第2章
昼休みのあとの仕事は、いつもよりも少し重く感じる。藤木はデスクに戻ると、無造作にパソコンを開き、今日の業務に目を通し始めた。しかし、手がキーボードに触れる度に、どこか浮ついたような感覚が残る。自分がこの作業をしているのは、何か他の理由があるからではなく、ただ「やらなければならないから」という無機質な理由からだということが、ふと心に降りかかる。
「別に意味があるわけではない。」
藤木は独り言のように呟いたが、誰も気にすることなく、その言葉は空気中に消えていった。
人は、こうして何の意味もない作業を繰り返す。目的を果たすためではなく、目的そのものが確立される前提で、ただ流されている。
その中で、一番つらいのは、誰かの「期待」に応えなければならないというプレッシャーだ。自分が納得できる理由で仕事をするのではなく、ただ「それをしている人」という枠に収められること。自分を他者の目で見て、他者の期待に答え続けるその過程こそが、最も空虚であることに気づくのだ。
藤木は再び画面に目を落とす。文字が並び、指示が並ぶ。その一つ一つが、何のために生きるのかという問いを遠くに置き去りにして、ただ動いていく。
彼女はその中に、何かを見逃しているような気がしていた。けれど、それが何かはわからない。
そのとき、ふと横のデスクから声がした。
「藤木さん、今度の休み、どうしますか? どこか行きませんか?」
小山だった。
藤木はその声を聞くと、少し驚いたように顔を上げた。
「休み?」
「はい、もう少しで三連休じゃないですか。もし良ければ、みんなでどこかに行きませんか?」
小山は明るく笑った。
藤木は少し考える。三連休。
「どこかに行く」というのは、確かに自分にとっては一つの「脱出」かもしれない。しかし、その行動そのものが、何かに「意味」を与えようとしているような気がして、彼女は一瞬戸惑った。もし行ったとして、そこに何の意味があるだろうか。
でも、また同じ日々を過ごすのも、やはり空虚だ。何かを見つけなければならない。そのために動かなければならないという強迫観念が、心のどこかにしっかりと根を張っている。
「どこか行くのも悪くないかもしれませんね。」
藤木はついに答えた。自分でも驚くほど、あっさりとした答えだった。小山は喜び、他の同僚にもその話を広めることになった。藤木はしばらくその後ろ姿を見つめた後、再び画面に目を落とした。
小山の無邪気な提案は、藤木にとってある意味、心の隙間を埋めるような役割を果たしていたのかもしれない。心の中に小さな揺らぎを持ちながらも、どこかではその小さな揺れに耐えている自分を、どこかで他者に確認してほしかったのだろうか。自分の中で大きな問いを放棄したくなる瞬間、それでも誰かが手を差し伸べてくれるのを待っていたのかもしれない。
昼休み後、仕事が終わりに近づくにつれて、藤木の心は少しずつ軽くなっていった。だが、その軽さが何かの予兆だとは思えない。自分が動き出すことで、どこかへ辿り着くことができるのか、あるいはただの逃避に過ぎないのか——その確信がないまま、藤木は日常に戻る。
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