ギョッとして、こんにちは世界と蜘蛛の糸

 僕の住む世界は、今日も平和だ。


 いつものように寝床から飛び出す。

 今日の朝は、とてもいい天気だった。

 空をかもめが、晴天の空を流れる雲のようにゆったりと飛び回っている。

 さて、今日は何をしようか、と1日のやることについて考えを巡らせていると、下から妹の声が上がる。珍しく早起きだ。


 おにいちゃん、どこいくの?


 どうしようか。


 僕は逆に、妹に問いかける。妹は寂しがり屋だ。いつもは母にべったりくっついて離れないのに、最近はやっと僕にも慣れてきたのか、構って欲しいと言わんばかりの目で訴えてくるのだ。僕はその目にめっぽう弱い。おまけに――そこらに漂う連中よりも、美人で、優しくて、最強にめんこい。


 んー、わたしは、今日は遠くまでお散歩したいかな。


 妹が、少しワクワクしたように、言った。


 いいね。そうしようか。


 僕たちは急いで母の元へ向かう。もちろん、許可を貰うためだ。僕たちの住む町がたとえ平和だったとしても、危険は至る所に散りばめられている。報連相はしっかりしないと。特に僕は、おにいちゃんなんだから。


 ちゃんと、ご飯までには戻ってくるのよ。


 無事許可も貰えたことだし、僕たちはノリノリで駆け出した。


 わあ、これ、凄く綺麗ね。


 危ないよ。それはガラスなんだよ。


 まぁ、こっちには小さい生き物まで。


 こらこら。


 目的地のない旅のようで、ただのんびりと足を進めるのは、思いのほか楽しい。


 ねぇ、あれはなにかしら?


 ふいに、妹が輝く何かを発見した。


 あんまり近づくと、危ないよ。


 僕は警戒心の薄い妹に、優しく忠告する。そう言って、危険性がないか前に出る。

 それは空から垂れる一筋の糸。射し込む太陽を反射して、輝く美しい線。


 綺麗ねぇ。


 そうだね。


 ねぇ、これってきっと、神様が私たちの為に用意してくれた、幸せの糸?


 ぷぷっ。


 僕は、吹き出してしまった。なんて可愛らしくて、純粋な考察だろう。でも、決してバカにしてる訳じゃない。だから、聞かれていないことを祈る。


 そうかもしれないね。


 僕はゆっくりと、糸に近づいた。


 私ね、お友達に聞いたことあるのよ。時々神様が、こういう糸を垂らすんだって。


 妹が、楽しそうに語る。


 それでね、神様は順番に、私たちを導いてくれるんだって。もしかしたら、今日は私たちの番なのかもしれないね。


 そうかな?


 きっとそうよ。


 だったらいいなぁ。


 信じてくれないの?


 信じるさ。


 でも、あんまり信じてない顔してるわ。


 そうかな?


 おにいちゃんは、なんだかいつもそう。それじゃあ、きっと神様に追い返されちゃうわよ。


 そんなことないやい。


 でもさっき、笑ってたじゃない。


 どうやら聞こえていたらしい。不覚だ。


 じゃあ、こういうのはどうだ?


 妹が、ツンとそっぽを向いた顔を、再びこちらに向ける。


 じゃあ僕が先に、この糸を掴もう。そんでもって、神様に追い返されたら妹よ、君の言い分は正しい。けれど追い返されなかったら、僕の勝ちだよ。


 ええ、それじゃあ、おにいちゃんだけ神様のところで、楽しくやっちゃうじゃない?


 疑いの目で、僕を見ている。


 そんなわけないだろ。でももし、神様とやらに認めてもらえたら、もう一本、同じ場所に糸を垂らしてくれとお願いしてあげるよ。そしたら、きっと2人でもっと楽しく遊べるんじゃないか?


 それは、まあ、そうかもしれないわね。


 少し機嫌が良くなった。効果はバツグンのようだ。


 じゃあ、妹よ。おにいちゃんが先に行ってるからね、信じてろよ。


 分かったわ。待ってるわね。色んな意味で。


 一言余計だわい。


 僕はポッ、とひとつ唇から音を鳴らすと、その糸に齧り付いた。

 そしてグン、と引かれるままに、体を預ける。




 瞬きの間、見えたのは雲ひとつない澄み切った青空。




 そして。































「釣ったど〜!」

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