第35話 リングの星、誕生!?スターダスト・キャニオンの実力!
更衣室のカーテンが開き、そこに現れたリコの姿に、俺は完全に言葉を失っていた。
カッコいいのに、めちゃくちゃ可愛い。
なんだこれ!
シルバーのスパンコールが体育館の照明を浴びて、星屑のようにキラキラと輝いている。腰のベルトには大きな星のバックル、そしてそこからぴょこんと覗く、ふさふさの尻尾。本人の髪色と同じ、鮮やかな赤茶色のマントが、その背中で誇らしげに揺れている。
そして何より、視線を釘付けにするのは、そのマスク。犬の耳を模したフォルムに、星の刺繍と小さな青いLEDライトが埋め込まれている。その光は、まるで夜空で瞬くシリウスのようだ。
「……どう、でしょうか、主殿…? 変、じゃないですか…?」
リコが少し照れながら、もじもじと俺の反応を窺う。マスクで表情の半分は隠れているのに、その不安と期待が入り混じった気持ちが、痛いほど伝わってくる。
「い、いや……変なわけ、ないだろ……」
俺の喉から、ようやく絞り出されたのは、そんなカスカスの声だった。
「……すげえ、似合ってる。カッコ可愛いぞ、リコ」
「! えへへ……! ありがとうございます、主殿!」
俺の言葉に、リコは太陽みたいな笑顔を見せた――ように見えた。マスクの下の口元が、満面の笑みの形に綻んでいるのが分かる。パタパタと嬉しそうに揺れる尻尾が、彼女の喜びを雄弁に物語っていた。
「よーし、決まり! リングネームは『スターダスト・キャニオン』だ!」
団体のリーダー、ミキさんがパン!と手を叩く。
「リコちゃん、めちゃくちゃ華があるよ! これはスターの原石だね!」
「あ、あの! ミキさん! 約束が……今日は見学だけで……」
俺は慌てて釘を刺そうとするが、ミキさんはニヤリと笑って俺の肩を叩いた。
「まあまあ、彼氏くん、心配しなくても大丈夫だって! うちのベテランに、軽く手合わせしてもらうだけだからさ!」
「か、彼氏じゃありません!」
「主殿は主殿です!」
俺とリコの声が、見事にハモった。
場の勢いと、リコの「お願いします!」というキラキラした瞳に、俺の最後の抵抗も虚しく霧散した。
リコは意気揚々とリングへと上がり、リング中央でファイティングポーズを取る。その姿は、もうすっかり一人のレスラーだった。
対戦相手としてリングに立ったのは、ミキさんと同じくらいキャリアが長そうな、体格のいい先輩レスラーだ。
カン!と、練習開始のゴングが鳴り響く。
その瞬間、リコの纏う空気が変わった。さっきまでの、はにかんでいた少女の面影はない。そこにいたのは、獲物を前にした、しなやかな獣のような戦士だった。
先輩レスラーが、様子を見るようにじりじりと距離を詰める。
動いたのは、リコが先だった。
トンッ、とリングを蹴ったかと思うと、その姿は残像を残して相手の側面に回り込んでいた。
「なっ!?」
速い!
先輩レスラーだけでなく、周りで見守っていた練習生たちからも、驚きの声が上がる。
リコは、異世界で培った戦闘技術を、無意識のうちにプロレスの動きへと昇華させていた。相手のパンチを紙一重でかわし、流れるような動きで背後を取る。そして、観客にアピールするように、軽やかにロープへと跳んだ。
その反動を利用した跳躍は、まるで重力がないかのように高く、美しい。空中で華麗に一回転し、強烈なキックを相手の背中に叩き込んだ!
「ぐうっ!」
まともに食らった先輩レスラーが、前のめりに倒れ込む。しかし、そこはベテランだ。すぐに体勢を立て直し、リコに向かって突進する。
「面白いじゃないか、お嬢ちゃん!」
俺はリングサイドで、ただゴクリと唾を飲むことしかできない。リコが、あんなに楽しそうに、そして力強く戦っている姿を、俺は初めて見たかもしれない。
「ふん、妾の護衛なら、あの程度はできて当然じゃ」
俺のリュックの中から、ルナの少しだけ得意げな声が聞こえる。
「データ照合。リコ殿の潜在能力開花率、予測を15%上回りました。極めて高い適性です」
シズクの冷静な分析が、逆にリコの凄さを際立たせていた。
試合は、クライマックスを迎えようとしていた。
リコは一瞬の隙を突き、相手の懐に飛び込むと、力強い雄叫びと共に拳を突き出した。
「せぇいっ!」
それは、以前の戦いで見せた、ただ力任せの打撃ではなかった。力を一点に集中させ、相手にダメージを与えつつも、どこか魅せることを意識したような、華麗な一撃。
――仮称、「スターダスト・パンチ」!
ドゴォン!と、リングに大きな音が響き渡る。
リコの拳を受けた先輩レスラーは、見事な受け身を取りながら、派手にマットに沈んだ。
シーン……と静まり返った体育館。
その静寂を破ったのは、ミキさんの興奮した叫び声だった。
「……合格ッ! いや、合格以上だよ! リコちゃん、あんた、天才だ!」
ミキさんがリングに駆け寄り、まだ少し息を切らせているリコの手を、ガシッと掴んで高々と掲げた。
「スターダスト・キャニオン! 今度の春祭り、エキシビションマッチでデビュー決定! いや……うちのエースに、なってくれ!」
突然のエース指名に、リコはマスクの下で目をぱちくりさせている。そして、助けを求めるように、こちらをちらりと見た。その瞳は、「わたくし、どうすればいいですか?」と問いかけているようだった。
俺は、リングの上で照明を浴びて輝くリコの姿から、目が離せなかった。
心配だった。危険なことには、巻き込みたくなかった。でも――。
あんなに生き生きと、楽しそうに戦うリコの姿を見たら、もう、反対なんてできるはずがなかった。
「……リコが、本気でやりたいんなら……俺は、応援するよ」
俺がそう言うと、リコは、マスクの下で、ぱあっと花が咲くような最高の笑顔になったのが分かった。
彼女はミキさんに向き直り、力強く頷く。
「はいっ! やらせてください! スターダスト・キャニオン、頑張ります!」
こうして、一人の新しい星が、春のリングに確かな一歩を刻んだ。
この先に何が待っているのか、今はまだ分からない。でも、俺は、彼女が放つキラキラとした輝きを、一番近くで、ずっと見守っていこうと、心に決めたのだった。
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