第27話 聖域『龍穴』、決戦前夜の誓い
中古ワゴン車を降り、俺たちは未知の領域へと足を踏み入れた。そこは、地図にも載っていないような深い森の中。木々は天を衝くようにそびえ立ち、地面は厚い苔で覆われている。都会の喧騒とは無縁の、太古からの静寂が支配する世界だ。
「……空気が、濃い……」
俺が呟くと、リコが大きく息を吸い込んで頷いた。
「はい! 体の中に直接、力が流れ込んでくるようです! すごい!」
その赤茶色の犬耳は周囲の微かな音を拾い、尻尾は期待感で力強く揺れている。
「極めて高密度の生命エネルギー、そして霊的エネルギー……これが龍脈の奔流に近い場所ということでしょう。まさに聖域……ですが、同時に、強大な存在を引き寄せる場でもあります」
シズクは冷静に分析しながらも、その紫色の瞳には隠しきれない興奮の色が浮かんでいた。
俺たちは、シズクの持つ魔術的なコンパスと、この場所に近づくにつれて微かに光を放ち始めたルナ(猫)の感覚を頼りに、道なき道を進んでいく。時折、見たこともない奇妙な植物や、風化した古い石碑のようなものを見つけ、ここが尋常な場所ではないことを実感させられる。
どれくらい歩いただろうか。森が不意に開け、俺たちは息を呑んだ。
目の前に広がっていたのは、月光を受けてエメラルドのように神秘的な輝きを放つ、広大な地底湖だったのかもしれない。天井はなく、夜空が見えているが、周囲は切り立った崖に囲まれ、外界とは隔絶された空間を作り出している。湖の水は信じられないほど澄み切っており、湖底からは淡い光が漏れ出ているようにも見えた。そして、湖の中央には、自然に形成されたとは思えない、古代遺跡のような祭壇が浮かんでいる。周囲の崖や巨石には、光る苔が一面に生い茂り、幻想的な光景を作り出していた。
「ここが……『龍穴』……!」
言葉にならないほどの、圧倒的なエネルギー。空気そのものが震えているような、神々しいまでの場所。俺たちはただ、その光景に立ち尽くすしかなかった。
「感じる……! 強い力が、体の奥底から……妾を呼んでおる……!」
俺の腕の中にいるルナ(猫)の体が、湖の光に呼応するように、これまで以上に強く、淡い光を放ち始めた。
明日の夜、満月が空の頂点に達する時、この湖の中央にある祭壇で儀式を行う。そして、おそらくは最強の敵『角』級も、その時を狙って現れるだろう。
俺たちは湖畔から少し離れた、身を隠せる岩陰にキャンプ地を設営し、最後の休息をとることにした。焚き火を熾し、携帯食料での質素な夕食をとる。パチパチと燃える炎の音と、湖面を渡る風の音だけが聞こえる、静かで、けれど張り詰めた夜。
「明日は、絶対に勝ちましょう! そして、皆で一緒に、あのアパートに帰りましょうね!」
リコが力強く言う。その瞳には、不安よりも強い決意が宿っていた。
「ええ。必ずや儀式を成功させ、ヴァルガスの野望を阻止します」
シズクも静かに頷く。
「健太、リコ、シズク……お前たちがいれば、妾は……きっと……」
ルナが、いつになく素直な言葉を口にする。
「ああ、絶対に成功させる。そして、皆であの騒がしい日常に帰るんだ」
俺は、仲間たちの顔を見回し、力強く言った。
食後、それぞれが明日に備えて休息をとろうとする中、俺は焚き火のそばで一人、燃える炎を見つめていた。明日、俺の力が、想いが、本当にルナを救う鍵になるのだろうか……? 不安がないと言えば嘘になる。
「……主殿」
ふと、リコが隣にやってきて、ちょこんと座った。
「あの……怖くない、ですか……?」
少しだけ不安げな表情。俺は、その赤茶色の頭を優しく撫でた。
「怖いさ。めちゃくちゃ怖い。でもな、リコたちがいるから頑張れるんだ。お前こそ、無理するなよ」
「は、はい! わたくしも、主殿がいるから頑張れます!」
リコは顔を真っ赤にして、力強く頷いた。その健気さが、俺の勇気を奮い立たせてくれる。
リコが寝袋に戻ると、入れ替わるようにシズクが隣に座った。湖の光を映して、彼女の紫色の瞳が神秘的に輝いている。
「……健太さん」
不意に、彼女は俺の名前を呼んだ。どきりとする。
「明日は……よろしくお願いします。わたくしが必ず儀式を成功させます。あなたと、皆の想いを、決して無駄にはしません」
静かだが、強い決意が込められた言葉。俺は、その冷たいようでいて温かい手を、そっと握った。
「こちらこそ。シズクがいなきゃ、何も始まらないからな。一緒に、未来を掴もうぜ」
「はい……」
シズクは俺の手を強く握り返し、月明かりの下で、初めて見るような柔らかい微笑みを浮かべた。その美しさに、俺は言葉を失った。
最後に、俺の寝袋に潜り込んできたルナ(猫)を抱きしめる。その小さな体は、期待と不安で小刻みに震えているようだった。
「健太……本当に、できるのか……?」
弱気な声。俺はその小さな頭を優しく撫でる。
「俺を信じろ、ルナ。お前と、リコと、シズクへの想いが力になるなら、俺はなんだってできるさ。絶対に、お前を元の姿に戻してやる」
「……ふん。当たり前じゃ。信じておるぞ、健太……」
ルナは心地よさそうに目を細め、俺の胸に顔をうずめた。
それぞれの想いを確かめ合い、最後の夜が更けていく。
燃える焚き火を見つめながら、俺は静かに覚悟を固める。不安はある。でも、それ以上に、このかけがえのない仲間たちと共に戦えることへの誇りと、未来への希望が胸を満たしていた。
神秘的な『龍穴』の静寂の中、運命の満月が、ゆっくりと空へと昇り始めていた。
決戦の朝は、もうすぐそこだ。
(続く)
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お読みいただきありがとうございました。
この作品をオーディオブック化してみました。
良ければ聴いてください。
https://youtu.be/VCuoImMK8WM
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