返すとナギも負けじと口論が始まる。


 その様子を呆れた様子で見ている長髪の少女がソロソロかと言う頃合いを見計らって止めに入る。


「2人とも、もうすぐ終わる様だからソロソロ辞めた方がいいよ? 稽古が終わるとどんな声でも響いちゃうから。」


「ヒジリちゃんの言うとおりね。クールダウンが始まったから静かにするわよ。」


 ヒジリと呼ばれた長髪の少女に言われて2人は口を閉じて静かになる。


 しばらくすると先程までの喧騒が静まり返ったように静寂が場を支配する。部員達は防具を外して瞑想をしていた。


 パン!


 顧問の先生の手を叩く合図とともに全員が目を開ける。



「礼!」

「「「ありがとうございました!!」」」

「互いに! 礼!」

「「「ありがとうございました!!」」」


 全員が深々とお辞儀をして稽古が終わりの合図を告げる。



「本当に……この瞬間だけは軍隊かと思うような動きだわよね。」


 ナギが感心した様子で眺めている。


「私はこの静と動の切り替わる瞬間が好きかな。」


 ヒジリと呼ばれた少女は嬉しそうな表情で眺めていた。対照的にユキはやっとかと言った表情をしていた。


「私的には努力している姿は好きだけど、この暑さだけは勘弁してほしいわ。」


 そんな話が始まると同時に先程全員に合図を送っていた180cm程の長身の少し目付きが鋭い少年と、それに比べて10cmほど低い背の対照的に優しそうな目付きの少年が三人の元へと歩いて来た。

 

「ナギ、お前の声は稽古してても響くからもう少し声のトーンを落とせ!」


 目つきの鋭い少年がお団子頭の少女、ナギに注意すると負けじとばかりに反論が始まる。


「どうせ私の声が判別つくのはレン位だわ。彼女の声だけ特別に聞こえるんでしょ? もう少し稽古に集中したら?」

「相変わらずのへらず口を……、タツミ! お前からも少し言ってやってくれ!」


 レンと呼ばれた目つきの鋭い少年は隣に居た優しい目付きのタツミと呼んだ少年に助けを求めた。


「レン、流石に俺も居るなぁ位にか思わなかったぞ? そこはナギの言う方が正しいんじゃないか?」

「ほら見なさい! アンタが自意識過剰なの!」


 ナギが勝ち誇ったように胸を張る。


「デカいのは胸だけにして、態度はもう少ししおらしくなってくれ。」


 レンは援護が無いと諦めたのか、苦し紛れの一言を言うと女性陣から苦情の表情を浴びせられた。


「レン! それは流石にセクハラよ!」

「レン君……ちょっと無いかな〜?」

「最低〜って言うか私とヒジリちゃんに対する宣戦布告と認識して良いのかしら?」


 三人娘からの苦情を受けてレンは隣のタツミに助けを求めると、タツミは大きなため息をついて肩に手を乗せる。


「お前が悪い。素直に謝ってさっさと着替えるぞ。ヒジリ、悪いがもう少し待っててくれ。」


 タツミはヒジリと呼ばれた長い髪の少女に微笑むと更衣室へと歩きだした。レンも慌てて一言謝るとすぐにその後を追いかけていった。






 2人は着替え終わって3人と合流すると、目的地へと歩き出す。前をタツミとヒジリが話しながら歩き、後ろから残りの3人がついて行く。

 

「で、今回はエルとリィムは?」

「2人は生徒会に呼ばれているらしくて今日はパスだって。」

「良くも悪くもあの2人は目立つからなぁ……まぁ今回の依頼は俺たち5人でか。」

「全員勢揃いだと逆に動きづらくなるからね。余程大きい依頼じゃ無いと全員揃う事は無いんじゃないかな?」


 タツミとヒジリの会話を聞きながら、後ろの3人も別の会話を始める。


「あの2人って付き合ってないの? 常にワンセットで動いているんだからくっ付いちゃえば良いと思うんだけど?」


 ユキが呆れた表情で言う。


「ん? タツミとヒジリは付き合ってるだろ?」

「バカ、エルとリィムの事だわよ。話の流れを読みなさい。」


 レンの斜め上の返答にナギが素早くツッコミを入れる。その流れの速さにユキは夫婦漫才を見ている表情になっていた。


「アンタ達も大概だけどね……バカップルで校内一有名だしね。もう少し前の2人みたいな付き合い方出来ないの?」


「「誰がバカップルだ!」」


 2人の同時の返答にそう言うところと言いたくなったが、独り身なのは自分だけなのでユキは黙ってため息をついた。


「逆にそう言うリアクションの方がダメージを受けるわよ……? ねぇ、ちょっと? 本当にバカップルって言われてるの私達!?」

「むしろほとんどナギの行動が原因じゃないのか?」


 2人は歩きながら口論を始めるが、そういう所だと教えてやる義理はないと言った表情でユキは前の2人の方へと近づいていった。



「いつもの状態になったからこっちに避難するわ。」


 ユキがヒジリの隣に移動すると2人も呆れた表情で後ろの二人組に視線をうつした。


「あの2人……良く飽きないよな。ケンカしてる様に見えて何だかんだで仲良いし。」

「まぁ……ナギちゃんもレン君も昔からあんな感じだしね。いつも通りだよ。」

「ヒジリちゃん。それフォローになって無いからね? ところで今回はどんな依頼が来たのかしら?」


 ユキがタツミの方へと確認すると、タツミは周りを確認しながら誰にも聞かれていないのを確認すると話し始めた。


「今回は不審火の調査だって。」

「不審火って? もしかして放火魔とかなの?」


 ユキの声が大きかったのか、タツミは大慌てで口に指をあてて声を下げろとポーズを取る。


「ご、ゴメンナサイ。また何かの捜索かと思ったから。」

「でも、私達が呼ばれる時点で『精霊』がらみと見て間違いないのかしらね?」

「多分な、稲葉さんからの依頼だから間違いないと思う。」


 話しているうちに5人は待ち合わせの目的地の喫茶店の前に到着したのだった。


   

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