第2話 気まずい体育倉庫

 俺、赤坂あかさかたける。9月21日...あと5ヶ月くらいで16歳になります。

 まだ人生経験浅いのに...ただ今、女子と体育倉庫に監禁されてます!しかも2人きり!同じクラスだけど喋ったことない!どうすればいいのでしょう?

 てことで本当にどうしよう。閉じ込められて約1分。無言タイム記録更新中だ。そろそ勇気出して話しかけてみるか。気まずいし。月原だって珍しく感情が籠ったかおしてるし。まあ流石に戸惑うよな。よし、ここは緊張をほぐすために明るく話しかけよう。そう思いながら俺は口を開いて、

 「あ、あのs...」

 「ねえ、君、スマホ持っていない?それで外に助けを求めよ。私は教室に置いてきちゃって。」

 「え...」

 「スマホ持ってるのか聞いてるの。持ってないの?」

 「あ...持ってる。」

 「そう。なら良かった。じゃあそれで誰かに連絡して。」

 「わ、分かった。」

 突然よくしゃべるようになって困惑してしまった。しっかりしてる人なんだな...

暗闇の中でも微かに顔が見える。やっぱり顔に愛想がない。冷淡な感じがする。

 そう思いながら俺はは拓斗たくとにメールを送り、すぐに向かうという返事がきた。

 「今連絡が来て、すぐに向かうって。」

 「そう。すぐに出られそうで良かった。連絡してくれてありがとね。」

 やさしい話し方だが、やはり顔は笑っていなかった。別に泣きそうな顔をしていたり、怒った顔をしているわけではないない。ただ笑ってないだけなのだ。なんか、こう、希望を失ったような、そんな感じがする。そう思いながら視線を向ける俺に、

 「君、同じクラスの赤坂君でしょ。」

 月原は唐突にそんなことを聞いてきた

 「あ、ああ。君は月原だろ、窓側の席の。というか、なんでこんなところにいたんだ?俺は体育館にあった外用ボールを片付けに来たんだよ。」

 緊張がほぐれてきたからか、俺は質問できるぐらい普通に喋れるようになってきた。

 「私は昨日の体育でハチマキをここに忘れちゃったから取りに来たの。昨日までハードル走の授業だったでしょ?ハードルを片付けた時に置いて来ちゃって。」

そういえば月原は授業の時一人だけハチマキをしていなかった。この学校では体育の時はクラスカラーのハチマキを頭に付けることになっているのだ。

 「へえ。それで、見つかったの?」

 「ええ。ハードル置き場の下にあったわ。」

 「そっか。それは良かった。」

 「............」

 「............」

 静かな空気が流れる。月原は出口の方に視線を向けていた。

 ............気まずい!でも話すことが無え!どうする?噂のこと話してみるか?いや流石に初めて喋ったばかりの人にその人の噂を話すのはノンデリすぎる!

そ、そうだ!GWゴールデンウィークの話をしよう!とりあえずこれで話をつなぐんだ。拓斗早く来てくれ!

 「GW、もうすぐだよな!」

 唐突に俺は月原に話しかけて無言タイム新記録更新を防いだ。 

「え?...あ、そうね。」

 ちょっと困惑気味に月原が返事をする。

 「俺さ、家族旅行で函館行くんだ!月原はどこか行くのか?」

 やべえ!これただの自慢になってないか?大丈夫?

 「私は特に。家族...とね。羨ましいわ。」

 完全に自慢してしまった。

 「そういうの、大切にしときなね。」

 「え?」

 予想外の言葉にはおれを驚いた。普通だったら、ましてやこの子がそんなことを口にするだろうか?その真意が気になった俺は口を開いた。

 「それってどうi...」

 

カチャッ!

ガッシャ―ン!!


大きな音と共にシャッターが開いた。そして、眩しい光がはいってきた——


 救出された俺たちは鍵をかけてしまった生徒にめちゃくちゃ謝られた。そして、その日はあれ以降月原と喋ることはなかった。女子と2人きりで閉じ込められるという貴重な体験はあっさり終わってしまった。あの時は早く出たいと思っていたのに今になってもっと堪能しとけばよかったと思ってしまう。

 その日の放課後、俺は拓斗と帰宅していた。

 「なあ、どうだった?アニメみたいな事を経験して。感想は。」

 「どうもなにも、すぐに終わっちゃって。お前が想像するようなことは何もなかったよ。アニメでは学校の屋上に行けるけど現実では禁止されているようにアニメと同じことなんて起きないんだよ。」

 俺は拓斗の質問に淡々と答えた。

 「えー。つまんないな。やっぱ貴重な高校生活なんだから青春したくね?」

 「部活にも入ってない俺らが言うことじゃないないだろ。でもわかる。青春したい。アニメみたいな生活したい。」

 そう、俺たちは部活に入っていないのだ。俺はまだ3年生になったばかりの妹がいる。父親は仕事で帰りが遅い。母親は俺が10歳の時に他界した。最初こそ貧乏な暮らしだったが、父さんは忙しくなるのと引き換えに昇進したことで今ではGWに旅行に行けるぐらいには裕福な暮らしをしている。母さんはこれで安心してくれているだろう。というわけで、妹に遅くまで1人で留守番させるのは流石に心配なので俺が部活に入らないで早く帰ってきえ面倒を見てるのだ。

 拓斗はバドミントンのクラブチームに入っているので部活に参加する時間があまり作れない.拓斗のチームは関東大会に出場するぐらいガチなのでほぼ毎日の様に練習がある。そりゃ部活も不可能に近い。そのため、俺たちは帰宅部として活動しているのだ。

 「だよなだよな。まあ結局は面白い機会を待つしかないんだけどさ。だからこそそんな機会があった武が羨ましい!月原さんとは何も話さなかったのか?」

 「いや喋ったけどさ。月原は必要な事以外は話してこなかったよ。すごく冷静だったし。」

 俺はその後に「でも、」と付け足し、

 「気まずかったからGWの話をしたんだよ。俺が家族旅行に行くって言ったら家族を大切にしとけみたいなこと言われたんだよね。」

 「なんか月原さん特に言うこと無くて苦し紛れで話した感じあるけど大丈夫そ?」

 「いやそんなことはないだろ!......ないよね?」

 急に爆弾発言してきやがった。

「さあ?でも、だとしても月原さんからそんな言葉が出るなんて意外だな。」

 「だよな。どういう事か聞こうとしたら丁度救出されて聞きそびれちゃった。なーんか意図がある気がするんだよな。」

 「適当に話をつなげただけな気もするがな。」

 「言うな。」

 というか、1度くらいはあの子の笑った顔を見てみたい、せっかくの美少女なのに

損している。まあ、そのうち見れるだろう。

 

 そう考えているうちに拓斗と交差点で別れ、俺は1人で帰っていた。

 そんな俺の視界に見覚えのある美少女が映った。

 紛れもない、月原だ。月原も家がここら辺なのだろうか。でも今まで見かけなかったぞ。たまたまだろうか。

 そう考えていると、月原は30代ぐらいの男と合流し、人気ひとけがないところへ歩いていき、俺の視界から消えていった。

 これ、やばくね?完全に犯罪臭がするんですけど。あの男は家族だといえるほど似ていなかったし。少しアニメと似た展開だが、これは現実だ。もしかしたらなにかに巻き込まれているかもしれないし、なにかあってからでは遅い。別に俺は喧嘩とか強くないけど。少しでも喋ったクラスメイトを助けたいと思う。


 俺はこっそり後をつけることにした——



 

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絶対に笑わない月原を笑わせたい ゆずの花 @yuzu92219150

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