一週間ください
佐原瑠花
一週間ください
ある日、米沢研究所に集められた7人の自殺志願者
そこである研究に参加することになる
その研究とは
自殺志願者が集う掲示板であるメッセージが届く
痛みのない死に方をご存知でしょうか
もしご興味がありましたらご連絡ください
03 〇〇〇〇 〇〇〇〇
なにそれ
掲示板にメッセージ届く事あるんだと思った
私はすぐに電話をかけた
もしもし、掲示板見たんですけど、どういうことでしょうか
こちら米沢研究所でございます
ご連絡ありがとうございます
詳しくご説明させていただきますので、7月21日に指定する場所にお越しいただけますでしょうか
住所 米沢研究所
わかりました
よろしくお願いします
7月21日 13時丁度
米沢研究所に人が集まった
私を入れて7人
年齢、性別問わず、7人が集められたように見える
そこに男が入ってきた
みなさん早速お集まりいただきましてありがとうございます
私はこの米沢研究所の職員の米沢健一です
私は研究者をしていて、その研究に参加してもらうために、掲示板にてメッセージを送らせていただきました
皆さんには全員同じメッセージが送信されています
そしてそれを見た皆さんが興味を持ち、こちらに来てくださったというわけです
前置きはこれくらいにして私が行なっている研究の説明に入らせていただきますね
その説明が終わった後、改めて参加の有無を確認いたします
説明でわからないことがありましたら、そのままにせず適宜聞いていただくようにお願いします
米沢健一は大きく息を吸って話し始めた
私が研究しているテーマは死です
皆さんには研究に参加していただいて論文を作りたいと考えています
その論文というのはもちろん死に関すること
簡単に申し上げますと皆さんの一週間をください
その一週間で研究に参加していただくということになります
そのため参加していただく条件も僕に一週間くださる方のみとします
具体的にどうしたらいいのかご説明しますね
ちょっと待ってください
私の隣にいた男性が声を出した
どうされましたか
30歳くらいだろうか、目が鋭く、少し怖そうな人
僕は痛みのない死に方があるというメッセージを見て応募したんです
一週間過ごさないと死ねないってことですか
米沢さんは笑った
すみません、そのことは話していなかったですね
研究用の一週間が終われば7日目に死亡させます
それも参加する条件に入れないとですね、あはは
米沢健一のこの笑いに私は肩をすくめた
言葉にしようにも似合う言葉が見つからないような不気味な笑みを浮かべた気がした
どんなに今、死を望んでいても研究に参加するのであれば1週間はこちらで管理させていただくことになります
田村さん、質問に対する回答はこれでよろしいでしょうか
男性は首を縦に一回動かした
じゃあ具体的に説明いたします
田村さん、私はこの男性の名前が田村だと知った
どうぞ、皆さんお座りください
椅子が7個しかない
当たり前のようにそれぞれが座っていき、米沢健一は当然のように座っていく参加者をみながら微笑んでいた
まるで前も同じようなこの光景を見ていたかのように
まず、みなさんの共通点からお話しします
私は今回ある共通点をもとにメッセージを送らせていただきました
それが自殺を希望していること
年齢や性別は問いません
しかしここにいる皆さんは全員死を望んでいるということです
この研究には皆さんが大きな意味をもたらします
というのもこれは死の研究
論文の主旨、それは、あと一週間しか生きられないとしたら何をするか
皆さんは何をしますか
いっぱいお金を使いますか、思う存分好きなものを食べますか
それとも大好きな家族や友人と時間を過ごしますか
過ごし方はそれぞれだと思います
しかし他の人と全く同じ過ごし方をする人はいない
だからこそ、この研究は有意義である、そう私は確信しています
みなさんにしていただくのは、ものすごくシンプルです
私の研究に参加して、一週間差し出す
そして宿舎で7人共同生活をしていただきます
一週間は7日ですから、1日目から6日目までは自由に行動していただいて構いません
しかし7日目は一日宿舎で過ごしていただく必要があります
また、7日目のどこかで必ず皆さんが全員死亡することを覚えておいてください
そして時間や場所は開示しないため、7日目は宿舎から外に出ないでください
さらに1日目から7日目の間一人一人自分の人生について、楽しさや後悔、どうして死を望むようになってしまったのか、その経緯を話していただく時間を設けます
その時間は必ず全員がリビングに集まり、1人の人生について向き合っていただきたいと考えています
ここまでで質問はありますでしょか
ふふっ無いようですね
どうしてここで笑うのか私には理解できなかった
次に宿舎について説明します
皆さんに暮らしていただく宿舎にはカメラがついています
リビングに3台、部屋の前に1台ずつ、またお風呂は大浴場になっているため、浴場の入り口の前に2台、計12台ついています
そこから私は皆様の情報を撮らせていただきます
そして研究に反映いたします
また皆さんのプライバシーの侵害するようなこと、盗撮行為などがないよう準備しています
