第7話 閉幕~御世妥村の異界編~
早朝、仏間におりんの音が響く。
「・・・母ちゃん、行ってくるよ」
満仲充は妻に向けて優しく微笑む。
彼の妻は、結婚してから20年、充の傍に寄り添って来た。
華奢な身体、長い黒髪、なぜ自分がこんなきれいな嫁を貰えたのか不思議でならなかったが、悪くない結婚生活だった。
写真の中の妻は、いつも静かに微笑んでおり、それが充にとっては心地よかった。
「・・・よしっ!」
気合いを入れて職場へと向かい、タクシーのエンジンをいれる。
この仕事を続けて30年余り、それが充の誇りであった。
「~♪」
清々しい朝に気分がよくなり、鼻歌を歌い始める。
途中、山道―――昨日、一人の青年を乗せて廃村に向かった場所が目に留まり、タクシーを止める。
「・・・無事なんだべか・・・」
彼がどうなったのかはわからない、ただ自分は、お願いされたから送っただけでその後のことは考えていない。
「・・・ま、考えたって仕方ねぇべ、じゃあ津々木の婆さんとこに―――!?」
頭を振って意識を戻した瞬間、窓ガラスをこんこんと叩かれる。
座席から飛び上がる程驚いたが、すぐに笑顔をつくり、ドアを開けて―――再度驚いた。
「お、あの時の運転手さんだ、駅までよろしくー」
「知り合いですか?」
「ああ、あそこに行くまでに乗せてもらった―――ボルゾフ、奥に行ってくれ」
乗り込んできたのは昨日送り届けた青年であり、一緒にいたのは金髪の少年と、修道服を着た女性であった。
なぜここに?帰ってきたのか?あの山道を?あそこへは何しに―――?
一気に疑問が湧きだしてくるが、それを言葉にはできなかった。
あまりの驚きで声をだすことすら忘れ、口をぱくぱくさせるだけだった。
「ふぅ、さすがに休みなしの下山は疲れたな」
「そうですね、一本道とはいえ、降りるのに相当足腰に来てますね」
「ボルゾフ?―――寝てる」
後部座席で三人が会話しているが、内容は全く頭に入ってきていない。
なぜ一人ではないのか?その二人は?相変わらず疑問は尽きない充であったが、仕事人としての意識を取り戻し、平常運転を心がける。
だが、心臓はバクバクしており、いつもの軽快なトークはできずにいた。
「つ、着きましたよー」
「お、到着か―――ボルゾフ起きろ、行くぞ」
青年が隣でぐっすりだった金髪の少年を起こすと、眠たそうに眼を擦りながらゆっくりと降りる。
「あ、そうだ」
支払いを終え、お別れというところで、青年―――励人は何かを思い出したかのように充と目を合わせる。
思わずびくり、と身体を震わせるが、精一杯の笑顔で『何か?』と尋ねる。
すると、青年は人差し指と中指を重ね―――まるで映画で見た陰陽師が呪文を唱えるような形で―――たかと思うと
「――――忘」
「ありがとうねぇ、充ちゃん、気をつけるんだよ」
支払いを終えた老婆が何度も頭を下げながら、タクシーを降りる。
昔から付き合いのあるこの老婆は、年を取った今でも、自分のことを『ちゃん』づけで呼ぶ。
「――――あいあい、また何かあったら呼んでね」
ほぼ毎日のようにこの老婆を病院にまで送り、そして必要とあらば迎えにまでいく。
それまでは特に依頼も入ってないので、少し休もうとした充は違和感に気づく。
「・・・あれぇ?」
今日の最初の客はあの老婆『だけ』のはず―――だというのに、何故か支払いの回数が『二回』になっている。
充が忘れないように、先輩から怒られてからやっていることだ、間違うはずがない。
「・・・・・・・・?」
浮かびあがる疑問は靄がかかったかのようにはっきりとしない、寝不足か?とも思ったが、それはない。
薄気味悪さに悪寒を覚えながらも、タクシーを走らす。
「お、外人さんか、ここに来るとは何事かねぇ?」
信号待ちの途中、黒髪の青年と、金髪の少年、そしてなぜか修道服を着こんだ女性が何か談笑しながら歩いている。
そこに何の違和感も覚えず、タクシーを走り出すと、応援が入る。
「はい、こちら充、すぐに向かいます―――」
世界秩序防衛機関 ~陰陽師・神白励人の退魔活動~ 二豊 要 @adval
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