第3話 起点を探して

「うわぁ」


 家のバケモノを消失させた後、起点を探すべく、村中を走りまわる励人は、目の前に広がる惨状に思わず声を上げる。


「あいつら・・・やりすぎ・・・いや、こうしろと言ったのは俺か・・・?」


 事前の情報をかけ合わせれば、およそ百人は下らない村人はいたであろうが、その村人達など意に介さなかったのか、胴に風穴が空いた者や、頭が吹き飛んだ者、光の矢で貫かれ、岩壁や地面に磔ににされている者等、その様相は多種多様であった。


「まぁ、既に『死んでいる』奴らだから問題はないか・・・」


 そういう励人も、襲ってきた村人は『丁寧に』対応しており、彼が通った後は焦げ跡が残っていた。焼かれた元・村人達は悲鳴を上げることなく、燃え散っていた。

 御代妥村は広く、三方向に分かれても、未だ報告が上がらない。結界の一つでも壊せば、この場所を創造している空間に『ヒビ」が入るので、わかりやすい。


「ってかあいつら見つけたら壊してるんだろうな・・・?」


 その疑問を解消するかのように、ボルゾフの銃声が響く。


「お、みつけたのか―――?」


 しかし、辺りに何の変化も見られず、思わず立ち止まった直後、右足に激痛が走り、視界が回転した。



「主よ、その御力を以て、迷いし魂を救いたまえ!!」


 レイシアの放った光の矢は、村人の胴体を貫き、そのまま壁や地面に突き刺さると、拘束を始める。


「ああ・・・!何という・・・!この方達はこの場所に捉われ・・・!今も尚、苦しんでいるのですね・・・!」


 胴体を貫かれた村人は、そのまま地面に縫い付けられたように身動きがとれず、必死にもがくが解かれそうもない。

 レイシアの背後には似たような惨状が広がっており、それらを一瞥した後、指を組んで祈りの姿勢を取り、涙を流す。


「そんな哀れな皆さんを、浄化してさしあげるのが、我ら『教会』の務め・・・!」


 涙を拭き取り、眼光が鋭くなると、地面に仰向けになっていた村人に近づき、足を振り上げ、その頭を容赦なく砕く。

 その様子をじっと見つめていたレイシアは、悲哀の視線を送りながら、次々と村人達の頭を潰していく。

 辺りに血飛沫が舞い、カソックが汚れても気にする様子はなく、まるでそれが『当然』であるかのように、余すことなく踏みつぶした。


「頭を破壊すれば・・・動きはとまりますね」


 しばらく悶絶していた村人は、やがてパタリ、と倒れて動かなくなる。

 降り出した雨が、血を洗い流し、道を赤く染めていく。


「ああ・・・主が、涙を流しておられます・・・!ご安心ください、このシスター・レイシア、悪夢に捉われた人々を必ずや貴方様の元へ―――!」


 雨を神の涙と捉え、それに同調するかのようにレイシアも涙を流す。

 だが、いきなり表情が険しくなると、後ろから迫っていた村人に弓を引く。


「我が教会の光の元に―――!」



(油断した・・・まさか、得物を取られるとは・・・!)


 ボルゾフは、腰に差していた短銃とナイフを手に持ち、辺りを警戒しながら泥棒―――自身のライフルを奪った村人達を追っていた。


(兵士失格だな・・・これでは、隊長に怒られる・・・!)


 兵士として、得物を奪われるなどあってはならない、それが例え古典的な落とし穴に嵌ったり、完全に自分の油断だったとしても―――!

 自身の失態に目を瞑り、微かに見える足跡を頼りに、ぬかるんだ地面に足を取られないように後を追うと、廃屋に到着する。

 中の電気はついておらず、人の気配は感じ取れないが、足跡は確かにここに続いていた。


(絶好のポイントだ・・・高いところにあり、周りが見渡せる・・・それに、出入口が一方向なのも良い)


 狙撃を主とするボルゾフにとって、状況の把握は自然と行えるようになっていた、狙撃手として必要なことを考えようとしたが、頭を振って意識を変える。

 今自分が為すべきことは、得物を取返し、味方との約束を果たすこと―――


「・・・・・・」


 警戒し、壁に張り付きながら意識を耳に集中させる―――

 物音の一つでも聞こえれば、ある程度中の構造を把握できるのだが、敵は微動だにしていなかった。


(考えろ・・・敵が取る行動、最悪の状況、そして―――)


 思考に頭を割いた瞬間、ドォン!と轟音が聞こえ、廃屋が揺れる。


(間違いない!あれは、俺の―――!)


 相棒を見つけたボルゾフは思い切って突入する。

 脳内ではありとあらゆる可能性を想像し、多対一の状況での自分の動きを考えていた。

 短銃を構え、身を乗り出す―――が、目の前には異様な光景が広がっていた。

 自身のライフルは無事であったが、発砲後の硝煙が漂っており、暗くなった室内でもよく見える。

 ただ射手が居らず、隠れているのかと辺りを伺うが、人の気配はない。


「これは――――っ!」


 ぴちゃり、と何かが垂れた音が聞こえ、そちらを向くと壁一面にびっしりと血が飛び散っていた。

 それをみて理解したボルゾフは、安堵の息を吐く。


「当然だな・・・これは我々『世界秩序防衛機関』における特注の銃・・・並の人間が撃てばその衝撃で吹き飛ぶ」


 離れていた相棒に近づき、点検を開始する。

 慣れた手付きで分解し、内部構造を細かくチェックしながら思考を巡らせる。


(細工は・・・特にない、本当に撃っただけ―――)


 そう『撃った』だけ―――ではなにを?