宿舎のカメラには死角がありますが、そこには盗聴器があります
もちろんリビング全体の声を聞くことはできませんが、死角になっているところのみ音声を拾わせていただきます
そしてそれぞれの部屋に入ることは自由です
しかし部屋の持ち主に許可を得てから入るようにお願いします
そして最後に
一週間のうち自ら命を断つことや、誰かを殺害することを禁止します
あくまでも研究のためですので想定外のことがあればすぐに全員研究を中止し、ある場所に移動してもらい死を待ち続けてもらいます
これは皆さんにはメリットかもしれませんが、痛みのない死に方でなく、恐怖感や強い痛みから死を拒むような手段をとらせていただきます
説明は以上になりますが、他にご質問、ご不明点はありますでしょうか
最後の説明分に私はまた不信感を抱いた
一週間後再び米沢研究所にに集められる
メンバーは変わっていない
一週間前に揃った7人、もちろん田村さんも
そして微笑みながらこちらを見ている米沢健一も
皆さんおそろいの様ですね
集められた7人の視線が一気に集まる
これから宿舎に移動していただきます
皆さんにはバスに乗ってもらい、宿舎についたら皆さんで生活上のルールを決めていただきます
そこから自由行動開始です
食事はお好きなものを作っていただいて構いません
誰かの分を作るもいいですし、自分だけでも構いません
食材は宿舎にあるものを使っていただいて、無いものは購入していただきます
あと話忘れてることあったっけなぁ
また視線が一気に集まった
また思い出したらお伝えしますね
じゃあ行きましょうか
バス
どのくらい移動したんだろうか
山が多くなり畑も見え始めた
バスには時計がなく、スマートフォンなどの電子機器も乗車前に回収された
外を見ながらボーとする
ただ緑を見ているだけ
いつの間にか目の周りに水滴がついて、他のことを考えるように努力した
それと同時に自分が死んでしまうことを実感してきた
米沢健一は宿舎の場所を教えてくれなかっったからどこにつくか分からないことに少し不安があった
そろそろついてもいいんじゃないか
何回もそう思ってしまう
でも全くバスは止まらない
信号が少なくなってきて、常に走り続けている
私は長距離移動は苦手だ
理由はいくつかあるが大きく2つ
1つ目は、移動時間でやることがないから
友達と出かけていれば、話していればいい
疲れているのなら眠ればいい
スマートフォンを触る人もいる
でも今はどれにも当てはまらず、ただ外を見ている
簡単にいうなら暇である
2つ目は車酔いするから
特に車やバス
だからいつも大丈夫なように酔い止め薬と袋を常に持っている
そして席はいつも前の方
前の席の方が車酔いが少ない気がしている
だから今回も車体の前の方に座る
実際は、あまり変わらないかもしれない…
でも他の参加者は後ろに座ったらしい
車酔いする私には座れない場所
車酔いしないのだろうか、羨ましい
私も後方に乗れたらよかったのにそう思いながらふと疑問に思った
そういえば
本当に全員乗っているのか
少しも音がしない
バスの走るゴオーという音だけが響いている
乗っているのは私だけじゃ無いはず
全員乗っている はず
バスが停車した頃には周りは暗くなっていた
私は安堵した
全員バスに乗車していたことと、しっかり目的地に着いたことを
それにしても綺麗な宿舎だった
宿舎というよりゲストハウスのようでモダンな外観だった
この建物が最後の家になる
こんなに綺麗なところで過ごせることに興奮していた
でも周りには木々しかなくてどうしてここだけ開けているのか疑問の思う
それくらい不自然に見えた
建物に見とれていると、そそくさと中に入っていく人々が目に映り慌てて後に続いた
内装も洋風で、外観では想像できないくらい中は広かった
まず部屋を決めないとですね
初めて聞く声に少し驚いた
七十代くらいだろうか、いやもう少し若いかもしれない
優しそうな男性が声をかけた
そうですね
米沢健一が同意する
でも部屋はもう決まっているんです
こちらで決めさせていただきました
部屋割りの紙、えっと、どこやったけな、あれれ
あぁ、ありました
お待たせしてすみません
まず1番の部屋は、山口美言さん
あっはい
私だ、久しぶりに名前を呼ばれた気がした
2番の部屋は、田村翔吾さん
田村、あの田村さん
私は田村さんの名前をずっと覚えていた
私以外の参加者の中で1番最初に聞いた声を持つ人物
私はこの人に興味があるらしい
3番の部屋は竹田結さん
4番の部屋は小林けいたさん
で、5番の部屋からはちょっと場所が変わってて…
こっち側に部屋があるのであとでご案内しますね
でー、5番目の部屋は橋本拓人さん
6番目の部屋は藤原清さん
最後7番目は土屋桃子さんですね
あれ、7人に言いましたよね、僕
うんうん、大丈夫かな
じゃあそれぞれ部屋に荷物を置いてまたここに集まってください
私の部屋はここか
私の最後の部屋、人生最後の
リビングから1番遠い部屋
荷物を置いたら集まるように言われたけど私は少しベッドに横たわった
これから1週間が始まる
死までの1週間、最後の・・・
そんなことを思っていたら誰かが部屋をノックした
山口さんー、リビングに集まってください
