FAX

Kei

FAX

親もいなくなり、実家を売ることにした。俺は週末ごとに荷物を片づけに帰っていた。これでもうひと月が経つが、まったく終わりが見えてこない状態だった。住んでいた学生当時は自分の家にこれだけ多くの物があるとは思いもしなかった。


書類はシュレッダーで裁断して燃えるゴミに。まだ使えそうな家具や家電はリサイクルショップに持ち込むために仕分ける。そんな作業を黙々と続けていたら、物置代わりにしていた部屋の奥からFAXが出てきた。液晶が緑色なことからもかなり古いタイプだ。仕舞われていたことを考えると壊れてしまったのだろうか。本体のプラスチックもすっかり黄ばんでいる。このFAXには見覚えがなかった。


今でもFAXを使っている人はいるらしい。だから壊れてさえいなければリサイクルショップで買い取ってくれるかもしれない。そんなことを思いながら電源ケーブルをコンセントに繋いでみた。少し間があって、液晶に日付が表示された。1996_10_7(月)そして受信を知らせるランプが点灯しだした。


俺は気になったので給紙してみた。ゆっくりと上がってきた紙には手書きの文字が掠れて印字されている。


「ごめんなさい。自分勝手なことをして。お医者さんによると、病気は治らないとのことでした。私の世話も負担になりますし、お金も沢山かかります。あなたに迷惑はかけられません。お父さんのところに行きます。本当にごめんなさい。お母さんを、許してください。」


俺は思い出した。1996年。俺が中学生の時に、母親が自殺したのだ。


それから… そうだ。子供のいない母の兄夫婦がここに引っ越してきたのだ。どうして忘れていたのだろう。亡くなったのは伯父と伯母だったんだ。


記憶の底から母親との思い出がよみがえってきた。父が事故で亡くなり、それからは一日中、昼も夜も働いていた。しかしいつでも優しかった。俺はそんな母親が大好きで、尊敬していた。


親の看病を迷惑と思うだろうか。俺は思わなかっただろう。経済的に苦しければ必死でアルバイトをしただろう。最後まで一緒にいたかった。


FAXはいつの間にか電源が落ちていた。ボタンを押しても反応しない。


俺は実家を売ることをやめ、ここに住むことにした。思い出したいことが沢山ある。

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FAX Kei @Keitlyn

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