1-5
スドアは指示されるままに、集めてきた流木を船の上に乗せた。どう見ても、船に継ぎ足すような形の素材ではなかった。
「どうするんだい」
「もちろん加工します」
そう言うとペカリクは、左手の手のひらに右手の甲をこすりつけた。そして、スドアにはわからない言葉をつぶやく。
「ええっ」
流木が宙に浮き、形を変え始めた。欠片が組み合って、箱のような形になっていく。木箱が出来上がり、船にぴったりとくっついた。
「木材だと耐久性は望めませんね。でもしばらくは大丈夫なはずです」
「あの、これは何なの?」
「エンジンです」
「?」
「空気中の水素をエネルギーとするタイプです。馬力はいまいちですが、漕いで渡るレベルの島へならばすぐでしょう」
スドアの目が点になっていた。言葉の意味が全く理解できなかった。彼は馬さえ見たことがなかったのである。
「やはり君は、魔術師だったんだね」
「私は科学しか利用していません。ただ、理解してもらえるならば、魔術師ということでもいいでしょう」
「ふむふむ。ああ、日が傾いてきた。結局助けは来なかったなあ」
本来は、一晩経った後にすぐ迎えが来るはずだった。だが、スドアは誰も来ない予感がしていた。嵐の後はいろいろ大変で、生きているかわからない自分のためにわざわざ誰かが海を渡ってくるとは思えなかったのである。
もう死んでいると思われているだろうなあ。スドアは苦笑した。
漕ぎ手が急死しているなどとは、誰も予想していなそうである。ならば帰らない理由として最もわかりやすいのが、嵐の中で遭難したというものである。
あるいは、交渉のさなか殺されたとか、拉致されたと考えるかもしれない。何にしても助けが来ない理由は、いくつでも考えられた。
「二つの大きな島が完治できました。どちらの島がスドアの住むところですか」
「君は万能なんだなあ。あちらだ。日が沈む方の島」
ペカリクはスドアの指さす方を見た後、空へと視線を移した。
「とても綺麗な太陽です。あと何万年かは、安心できそうな」
「ドゥミヌ様! 大変です!」
大きな椅子に腰かけた、大男。頭には大きな葉のついた、蔦で編みこまれた冠をかぶっていた。彼はジャカラヤ国西島の島主、ドゥミヌである。
「どうした。今度はどこで問題だ」
低い、重たい声だった。
「それが……スドア様が帰ってきました!」
「……良かったではないか」
一瞬ドゥミヌの瞳孔が開いた。すぐにいつもの顔に戻る。
「それが……変な者を連れているのです」
「変な者? 東島の者か」
「それがとてもそうは見えなくて。いやもう、人にも見えぬのです」
「人にも見えぬ?」
「体は全て鼠色で、太陽を反射して光っております。目はガラスでできており、耳はどこにも見当たりません」
「何を言っているのだ」
ドゥミヌは眉間に皺を寄せ、立ち上がった。
「いやその……本当で……」
「スドアとその者をここに連れて来い」
「はいっ」
男は一目散に部屋を出て行った。
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