 同士討ち?―――否、試し打ち?―――可能性は微、もう一つは―――


「っ!!」


 焦りを隠さず、スコープを覗く。

 撃った後の銃口の角度、見下ろせる箇所、ありとあらゆる状況を想定して血眼になって探す。

 その時、黒い線が見え、手を止める。

 ゆっくり辿って行った先にみえたのは―――見慣れた黒髪の青年が倒れていた。


「――――アサッ!!」



「いってぇ・・・足は・・・?」


 銃声が聞こえたと思った直後、右足に激痛が走った。

 そのまま吹き飛び、何が起きたのかわからず、放心状態になる。


(あの銃声からして・・・ボルゾフのだな・・・まさかあいつ・・・奪われたか?)


 武器を扱うものにとって、自身の得物は最早身体の一部と言っても過言ではない、しかしそれを手放すはずがないと思ったが、そこで励人はある結論に至る。


「ボルゾフ・・・ドジったな・・・!」


 ボルゾフはまだ若い、それ故に時たまドジを踏むことがあった。

 あの無表情の少年がドジを踏む時は大概、勝利を確信したときである。


「大方、昔ながらの罠にでも引っかかったか・・・くっ!」


 這いずるようにしながら、茂みの中へと隠れる。

 直撃は避けたものの、地面に衝突した『余波』だけで右足の骨が砕け、血が流れる。

 改めて着弾地点を見ると、クレーターができており、威力を物語っていた。


「射手がへたくそで安心した、恐らく銃の反動に耐えられなかったのだろうが―――」


 過去に自身も撃たせてもらったことがあったが、正規の銃よりも反動、威力、重量などあらゆる点で上回っており、余程訓練しないと扱えないことは知っていた。

 それをいくら死後の存在とはいえ、何の訓練も積んでいない人間が撃てば、最悪の場合、反動で死ぬこともある。

 ―――今だけは、機関の技術に感謝しようと思った。


「まずは・・・傷の治療からか・・・!」


 ミリ単位で動かすだけで激痛が走り、思わず叫びそうになるが、なんとか堪えながら、両手を傷口―――右足首の部分へと移動させる。


「―――数多の命を育みし大地の力よ、この傷を癒し、再生の力を施し給え―――」


 優しく、語り掛けるような呪文を唱えると、両手の間に陽光のような暖かな光の球体が出来上がる。

 それが傷口を包むと、出血が止まり、痛みが引いたのか表情に落ち着きが戻る。


「これで・・・何とか・・・はぁっ・・・!はぁっ・・・!」


 簡単な治療を済ませると、額に脂汗がどっと噴き出る。

 雨で濡れた地面に背中を預けると、ひやりと冷たい感触が走るが、起き上がる気力もないのか、しばらく寝たまま動かずにいた。


 ―――あかんわぁ『あーくん』、相変わらず治癒がニガテなんやねぇ?そんなんで討伐できるん?―――


 ふと、瞼の奥に師匠―――糸目でにやけた顔を崩さずにねちねちと痛いところをついてくる陰険で、陰湿で、面倒くさい人―――の顔が映る。


「帰ったら・・・きっとそんなこと言われるんだろうな・・・ふぅっ!!」


 それが励みとなったのか、身体を起こし、両手で勢いよく顔を叩く。


「足は・・・まずそれなりに・・・走れはしないが、歩ける程度・・・」


 まだ本来の動きはできず、地面を踏もうとすると顔を顰める程の痛みが走る。

 休んでいたところで異界から出られるわけでもない、そして激情に走りやすいシスターと、どこか甘いところがある少年兵士だけに任せるわけにはいかず、歯を食いしばりながらも、道に出る。


 ―――キィイイィィィィィィィィ!!!!


「――――っ!?」


 もうひと踏ん張り、と踏み出そうとしたところ、脳が直接揺さぶられる怪音波のような音が響き渡る。

 視界が歪み、立っているのもやっとの状態で、思わず耳を抑え、その場に蹲り、危険だとわかっていても身体が動かせずにいた。


(この音は・・・あの異形のバケモノと同じ!?だが、あの時より、音が―――!)


 この村に来て、初めて対峙した異形―――あの人ならざるバケモノが発した声質に似てはいたが、あの時は不快感などなかった。

 今響いている『声』はあの時とは比べ物にならないほど異質であり、何かをして防がなければ、脳が破壊されると錯覚するほどの衝撃となって全身を貫いていた。


「ぐ・・・・!終わ・・・った・・・?」


 徐々に音が小さくなり、ぼやけた視界で辺りを見渡す。

 ふらふらになりながらも立ち上がり―――疑問を感じた。


「足が・・・治って・・・!?」


 先程まで歩行すら困難だったはずの右足が完治しており、異常がないか確かめるために動かしたり振ったりしてみるが、痛みなどない。


「一体何が・・・!?」


 事態を把握しようとした瞬間、背後から聞きなれた叫びが聞こえ、振り向く。


「あれは・・・復活したのか!?」


 励人の視線の先には、潰したはずの家のバケモノが再度復活しており、瓦礫を吸収し始めていた。

 更に先行させたレイシア、ボルゾフが倒した村人達の死骸が、起き上がったかと思うと、吹き飛んだ頭がどろどろの液体に包まれ、元通りに再生していた。


「何がなんだかわからないが・・・もう一度、やるだけだ!!」


 両手に『鳳凰の尾・焔』を展開させ、襲い来る村人達への攻撃を始める。

 粗方燃やし尽くしたところで、家のバケモノに見つからないように隠れる。


「あいつらは無事か・・・?」


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