私は、飛び起きて気づかないうちに流れていた涙を拭いた
もうみんな集まっていて視線が私に集まるのがわかった
遅れてすみません
よし、皆さん集まりましたね、と米沢健一が話し始める
じゃあ皆さんでルールを決めてください
あっあと皆さんに電子機器をお返しします
またSNSやご家族、友人にこの研究についての詳細を話すことを禁止させてもらいます
自由行動の際は、自分があと1週間で死ぬことは隠して会うようにお願いします
何かあったら連絡してくだい
僕はこれで失礼します
これからは直接ではなく遠隔で参加します
また今度お会いしましょう
足早に外へ出る米沢さんを見て女性が話し始めた
今度ねぇ、もう7日しか生きられないのに
そう少し笑っている
そうですね、僕たちはもう死が目の前にあるんですから
僕、橋本拓人と言います
よろしくお願いします
続けてさっきの女性がまた口を開いた
私土屋桃子です、よろしく
私は藤原清です、66歳です
私は竹田結と申します
短い間ですが、よろしくお願いします
僕、小林けいたです、お願いします
田村翔吾です、よろしくお願いします
私、小林美言です
よろしくお願いします
自己紹介も終わったことだし、ルールを決めましょうか
藤原さん、これから出かけるので早めに決めたいんですが
わかりました、田村さん
では始めましょうか
まず、炊事洗濯から
これはぁ、各自で行なってもらうということで良いですかね
それぞれが首を縦に一回
じゃあ次、掃除はどうしましょうか
各自の部屋は自分でやっていただいて、共同スペースのところは当番制にしてはいかがですか
当番制だとやらない人が出てくるんじゃないでしょうか
小林さんの意見も一理ありますね
土屋さんはどう思いますか
まあやらない人は出てくると思うけど、一週間だしそんなに汚くならないんじゃないの
そうですね、他の方はどう思いますか
僕は常に出かけていたいのでどっちでもいいです
私もどっちでもいいです
田村さん、竹田さんありがとうございます
山口さんはどうですか
私ですか、私はそうですね
やらなくてもいいんじゃないでしょうか
一週間だけですし
そうですか
じゃあ各自の部屋のみ掃除するということでいいですか
それぞれ頷く
じゃあ次は・・・
お風呂はどうしましょうか
ああそうですね、竹田さん
ありがとうございます
皆さんお風呂はどうしますか
先に入りたい人と後から入りたい人がいると思うので時間を決めたほうがいいでしょうか
あの、僕どこでもいいので勝手に決めてください
もういいですか
田村さん、もう少し待ってください
早く出かけたいんですけど
はい、急ぎますので
お風呂のことは後に回して、生活する条件である1日に自分の人生について話す時間を何時にするか決めておきたいと思います
それってリモートとかじゃダメですかね
リモートですか、米沢さんに聞いてみますので少し回答は待ってもらえますか、小林さん
わかりました
リモートは1回ないものとして時間を決めましょう
これが終わったら解散でいいので
18時とかどうでしょうか
18時、いいですね橋本さん
他はどうでしょう
私は7時がいいです
18時だとそんなに遠くにいけないし、すぐに帰ってこないといけないので
そうですか、竹田さんの意見もいいですね
他の方はどう思われますか
私は7時がいいと思います
どうしてですか、山口さん
私たちの命はあと7日ですし、7が入っているので7時がいいかなって
私もそれでいいと思う
山口さんと土屋さんは同じですか
どうしましょうか
なら7時にしましょう
いいんですか、橋本さん
よく考えてみると朝の方が1日を長く使えると思って
そうですか、わかりました
じゃあまとめますと
炊事洗濯、掃除はそれぞれが行う
入浴時間はあとで決める
1日の話し合いの時間は朝の7時でいいですね
あの、お風呂のことなんですけど、あとで全員にメール送るので希望する時間帯を返信してもらえますか
時刻表作るんで
お願いします
小林さん、ありがとうございます
皆さん決定でいいですね
うん
はい
はーい
じゃあ今日は解散しましょう
私は田村さんの行動に引っかかっていた
どうしてあんなに急いでいるのか
どこにいくのか
私はこの一週間どう生きていこうか
それも引っかかっていた
とりあえずご飯を食べよう
そう思ってリビングに出ると、竹田さんがいた
あっ山口さん、この冷蔵庫いっぱい食材あるよ、なんでも食べ放題だよ
明るくて元気いっぱいな彼女をみて少し緊張がほぐれた
私は竹田さんと一緒にラーメンを食べた
竹田さんが作ってくれたラーメン、美味しかった
久しぶりに美味しいと感じた
いつも1人で食べていた
誰かと食べたのは久しぶりだ
人と食べるご飯はこんなにも美味しかったのか
ふと隣をみると竹田さんは食べていなかった
どうしたんですか、食べないんですか
竹田さんはゆっくりと言葉を発する
これ、最後の晩餐っていうんだよね
ラーメンじゃなくてもっと高いもの食べればよかったかな
あーあ1食無駄にした
そういった彼女に私は笑ってしまった
すると彼女はそんな私を見て
え、なんで笑うのふふふ
ごめんなさい、ちょっと予想してなかった言葉が出たので
ねぇこれから美言ちゃんって呼んでもいい?
