埒外の殺人

@richigisyanokodakusan

第1話

「おーい。大丈夫か?」

「ゆっくりでいいからな。」

「もし大丈夫なら俺が書いたこれ、読んでくれ。」

「もしかしたら、これから知る真実は受け入れ難い内容かもしれない。少しずつでいいから、最後まで読んでくれ。俺は君の味方だ。」



【自己紹介】

とりあえず俺を信じて読み進めてくれて、ありがとう。まず、何から書こうか考えた。照れくさいけど、やっぱり自己紹介はしないとな。この文章を書いている俺、俺の名前はカイト。吉澤快人よしざわかいと。俺達は中学生の頃からの友達だった。だった、ってのが引っかかるよな。でも、この不思議な体験を説明するには2年前の高校の入学式の日から話さないといけないんだ。そして、その不思議な体験っていうのは今も俺達の周りで現在進行形で続いてる。


【2年前】

「暖かな春の日差しに包まれ、校内の桜も皆さんを歓迎するかのように満開の季節を迎えました。本日はご入学おめでとうございます。」

そんな校長の式辞で俺達の高校生活は始まったんだ。

俺達は同じ公立中学校に通い、同じ高校を受験して、皆めでたく合格した。まあ、学力的には中の下の高校ってとこかな。俺なんかは上の高校を狙える頭はなかったから、狙い通りって感じ。ユウトはもっと上を狙えたと思うんだけど・・・。あっ、ユウトってのは俺の小学校からの親友な。

ユウト、板垣優人いたがきゆうとは名前の通り優しくて真面目で、俺達の中で1番勉強できるやつ。だけど、根暗というか、俺達以外に友達いないというか。中学になったらメガネもかけだして、陰キャって感じになっちゃったんだけど。あいつ俺達といるときだけはめっちゃ明るい。人見知りってだけなんだ。だから、上の高校狙えたけど、やめて俺達と同じとこにしたんだ。

あとは、小6の時に転校してきて、それから一緒のソウ。本名は大村奏。中学1年から一緒の学校になったケンタ、北川健太郎。で、俺とユウトと小1から一緒のカレン、宮下花恋。これがいつも一緒にいるメンバー。簡単に紹介すると、ソウは俺達の中ではリーダー的存在で、ケンタはツッコミ役、カレンは不思議ちゃん天然キャラって感じ。


ここからが本題なんだけど。今、俺達は高校2年がもうすぐ終わる2月。その約1か月前。ふと、これまでの高校生活の思い出を振り返ってみたんだ。そしたら、そのことに気づいたんだ。それで、その違和感のある記憶を書き出してみた。俺の記憶だから曖昧なところとか、会話も誰が言ったかわからないところもあるんだけど。


【違和感のある記憶①入学式】

入学式が終わったあと、俺達は校内にある桜の木の下に集まって写真を撮ったんだ。


「きれ~い。」

「完全満開だな。」

「なんだよ、完全満開って。」

「えっ!あれ見て。」

「なになに?」

「これは幸運の桜だな。この花弁、俺達みたいだ。」

「ああ。そうだね。」

「私、これ持って帰ろ。」

「四つ葉のクローバーかよ。」

「じゃあ、皆集まって。写真撮るよ。」


こんな会話があって、カレンはその花弁を持って帰ったんだけど。この思い出を思い出そうとした時、ところどころ、どうしても思い出せない部分があって。満開の桜はなんとなく覚えてるんだけど、肝心の集合写真を撮った記憶が消えてるんだ。


【違和感のある記憶②高1夏休みの出来事】

高1の夏休みに皆で海に遊びに行った思い出なんだけど。少し遠い海水浴場に行こうってなって、うちの車に乗って行くことになった。その前の年に両親が新しく買った新車で、両親と兄弟3人、あと祖父ちゃん祖母ちゃんが乗れるようにミニバンにしたんだ。その車に皆乗って海に行ったと思うんだけど、なんか車の中での記憶が消えてる部分があって。運転してたのはうちの父親で、俺が助手席だったんだけど。後ろに乗ってるはずの、あいつらの記憶が一切ないんだ。2列目、3列目を振り返って話したりしたと思うんだけどな。不思議で父親に聞いても、俺しか乗ってなかったって言うんだ。でも海水浴場で皆で遊んだ記憶は残ってて。父親は、「現地集合だったんじゃなかったっけ?」って、父親も記憶が曖昧らしい。


