絶対に笑わない月原を笑わせたい

ゆずの花

第1話 どうしてこうなったのだろうか

 どうしてこうなったのだろうか。

 占いで今日は素晴らしい一日になるって言ってたのに。

 でも、第三者から見たら羨ましがられるのだろうか。

なにせ、美少女と二人きりで体育倉庫に閉じ込められているのだから―—


 高校に入学してまだ一ヶ月も経っていないある日の朝、

俺—―赤坂あかさかたける はいつも通りに登校していた。

 今日は一時間目が体育だ。一時間目から運動は少し嫌いだ。だって寝起きなのに体動かすんだもん。2、3時間目にやるよりも体感3倍疲れる。しかもエネルギーの消費が激しいくせに体がイマイチ動かない。こんな症状はもしかしたら俺だけかもしれないがもしそうなら多分俺以外人間辞めてる。

 そんなことを考えながら通学路を歩いていると、車道を挟んだガードレールの先の歩道を歩いていた見覚えのある子が視界に入った。 

 その子は整った顔立ちで、長い黒髪を揺らし、細長い足で歩いていた。世間一般で言う美少女ってヤツだ。

 たしかあの子は俺と同じクラスの子だ。名前は...月山つきやま?...月浜つきはま?......そうだ月原つきはらだ!下の名前はたしか結華ゆいかだったはず。クラスメイトの名前くらいはっきり覚えておけと言われるかもしれないが入学してまだまもないうえに会話を交わしたこともないのだ。仕方がないだろう。

 月原はTHE無表情だと言える顔で歩いてる。普通だったら別に変では無いが月原は感情を失ったかのかと思うほどの真顔なので少し気になってしまう。そういえば、何人かのクラスメイトから聞いたことがある。月原は全くと言っていいほど表情が変わらないらしい。笑った顔も、怒った顔も、泣いた顔も誰も見たことがない。まだ入学して間もないから別に変ではないかもしれないが、流石に表情ひとつ変えないのはちょっと...そう考えているうちに学校に到着した。月原はすでに学校の中に入ったのか、俺の視界から消えていた。俺は下駄箱で靴を履き替えて二階にある自分の教室に向かっていった。


 教室でホームルームを終えた俺は体操着に着替えてクラスメイトの相沢あいざわ拓斗たくとと一緒に体育館に向かっていた。ちなみに、相沢とは中学からの友人だ。

 「なあ、相沢って月原と喋ったことある?」

 そんな突拍子もないこと俺は相沢に質問した。ふと気になってしまったのだ。 

 「え、何急に。」

「いや別に。気になっただけ。」 

「ふーん...まあ少しだけあるよ。席も近いしね。」

 相沢はちょっとだけ不思議そうな顔だった。

 「やっぱ噂通り無表情?」

「ああ。マジで無表情。この子感情どっかで捨ててきたんじゃないか思うくらい。ああい子って親しい人にしか本当の自分を見せないんじゃないかな。」

 やっぱり噂は本当のようだ。

 相沢はニヤニヤした顔で。

 「なに?狙ってんの?まあかわいいしな。」

「別にそんなんじゃないけどさ。噂が気になっただけ。でも、確かにかわいい。」

 思春期の男子高校生はかわいいってだけでその女の子を異性として意識してしまう。まあ俺は性格もある程度気にするが。俺は別にイケメンではないし特別性格が良いわけではないのでそういう事を好き勝手言えるわけではないけどね。


 そんなこんなしてたら体育館に到着し、一時間目の授業が始まった。体育館のステージ側半分で男子が、後ろ側半分で女子がバスケの試合をすることになった。

 バスケはスポーツの中でも好きなほうなので結構嬉しい。俺を含めた生徒全員がコートに入ると体育教師がホイッスルがなった—―


 その後、俺のチームは中学で県大会優勝を経験したバスケ部のエリートがいたので試合に勝てた。その子は上手すぎて休憩中の女子の視線を集めていた。...俺もバスケガチってみようかな。