え、あっはい
やったー最後の友達ゲットー
ここにいるみんな最後の友達だから仲良くしたかったんだよね
でも、みんな葬式みたいに暗くなってて、話しかけづらくて
竹田さんは死ぬの怖くならないんですか
あー名前好きに呼んでくれて構わないんだけどさ、苗字より名前にしてほしいなぁ
はい、わかりました
じゃあ、結さん
うん、よろしくね
あっそうそう、質問の答えね
簡潔にいうと怖くないかな
人はみんな死ぬんだし怖いってよりも解放されるって感じかな
ここに集まった人たちがどんな理由で来て、今どんなことを思っているのかわからないけど、私は好きでここにいるから
まぁ自分でいることに疲れたみたいな感じかなぁ
私はね、死を望んでいいと思っているの
それも一つの人生
生きるか死ぬかは自分で決めるみたいな
竹田さんは死を受け入れている
自分がどうなるとかよりも自分で選んでいたい、そういう生き方をして来たのかもしれない
部屋に帰ってふと考える
みんな違う状況でここにいる
田村さんは死を強く願ってて
結さんは死ぬことを選択して受け入れている
人生を送っていく中で何があったのか気になった
今日から始まる
2日目 朝
私は長旅だったからかよく眠れた気がした
部屋に朝日がよく入ってくるのも要因の1つだと思う
カーテンがあっても眩しいと感じた
カウントダウンが始まった
毎回朝が来ると減っていく数
死までの道のりは案外遠くないのかもしれない
おはよう
おはようございます、結さん
ちゃんと眠れた?
はい、ぐっすりでした
あら、もう仲良くなったの
早いわねー、若い子は
土屋さんも仲良くしましょうよ
結さんは土屋さんに声をかけ、土屋さんは少し嬉しそうだった
今頃仲良くなったってもう死ぬのよ
仲良くしてたら死に切れなくなっちゃうわよ
いいじゃないですか、土屋さん、仲良くしましょうよー
そんな2人の会話に入れなかった私は昨日座った席についた
山口さん、何か飲まれますか
藤原さんはそう私に聞いた
ありがとうございます、でも自分でやるので大丈夫です
そうですか、わかりました
そんなゆっくりとした朝を過ごしていると、小林さんや橋本さん、田村さんが出てきた
おっ集まりましたね
早く始めましょう
朝から元気きな小林さんと早く始めたい田村さん
今日もどこか行かれるんですか
藤原さんは田村さんに興味があるようだ
ええ、まあ
田村さんはどこに行ってるの
土屋さんは当たり前のように聞いた
それを聞くかと思ったが、結衣さんも同じ反応をしてた
まあ、そこらへんです
別にたいした用事ではないですけど、早く行きたいんで
田村さんはぶっきらぼうに答えた
じゃあその話はここら辺にして始めましょうか
7時3分 今日が始まった
おはようございますー、米沢です
おお、もうお揃いのようですね
じゃあ始めてください
と言いたいところなんですが、順番言ってなかったですよね
順番はこちらで決めているので、発表します
今日は、2人に話してもらいます
今日の分と、昨日の分
まず昨日の分で話してもらうのが、橋本拓人さんです
で、今日の分を小林けいたさんに話してもらいます
話す内容は自由
ただ、テーマは自分の人生について
より詳細に皆さんにわかりやすく伝えてください
そしてそれを聞いた他の方はあとでお送りするメールにどう思ったか、自分との共通点など書き込んでいただいますので、しっかりと聞いてくださいね
毎度毎度、前置きが長くなってしまいますね
じゃあお願いします、橋本さん、小林さん
はい、橋本拓人です
高校一年生です
僕の人生をお話しします
僕の長所は人と仲良くできることでした
僕は人と仲良くしたいですし、仲間はずれとか無視とか嫌いです
学校でもそれなりに周りと馴染んで生活していました
中学2年生の時です
学校の中に好きな人がいました
でも僕は話しかけることができなくてずっと遠くから見ているだけでした
2年生の時、その人と同じクラスになって話すようになりました
僕は嬉しかったです
ある時、仲良くしてた男友達3人と放課後遊ぶことになって好きな人の話になりました
それで話が盛り上がっていく中で好きな人を言わないといけないような状況になって
僕の好きな人を男友達に言いました
次の日、学校に行ったらその友達がニヤニヤしてて、なんか変だなって思ってたら、
僕の好きな人に僕が好意を持っていることを話してて、
その人は全然嬉しくないって言いながら僕を見ました
僕は、友達になんで言ってしまったのか聞きました
そしたら、別に理由はないって言われて・・・
なんか面白いじゃんみたいな
続けて、ネタなんだから怒んなよとか心狭すぎって言ってきて
すごく嫌でした
でもその場の空気を悪くしたくなくて、笑って過ごしました
別の日もクラスの男全員で、自分のクラスの中で誰が1番可愛いかっていう話になったみたいです
僕はトイレに行ってて、そこにいなかったので、あとから聞いたんですけど・・・
それが担任の耳に入ってしまって誰が始めたのか犯人探しが始まりました
その時に僕が全部1人でクラスの可愛い子を決めたっていう風に男友達が言いふらしていて1人で怒られました
僕はその場に居なかったし、言ってないって周りに言ったんですけど、担任も僕だって決めつけて・・・
でも僕は納得がいかなくて、友達になんでそういうこと言ったのって聞きました
そしたら、つまんなって言われて
ネタなんだから本気にすんなよとかそんなんで怒ってたら生きていけないよとか言われて・・・
あとは、いじられキャラなんだから気にすんなよって言われました
僕は仲間外れにされたくなくて、ただ学校生活を楽しく送りたくて、それでまた笑ってやり過ごしました
僕はこういうことがあっても友達だって思いたかったです
だから自分はいじられキャラなんだって言い聞かせて過ごしてました
中学3年生になっても同じクラスになっちゃってそれが続きました