【違和感のある記憶③修学旅行】

高2の秋に行った修学旅行の行きの新幹線の中の話で。学校でその車両は貸し切りだったし、3列のシートを回転させて6席にして、いつものメンバーでトランプをしたんだ。やっぱり大富豪だろって誰かが言って、大富豪をすることになった。でもトランプを捨てる場が無くて、誰かのカバンを真ん中に置いて、そこにトランプを出していくことにした。これも不思議で、トランプを配ったり、自分の手札のトランプの映像の記憶はあるけど、メンバーの記憶はあったり、なかったり。途切れ途切れで。トランプやったのは確実。俺がど貧民になることが多かったから、何回もトランプをくって、配った記憶がはっきりあるし。ちゃんと全員に同じ枚数配って、毎回、「ジョーカー」とか「2」を大富豪に渡してたから。全然、貧民から抜け出せなかった。


他にも記憶が曖昧なところは、この2年間でまだあるけど、特に気になるのはこんなところ。あと不思議なのが、中学2年生のときの、俺、ユウト、ソウ、ケンタ、カレンの集合写真はあるのに、中学3年生以降の集合写真が無い。あるのは、いつものメンバーのうちの2名ずつや3名ずつといった全員では無い写真ばかり。集合写真も撮ってるはずなのに。


ここまで違和感を書き出したけど、俺の頭では謎が解けそうになかった。それで俺は、このことをユウトに相談したんだ。ユウトとマクドナルドに行って、書き出した違和感を説明したのが高2の冬休み。


【高2の冬休み】

「・・・ということなんだ。どう?ユウトの記憶も同じ?消えてる部分がある?」

「たしかに。過去を振り返ってなかったから気づかなかった。まずは入学式だけど、ここは俺もほぼ同じかな。カレンが桜の花弁持って帰ってたな。カイトと見てる角度が違うだけで、記憶の違いは無いと思う。でも変なのは次なんだ。」

「えっ?」

「海に行った車の記憶なんだけど。俺の記憶では全員、車に乗って海に行ってるんだ。ぎゅうぎゅうで狭かった記憶がある。」

「えっ?ええっ?どういうこと?」

「今の段階では俺もわからない。ただ、俺達の記憶が一部削除、もしくは書き換えられてるってことは間違いないと思う。」

「??意味が・・・わかりません。」

「俺もそんなことがあるなんて信じられないけど、誰かが都合の悪い部分を消そうとしているのかも。」

「俺の頭ではついていけん。」

「まあ、あくまで俺の仮説だから。あと修学旅行の記憶は俺もだいたい同じかな。あのさ、カイトと俺で記憶が違う車の件、他のやつにも聞けないかな?」

「じゃあ、グループラインで聞いてみるか。」

「いや、俺の仮説が正しいとすると、グループラインはダメだ。それぞれ別々に聞こう。」


それから俺達は「海に行った日の車の記憶」を他のメンバーのソウ・ケンタ・カレンにそれぞれ聞いてみた。その結果が次の通り。


ソウの証言「うーん、なんか記憶が曖昧だけど。ユウトって乗ってたっけ?」

ケンタの証言「えっ!なんで今さらそんな事を?皆いたじゃん。席全部埋まってたし。」

カレンの証言「海行った日?車の中?どうだったっけ?忘れちゃったかも。ソウいたっけ?」


マクドナルドで謎を推理しだしてから1時間が経ち、セットのポテトも食べ終え、ドリンクも飲み終わってしまった。そのまま席を使い続けるのも気まずいので「追加でドリンク2つ買ってくるわ。何にする?」と言って席を立った。まあ、本当は、他のメンバーの証言を聞いた途端、ユウトが持っていたノートに色々書き出して。邪魔しちゃ悪いし、俺は考えてるフリしかできなかったから。で、新しいドリンクをトレーに乗せて席に戻った時だった。

「カイト、違和感の正体がわかったぜ。あと、おそらく犯人もな。」

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