 そんなことを考えながら水分補給を終えて片付けに参加するかと動きだそうとした俺に体育教師が話しかけてきた。

 「赤坂、悪いがこのバスケットボールを外の体育倉庫に持って行ってくれないか。なぜか室内用のボールの中に紛れていてな。」

 なにそれ。わざわざ靴を履き替えて外まで行かないといけないのかよ。めんどくせー。つい気持ちが顔にでてしまったのか、体育教師は俺の顔を見て呆れたような顔をしながら、

 「お前だけ片付け何もしてないだろ。ちょっとぐらい働け。」

 今まさに水を飲んで片付けに参加しようとしてたところなのだが。

 しかし、この状況から断ることもできないので引き受けた。


 外に出た俺はボールを持って体育倉庫に向かった。校庭に出ると、どっかのクラスが授業でサッカーをしていた。かなり熱狂して授業の終わりギリギリまでやっているようだ。まわりを見渡すと年季が入った大きな建物が端っこにポツンと立っていた。恐らくアレが体育倉庫だろうと思い、俺は足を動かした。

 建物の前に到着すると、壁に‘‘体育倉庫‘‘と書かれた看板が目に入った。やはりと思いながら中を覗くと、中は想像以上に暗かった。外からの光が入っても奥の方に人が入ってたら視認ができないだろう。そのくらい暗かった。体育教師によるとボールのカゴは一番奥にあるらしいので俺は雑に置かれた多数の用具の間に自分が通れるぎらいの幅の隙間を作りながら奥に進んだ。用具の間は元々細い女子が通れるぐらいの幅ができていた。

 しかし、本当に散らかっている。少しぐらい整頓しろよ。

 そして、いよいよ一番奥にたどり着けた。そこは数々の用具で囲まれていたが人が何人か入れるぐらいのスペースが形成されていた。

 俺は目的を果たすべくカゴを探そうと視線を四方八方に向けた。 

 おっ、あったあった。......ん?

 違和感の原因は視界に一瞬入った少し揺れたサラサラな長い黒髪だった。

目を細めて見てみると明らかに人間であり、すこし横顔が見えた。

 その横顔は見覚えがあり、整った顔立ちで冷たい表情をしていた。そのお陰で視界がとてつもなく悪い中でも誰なのかを理解できた。


 月原やんけ。


 そう、そこには月原がいたのだ。

 月原は座り込んでなにかゴソゴソしていた。暗くてよくわからん。

月原は確実に俺に気が付いただろうけど俺の方へ振り向くことは無かった。

 き...気まずい!あっちが振り向かないしなにより話したこともないからどう話しかければ良いかわかんない!神様、俺にコミュ力をください!......もうさっさとボール片付けて帰ろ。死ぬ気でこの空気を乗り超えよう。

 俺は黙ってボールをカゴの中にぶち込んだ。

 よし、戻るとするか...

 「せんせーい、体育倉庫ってカギ閉めときますかー?今僕鍵持ってるんですけど。」

 「あー...今日はこの時間以外体育はどのクラスもやらないし、部活もないから閉じちゃってくれー。」 

 「わっかりましたー。」

 そんな会話が唐突に聞こえてきた。

 そういや今日は短縮日課だったな。拓斗とか誘ってボウリングでも行こうかな。..

......じゃなくて!やばい、このままだと閉じ込められる!中に人がいるって伝えなかきゃ!俺は精一杯の声量で、

 「すいまs...」


ガッシャ―ン!!!

「すいませーん!まだ中に人がいまーす!」、そう言おうとした。そう言いたかった。無慈悲にもシャッター音で俺の精一杯の声はかき消されてしまった。


カチャッ!


 死体蹴りと言わんばかりに鍵をかける音が聞こえた。

 マジかよ...

 月原に目を向けて見ると、この状況を理解できたのか少し戸惑った顔をしていた。

 やっと人間らしい顔が見れたな。だけどな、代償がデカすぎるっ!!

 いつも通りに生活していたら喋ったことがない女子と体育倉庫に監禁。


 どうしてこうなったのだろうか。



          

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