中学3年生の時には、修学旅行があって部屋割りとかグループ分けとかバス、新幹線に乗る時の座席を決めないといけなかったんです
僕は友達と一緒に座りたくて、まあ向こうも3人で奇数だから僕が入れば偶数になってキリがいと思って・・・
でも友達は違うグループの人ともう一緒にするって決めてたみたいで
僕はそこのグループに入れなくて
違うところに入れてもらいました
友達とは修学旅行中、1回も話さないで終わりました
話そうって思って近くに行ったのに向こう行こって別のところに行ってしまって
その時に初めて、自分はいじられキャラじゃなくていじめなのかもって思ってきて、でもどうしたらいいかわからないし、仲間外れになりたくないし・・・
そのあと、夏休みに入ったんですけど、受験勉強が手につかなくて
体調も悪くなってきてしまいました
父や母にそういうことは話せなくて、病院で体調不良の原因に思い当たることがあるか聞かれても答えられませんでした
僕は、夏休み中ずっと体調が悪くて、学校が始まってもあんまり登校できなくて家の中に籠ることになりました
父や母は毎日喧嘩してて、僕兄がいるんですけど、兄も引きこもるようになってたので子供達が引きこもるようになったのがどっちのせいかみたいなことを言い合ってました
僕はそのまま学校に行かないで家にいたかったんですけど、父や母はそれを許してくれなくなりました
だから学校に行って早退を繰り返していたら、担任の先生から高校はどうするのかって言われて、僕は答えられませんでした
だって学校に行けてなかったから、出席日数足りなくて推薦入試できないし、一般受験だって勉強できてなかったから受からないって思ってそれでそのまま放置してたら、通信制の高校を勧められました
今は通信制の高校に通ってます
でも体調がよくなくて中学のときの友達が家の近くに住んでいるからふざけて遊びにくることもあってそれでまた外に出たくなくなってしまいます
そういうことが続くと、父や母はまた言い合いをするんです
だから家が嫌いになっちゃいました
それで掲示板に書き込みをしてたら米沢さんからメッセージが届いて参加しました
ここでもう全部終わらせようと思ってます
僕は若いから、そんな理由で死ぬのとかこれから楽しいことがあるとか言われるかもしれないけど、僕にとっては本当に苦しいです
だから
僕は死を望んでいます
リビングが静まり、誰も話すことができない
皆が俯き、誰かの声を待っているように石になる
私はこういう人もいるのかと感心しながら、唯一同世代であることから共感が強い
そしてあの男が口を開いた
はい、ありがとうございましたー
なかなかにグッと来る話でしたね
私は米沢健一に少しイラッとした
じゃあ皆さんがどう思ったのかちょっと聞いてみましょうか
誰にしましょうかね
んー、田村さんにしようかな
田村さん、どう思われました?
僕は、特になにも
ふふ、そうですか
じゃあ藤原さんはどう思われましたか
そうですね、私はこの年だから今の若い方の考えはあまり分かりません
でも橋本さんが辛い思いをされているなら誰かに話せればよかったのかなと思いました
そういうことを聞いてくれる人がいなかったのか、言えなかったのか
分からないですけど、何かできなかったのかと考えました
貴重なご意見ありがとうございました
皆さんあとで感想聞かせてくださいね
次、小林けいたさん
お願いします
小林けいたです
28歳、会社員です
僕の人生をお話しします
結論から話すと、私は死を望んでいます
僕は家族がいません、3年前に父と母が自殺しました
理由は借金があったからです
僕は地元を離れて暮らしていたので、借金のことは知りませんでした
父や母が自殺したことを知ったときにはもう墓に入っていました
僕は父や母に聞きたいことが多くあります
どうして借金があるのか
なんで死んでしまったのか
それを聞いても写真は答えません
笑いもしないし泣きもしない、申し訳ない顔もしません
それで僕には借金が相続されました
相続放棄の手続きが間に合わなかった
それに僕は借金が相続されるなんて知らなくて、気づいたら借金まみれになってました
面白いですよね
バカすぎませんか
両親が借金を抱えて、それを相続するなんて
僕はそれまで地元に帰っていなかったんで、帰ってたらなぁって後悔しました
僕が家に帰ってたら何か変わったでしょうか
まぁそれでも今は仕事で稼いだお金を返済に使っています
でも簡単には減らないじゃないですか
金利高いですし
それでコツコツとは言えないかもですけど、返済はしてました
ある時、会社の同僚が結婚しまして
それ見てこいつ幸せそうだなって思ってすっごく羨ましくて、きつかったです
そのあとその同僚に子供ができて
なんか
ムカつきませんか
僕は親が抱えた借金を返済して今日生きれるのかわからないのに
そいつは新婚で子供も授かって
もう不公平すぎて本当にそいつのこと・・・
はぁ僕には何にもないんです
唯一、誰かに勝るものって言ったら借金なんですよ
まじで面白いですよね
僕の人生めちゃくちゃで
僕、これがあって始めて親ガチャ失敗したって思いました
ほんと最悪ですよ
僕の人生お話ししますとか言ってるけど、つまんないですよね
僕はこの人生つまんないです
両親のせいで幸せは一生来ない
はぁ
なんで、なんでこうなるんですか
なんか悪いことしましたかね
彼は大きく息を吸った
って思う人生でした
僕は死を望んでます
終わりです
はーい、ありがとうございました
じゃあ今日はこんなところかな
あとは自由行動ってことで
メール送るのでちゃんと返信してくださいね
よし解散
私は部屋に閉じこもった
ムカつく
なんなんだあいつ、米沢
自分から話させておいて全然興味なさそうじゃんか
私は送られてきたメールを適当に返信した
はぁ疲れた
橋本さんは悲しそうな表情を常にしていて
小林さんは話しながら笑っているのに笑っていなかった
