第10章
藤木は自分の決意を胸に、日々を過ごすようになった。最初はその変化が少しずつ、日常の隙間から顔を出す程度だった。だが、次第にその変化が周囲にも影響を与え始める。藤木が以前よりも積極的に行動し、何かを選ぶことに対して迷いが少なくなったことを、誰もが何となく感じ取った。
仕事でもその変化は現れた。藤木は以前なら少し躊躇していた新しいプロジェクトに対して、果敢に手を挙げるようになった。普段は理屈で物事を考え、計画的に動いていた彼女が、時には直感に従って決断することが増えた。その結果、予想以上に上手くいくことが多かった。そして、彼女の上司や同僚たちもその変化に気付き、次第に藤木に対しての信頼が深まっていった。
それと同時に、藤木自身も感じることがあった。自分が何かを選んだとき、それが最終的にどんな結果を生むかは分からない。それでも、選ぶことで得られる自由さがあった。それは、過去の藤木にはなかった感覚だった。
そんなある日、藤木は再び吉田と顔を合わせることになった。今回の再会は偶然ではなかった。吉田から連絡があり、久しぶりに二人で食事をしようということになったのだ。藤木は少しだけ緊張していた。吉田とは、もう少し深く話をしたいと思っていたし、あのカフェでの出来事が彼女の中でずっと引っかかっていたからだ。
その夜、藤木は吉田と向かい合いながら、少し照れくさそうに話し始めた。
「吉田さん、あの日のこと、覚えていますか?」
吉田は少し驚いたような顔をした後、うなずいた。
「もちろん覚えていますよ。」
「その後、私、少しだけ考え方が変わったんです。」
藤木はそう言うと、少し考え込みながら続けた。
「直感を信じること、自分が本当に感じるままに選ぶこと。それがどれだけ大切か、最近実感しているんです。」
吉田は少し黙ってから、じっと藤木を見つめた。
「そうですか。」
「ええ、少しずつ、自分が選ぶことに対して恐れなくなってきたんです。あの時、吉田さんが言ったことが、私にとってすごく大きかったんです。」
吉田はその言葉に静かに耳を傾け、そして軽く笑った。
「よかった。それを聞けて安心しました。」
その笑顔は、藤木にとって何よりの安心感を与えてくれた。吉田は何も言わずに、ただ藤木の話を聞いてくれる。それが、どこか藤木にとって必要な時間だった。
その後、二人は仕事や趣味の話を交えながら、静かに食事を楽しんだ。会話の中で、藤木は徐々に吉田と少しずつ距離を縮めていくのを感じた。それは、無理に進めるものではなく、自然とお互いが理解し合っていくような感覚だった。
「吉田さん、私、もっと自分の感情に素直になりたいんです。」
藤木は言った。言葉にした瞬間、自分でも驚くほど心が軽くなったように感じた。吉田はそれに答えた。
「それが一番大事だと思いますよ。感情に素直でいること。理屈を超えて、感じるままに生きること。それがきっと、藤木さんにとっての答えなんでしょうね。」
その言葉を聞いて、藤木は静かにうなずいた。彼女は確信した。この道を歩んでいけば、必ず自分が求めていた「自由」を手に入れられるのだと。
その夜、藤木は家に帰る途中、ふと足を止めて空を見上げた。星が輝いている空の下で、藤木は自分が本当に望んでいることが何かをようやく見つけたような気がした。それは、何か大きなものを手に入れることではなく、自分を信じ、選ぶこと。その選択が、藤木にとって何よりも価値のあることだと気づいたのだ。
そして、次の日からも、藤木は日常の中で小さな選択を重ねていった。それは、他人の期待や社会のルールに従うのではなく、自分自身の心が望むことを選び取ることだった。そして、その小さな選択が積み重なった先に、藤木が本当に望む人生が待っていることを、彼女は確信していた。
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