続き

 鼻につんとくる糞尿のにおい。巨大な蜘蛛の巣。歩くたびに埃が舞う。


「おい、激戦区を生き抜いたぞ!会えてよかっt...」


 ゴッ!


 戸を開けた瞬間、妻は木片で俺の顔をめがけて殴ってきた。そこには一切の躊躇がなく、唯一あったのは、身体を芯から焼くような強い憎悪。


「絶対に許さない!」


 彼女の瞳の奥から放たれる光は、スナイパーライフルのようだった。


「待ってくれ!誤解があるみたいだ!俺は浮気なんかしていない!一体誰だ!そんなことを言ったのは!」


「聞かされたわけじゃないわ!あんたの写真よ!コレよ!」


 彼女はくしゃくしゃになった新聞紙を俺の顔面に投げつけた。


 そこに、俺が美女たちに囲まれている写真があった。戦争で途中離脱した人間がどのような生活を送っているのかについて書かれている記事だ。


「待ってくれ!これは俺じゃない!」


 俺は先月まで爆弾の降り注ぐ戦地で敵兵と銃弾を撃ち合っていた。


「じゃあこれはなんなのよ!?あたしがどんな気持ちで待ってたと思ってるの!?ふざけないでよクソ野郎!」



 これは、写真などでは無く、天才的な画家が遊び心で描いた"絵"だった。戦場で戦っている人間をせめて絵の中だけでも幸せにしてやりたいという気持ちで描いたものだが、新聞記者の勘違いにより、記事に取り上げられた。

 彼は浮気などしていないし、途中離脱もしていない。濡れ衣をかぶせられたストレスでこの世を離れた彼は、もう二度と帰ってこない。

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帰郷『自主企画用』 猫の耳毛 @Takahiro411

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