もちろんそこにいる誰も笑っていなかった
人にはいろんなことがあるなぁ
自分だったらどうしてただろうか
仲間はずれ、いじめ
家族の死、借金
私は誰かに相談できたのか
いや、してないな
絶対に
考えていたらいつの間にか、眠っていた
外は暗くなっていてお腹がグルルとなった
リビングで移動し冷蔵庫を確認する
本当にいろんな材料が入っているが
私はオムライスを作った
私の大好物
頑張った日やご褒美に母がつくってくれた
母からレシピも教わって2人で作るのが好きだった
小さい頃、母とキッチンに並んでそれを父が見ている
母は笑いながら野菜を切って炒めていて
私はいつも卵を割る係
上手に卵が割れると母も父も褒めてくれて楽しかった
今は褒めてくれる人はいない
今日は美味しそうに作れたのに
誰もいない
いただきます
美味しかった、今日は成功
卵も綺麗に作れた
父と母の笑い声が頭の中で再生される
おいしい、おいしい、おいし
私から出た水分がオムライスに塩分を加えた
悲しい訳じゃないのに
なんで出てくるの
私はすぐに口に運んで部屋に戻った
そこから何をしたのか、あまり覚えていない
3日目 朝
昨日と同じように始まった
リビングに行ったらみんなで楽しそうに話してて
今日は中に入ろうと思い、声をかけたが声が小さかったみたいだった
また仲に入れず、悔しかったが座った
7時1分 今日が始まった
おはようございますー
皆さんよく眠れてますか
私はぐっすり寝てしまって気分爽快です
皆さん最後の1週間なんですから元気に行きましょうね
今日も皆さんお揃いのようですので始めましょう
じゃあ今日話してもらうのは、田村翔吾さん
お願いします
田村翔吾、33歳です
僕の人生についてお話しします
僕は会社員をしてました
今はしていません
僕は死を望みます
以上です
あれ、終わり?
でもみんな口を開かない
私は米沢さんを見た
田村さん、終わりですか
やっと米沢さんが口を開いた
田村さん、ここでは人生を詳しく話すことが条件ですよ
今のでは詳しくとは言えないですね
どうしますか
この契約を終わりにしますか
どうしてですか
田村さんは声を少し荒げる
僕は今お話ししました、早く死にたいんです
私は田村さんの人生になにがあったのか分からない
でも彼がこんなにも死を望んでいることが気になった
そう怒らないでください、田村さん
この話では条件を破っていることになります
僕は契約を守っていただければいいんです
田村さんは黙っていた
じゃあ田村さんは話しずらそうなので変わっていただける人いますか
視線が橋本さんに集まった
急に話し始めたことと新しく提案したことに驚いた
いいですね、橋本さん
そうしましょうか、それでいいですか、田村さん
米沢さんは田村さんに同意を求める
はい、わかりました
じゃあ、誰か変わってくださる方いらっしゃいますか
はい、私変わります
竹田さん、ありがとうございます
じゃあ田村さんには元々竹田さんがお話しする予定であった場所に移動しますね
それでは改めまして、竹田結さんお願いします
竹田結です、会社員です
私の人生をお話しします
私は会社員をしています
私は元々地方に住んでて、就職の時に上京してきました
就活はとても大変で毎日泣いて帰ってました
そんな時、会社説明会で私を気に入ってくれた会社があり、内定をいただきました
私は嬉しくて、少し上京を早めて会社に入る準備をしました
でも実際に入社してみると思っていたのと違いました
私は商品開発がしたくて就活でも一生懸命伝えたのに、配属は経理科でした
就活しやすいと思って経理の資格を取っていたからだそうです
私が働いていた部署では労働環境も悪くて、仕事はあまり教えてもらえませんでした
まあ見て覚えろ見たいな職場で・・・
それでも頑張って就活して入ったところなので簡単に辞めるわけにもいかず何年か続けました
何年か続けていくと職場の先輩方は結婚されて退職されていき、定年退職の方もいらっしゃいました
それでも新しく入る人はいなくて、一人当たりの仕事量が増えるばかりで手に負えなくなりました
当時お付き合いされていた人との時間も取れず、残業や休日出勤が何日も続いて気がついたら退職届を出していました
受理されることはないと思っていましたが、退職することができ、新しく生活することにしました
次に入った会社はIT関連でした
そこでも残業は多く、心身の疲労が溜まっていました
それに会食や上司からの誘いも多くて、会食では偉い人の隣でニコニコしながら、お酒ついで身体触られてもなんてことないって顔して過ごしてました
でもきっとずっと嫌だったんだと思います
朝、起きたら力が入らなくて、起き上がれなくて両親に家に来てもらって病院に行きました
そしたら精神障害と言われました
両親からはそんなになるまで働かなくていいと言われ、今は休職しています
私は一生懸命働きたかった
頑張りたかった、でもダメでした
毎日薬を飲まないと精神を保てなくてそんな自分が嫌でここに参加しました
私は自分で選んで頑張ってきた
でも全部間違ってた
だからもう終わりにしたいです
私は死を望んでいます
はい、竹田さんありがとうございました
今日はこれで解散します
私は米沢の言葉がいつもなら嫌なのに、気にならないほど硬直していた
立ち上がれなかった
体の震えが止まらない
あんなにも優しい結さんがこういう人生だったなんて・・・
私は1時間ほどここでかたまってたらしい
やっと体が動いた時、宿舎の外に思わず出た
大きく息を吸う
まだ震えてる
かなりしんどくなってきた
死が近くなるとこんな気持ちになるのだろうか
私は考えるのをやめた
なんか田村さんって変じゃないですか
今日の朝だって自分について話そうとしないし
まぁ確かに
絶対に人に言えないようなことがあるんですよ
じゃあ調べて見ようよ
小林さん、それはまずいんじゃないですか?
