歩き出す道
自らが入ってきた場所にたどり着くと、そこには市街地で別れたはずのセレナの姿があった。
「お前、市街地から来たな?どうやって来た?」
男は質問攻めにしていく。
セレナは臆すること無く、淡々と返答する。
「もともとこの区画が存在していたことは知っているわ。シュテルン融合実験の産物がいることもね。けれどそれをつつきに来たわけじゃないわ」
興味がない、そういわんばかりに門をくぐっていった。
「すまないな、どうやらあいつはどうでもいいと思うとああらしい」
カイが謝罪を入れる。
「構わない。市街地の人間などそんなものだ」
男は呆れるように言った。
続けて男はこういう。
「ちょうどいいな。そこの市街地の人間は知ってるだろうが、この村の長にあわせる。だがしかし、彼は口を使わない」
「どういうことだ?」
「会えばわかる。案内する」
男はそういって二人を奥へ案内した。
奥に行くと、そこにいたのはもはや人の形をした”何か”だった。
その”何か”は口を開くことはなく、ただただ椅子に座りどこかを眺めていた。
「君たちは外から来たのかな?」
突然に声がする。それに驚くカイたち。
「安心しろ。長は口を使わないだけで会話はできる」
「テレパシーってやつね。シュテルン融合実験にはふさわしい副産物ね」
「我々と条件を付けよう。そのシュテルン融合実験について知ってることを全部話せ。それでいいだろう?」
男は椅子に座った”何か”に問いかけた。
「構わないよ。でも僕より知ってることはないだろうね。なんたって当時の生き残りだから」
”何か”───長はそういった。
「当時?もしかしてあの大脱走の時の?」
セレナが怪訝そうに聞く。
「そうだよ。あの時は大半の同胞は逃げ切る前に殺された。僕らのような一部の存在だけ逃げられたんだ。あの女研究者が全部始末しようとしたんだ」
長はつらつらと話していく。
「その女研究者、破滅的なまでの合理主義者じゃない?」
「まさしくその通り。研究のためならなんだってするとてつもない人物だよ」
知ってた、と言わんばかりの表情で確認作業に入る。
「そいつ、私と似た姿をしてたでしょう?」
「そうだね。とても似ている。でも君は違う、合理だけを求めてはいない」
「そうね。チャートだけは目を離さないでいるけれど、合理性だけですべてが解決するわけではないもの」
セレナは腕を組みながらそう返す。
そのあとにこう続ける。
「彼女についてなら私がよく知ってるわ。だって最初のスポンサーだったもの」
それを聞いた住人は怒りを覚える。
「あの女に加担したのか……?」
「最初だけね。まさかあんな非人道的な実験を繰り返してるなんて思わないじゃない。早い段階でスポンサード取り消ししたわ、でも一つだけ彼女の実験でできた功績がある」
「それはなんだ?」
「グラットの間引き。あいつらが減って市街地の被害は確実に減ったわ。ただ……一つだけ失敗したことがあるとするなら民間人に手を出そうとしたことね」
「よく知っているね。そう。そのあと彼女がどうなったかはわからない」
「私が知っているわ。ザラトへの左遷、辺境の研究施設に送り込まれて””責任””を取らされてるところよ」
「我々も知っている。あの女は別の場所でも同じことをする」
男は割り込むようにそういった。
「でしょうね。だからしでかさないかウォッチするためにも国境付近の街に店を出してるの」
「だからあんなところにいたんだな」
「そんなところまで吹き飛ばされるあなたの方が想定外よ」
カイの一言に頭を抱えるセレナ。
「とりあえず、僕はここをもっと住みやすくしたいと思ってるんだけど」
”何か”は唐突に声を開く。
「そうね。グラットはそもそも支援物資を届けるには難しいしさらにその奥となるとつらいものがあるわ。……ちょうどビジネスに余裕出てきたし少し開拓してみる?」
「いいのかい?」
「構わないわ。もしあなたたちが復讐をしたいのであれば例の研究者───アーデルハイトは必ず姿を現すことになるわ」
セレナは腕を組みながらそういった。
”何か”も男も、またとないチャンスと思ったのか話に乗った。
「まず何をすればいい?」
切り出したのは男の方だった。
「物資はうまくごまかして私の方からここに流れるようにしておくわ。そこから先はあなたたち次第ね」
「というと?」
「簡単な話よ。ものは届けるけれどどう扱うかは使い手次第ってやつ。多少のノウハウくらいなら持ってるから教えるけど」
まるで品定めするかのように視線を動かす。
「…………本当に生きるためにしかないような場所ね」
一言言葉を漏らす。それは心の底からの声だった。
「仕方ないだろ、あいつらも……」
「仕方ないで済ませる話じゃないの。あいつの代わりといってはおかしな話かもしれないけれど、私がここを発展させてやるわ」
手始めに、とセレナは次々と指示していった。
「本当にこれで発展するのか……?」
男の困惑も気にせず淡々と指示を出す。
「あとはここに書いてあることをこなしてほしいものがあればここに連絡して。グラットの連中が潰しに来るならこちらで持ってる私兵をガードマンとして派遣するから」
それじゃあまた近々会いましょう、といってセレナは村を出ていった。
「よくわからない人だったな」
「そういうやつなんだよ。俺もわかんねえ」
「それでもかまわないさ。ここがよりよくなるなら何も言わない」
「成長を見届けたいとこだが俺もラウスに戻らないといけない。街を吹き飛ばしたやつを倒さないと」
カイは思い出したように村を飛び出そうとした。それと同時に男の手がそれを阻む。
「少し待て。シュテルンなら危険だ」
「わかってる!俺もタリアもあれに吹き飛ばされたんだ!」
「何も行くなとは言ってない。これを持っていけ」
男はそういうと古びたゴーグルのようなものを差し出した。
「これは?」
「シュテルン融合実験の副産物で生まれた「シュテルンの動きを一時的に止める」道具だ。長が脱走する直前に研究所から拾ってきたらしい。次に吹き飛ばされそうになったら使ってみろ」
その代わりこれを使うなら視覚に頼るな、と最後に付け足した。
「視覚に頼るな……あれを倒す前に寄り道しなきゃいけないところが増えるじゃねえか」
「それでいい。あれはあと数カ月は起きてこない、我々の村の発展が先かあれが目覚めて暴れだすのが先か、そのくらいの話だ」
そうか、と考えた。
「なら視覚を頼らない戦い方ができるところには当てがある。そいつに教わるだけの時間はあるな?」
「理論上可能だ。なるべく早く向かったほうがいい」
「わかった、ありがとう。そっちも頑張れよ!」
「我々は我々なりの成長をしてみせる。それまで楽しみにしていろ」
カイはネビュラを離れ、グラットを突き進み市街地へと戻っていった。
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