人に言いたくないこともあると思いますし・・・
俺もなんであんなに話したくないのか気になってたんだよ
あの人最初から死にたいって言ってたから
それに気になるって言い始めたのは橋本くんだろう
まあ僕が言いましたけど
一緒に調べようよ
うーん、わかりました、調べましょう
明日の夜、またこうやって集まろう
はい
4日目朝
あまり眠れなかった
ここにきてからいろんなことがあって疲れて、寝る時間が多かったから
もう1度寝るのには時間が足らず、起きることにした
リビングに行ってみる
もちろん誰もいない
でもここにいたら話し合いに遅れることも無い
今、朝日が上り始めたところだろう
外は暗かった
他の人の話を聞いていると辛くなる
特に昨日聞いた結さんの話
いつも明るい結さんがあんなに苦しんでいたなんて、知らなかった
仲良くしているからこそ苦しかった
結さんともっと早く出会ってたら、ここには来なかったんだろうか
私は今、本当に死にたいのか
今、死にたいと即答できない
そんな自分がいる事に気づいていた
そう心の中で会話していると声をかけられた
あれ、おはようございます、山口さん
おはようございます、藤原さん
どうしたんですか、こんな朝早くに
ちょっと眠れなくて…
そうでしたか
何か飲まれますか、私入れますよ
あー、じゃあお茶で
はい、ちょっと待っててくださいね
はい、どうぞ
ありがとうございます、藤原さん
あったかいです
本当にありがとうございます
いいですよ、山口さん
自分の分を淹れるついでですから
2人でお茶を飲みながら沈黙を作った
その沈黙が辛くなったころ、私は話し始めるj
ここにきてから、いろんな話を聞くことになりましたね
そうですね
山口さんは大丈夫ですか
辛くなっていませんか
その言葉がとても温かく寝不足の私には沁みた
お気遣いいただいてありがとうございます
んー正直、辛いです
私は少しだけ笑った
毎日、聞く話が衝撃的で…
そうですよね
私も皆さんより長く生きてますけど、今皆さんの話を聞くと苦しくなります
そうですよね
皆さん、辛い思いをしてここにたどり着いたんですよね…
お互いが下を向きお茶を飲む
暗い雰囲気にしてしまった罪悪感を感じ、明るい話を振った
藤原さんは1週間で何されているんですか
私は妻のところに行ってます
ふーん、奥様の
はい、妻とももうお別れですから
妻は認知症に近づいていて、私のことが誰だか分からないんです
若いころの私を探しているのか、名前は呼んでくれるんですけどね
そうでしたか
年は取りたくないですね
人生、最初から最期まで元気に
病気や怪我をせず、生きていきたい、妻と一緒に
うん、そうですよね
あっそうだ、山口さん
甘いもの食べたくないですか
皆さんが出てくるまで時間ありますし…
はい、いただきます
うわー、ようかんですか
はい、私、ようかんが好きなんです
いただきます
はい、どうぞ
ん、美味しいです
それは良かった、嬉しいです
私ようかんが好きで、死が近くなって最後にたくさん食べたいなと思って買ったんです
でも、たくさん買いすぎちゃって
あーそうなんですね
私もようかん好きなので、いただけてうれしいです
そうでしたか
よかったです
おはようございます
土屋さん、おはようございます
あっ、おはようございます
あら、山口さん、朝からいいもの食べてるわね
はい、藤原さんにいただいて
土屋さんもどうですか
私は遠慮します
そうですか、わかりました
じゃあ何か飲まれますか
水道水いただけますか
分かりました
ありがとうございます、藤原さん
山口さん今日は早いのね
はい、ちょっと眠れなくて…
そう、それは嫌ね
はい
そういえば2人で何の話ししてたの
藤原さんに1週間何をされていたのか聞いてました
山口さん、そこ気になる人なのね
はい
私は少し笑った
土屋さんや藤原さんとこんなに話したのは初めてだった
土屋さんは少し怖い印象だったが今はもう無い
藤原さんも優しくてだんだん心地よくなってきた
そんな土屋さんは何されてたんですか、この1週間
私は、お墓参りとか病院行ったりデパートの食品売り場でいろんなもの食べたり、家の荷物整理したりしてたわね
そうなんですね
私、家でひとり暮らしだから私が死んだら空き家なのよ
だから家の売却するために
あー家売られるんですね
私の家ももう使わないんですけど、売る勇気がなくてそのままにしました
藤原さんのおうちもでしたか
はい、でも使う方がいないなら売却するのがいいと思います
そうなんですよね、誰も住まないので
でも、売却したお金を受け取っても全部使いきれなくて困るんですよね
確かに
そうですね
家には思い出が多いから売却したくないんだけどね…
土屋さんは悲しい顔をした
おはようございます
おはようございます、竹田さん
あれ、皆さんで仲良くお茶ですか
いいですね
私も中に入れてほしかったなー
竹田さんもどうですか
んーもう始まっちゃうのでまた今度
そうですか
今日も1日が始まる
皆さんおはようございますー米沢です
もう4日目ですね
早いものだ
おはようございます、米沢さん
おはようございますー藤原さん
今日もお元気そうですね、米沢さんは
あっわかります?
昨日、いいことがあったんですよ
ああ、そうでしたか、よかったですね
はいー
そろそろですかね
揃ったことですし、始めましょう
今日は土屋桃子さんです
お願いします
土屋さんは少し嫌な顔をしたが頷いた
土屋桃子、専業主婦です
私の人生をお話しします
私は専業主婦をしています
今時、専業主婦は珍しいかもしれないけど夫が働いてくれて、不自由なくここまで暮らしてきました
子供も産まれて、一番下の子も社会人になりました
私は子育てがひと段落したら夫と時間を過ごしたいと考えていて
夫に2人でゆっくりしようと話していました
でも1年前、夫に癌が見つかって治療法はあるけど、夫は治療はしないと言ってて・・・
夫の病状は日々悪くなっていると医者から言われました
私は何回も夫にどうして治療をしないのか聞きました
でも教えてくれないし、癌で痛みが強くなってるみたいで常に大きな声で痛いって言ってます
私は、どうしたら夫の支えになれるのか分からなくて、ほんとに無力だと感じました
自分が変わってあげられたらって、そう思っても無理なんです
夫が死ぬなら私も死にたい
毎日そう思ってました
でも医者に言ったら精神科の受診を勧められました
私は精神科になんか行きたくなくてずっと拒否してたんです
今から5ヶ月くらい前、どうせ夫が死ぬなら、私は今死んでしまってもいいって思って車で単独事故を起こしました
全身の骨折と大量出血で病院行って運ばれてしまいました
死ねなかった
夫はまだ生きていました
それがあって私は医者に精神科を受診させられました
私はなんで精神科に通っているのか分からないんです
だって、自分はおかしくないから
精神科って・・・
彼女はそう言って泣き始めた
リビングが静かすぎて息している音さえもうるさい
夫は
死にました
その言葉が聞こえた瞬間、私の体は息をするのをやめた
でもすぐに息をした
お墓参りに行ったって言ってたのは旦那さんのだったのか
私は今さっき話した土屋さんの言葉がとても重く感じた
土屋さんにとっていろんな感情が詰まっている
そういう言葉だったんだ
どのくらいの時間が経ったのか分からない
時計は私の背後にある
土屋さんの目は真っ赤になった後、少し落ち着いた
土屋さんの息づかいも少し落ち着いた
土屋さんは話し出した
私は夫の元に行きたい
私は死を望んでいます
土屋さん、ありがとうございました
じゃあ今日も解散
あっそうだ、皆さんちゃんとメール送ってくださいね
これも研究の資料になるんですから
忘れないようにお願いします
全員がリビングから離れた
私は少しその場に残り、部屋に戻った
今日は4日目
あと3日
もうすぐで終わりなんだな
残りの時間でなにをしようか
みんなはなにをしたんだろうか
私はここにきてから1回家に帰ろうとした
でもやめた
だから私は最後に母に電話をすることにした
会うと離れたくなくなるから
死ぬことは秘密と3回唱えた
そして泣かないように、心配かけないように
そうやって自分におまじないをかけた
もしもし
はーい、もしもし美言、楽しんでる?
お母さんの声、死ぬ前にはこんなにも温かく聞こえるんだなと感じた
うん、楽しいよ
ん?元気ないね、なんかあったの?
ううん、何もないよ
そう?声がちょっと悲しそうだった気がしたから
全然、悲しくないよー
お母さんの勘違いね
でもすぐに帰ってきていいのよ
旅行なんだし、嫌になったら帰って来な、ね
うん
私は母に嘘をついている、旅行に行くと
本当は死に向かう旅行
それなら嘘じゃない かも
あのさぁ、私ってどんな子だったの?小さい時
私は母の声をずっと聞いていたくてこんなことを口走っていた
そうねぇ明るくて活発な子でよく転んでたわね
ふふふっ、よく転んでたんだ
うーん、よく転んでた
あぁでも泣かない子だった
転んでも泣かない子だった、美言は小さい頃から泣かない子だったなー
痛くないの?って聞いても別に痛くないって言ってた
そっか
なんでそんなこと聞くの?いつもは聞かないのにふふっ
別に聞いてみただけだよ
声を聞いていると
母のことを思い出す
いつも笑顔で楽しそうで1番の相談相手だった
親子というより姉妹のように仲が良くて、大好きだった
私はすでに泣いていた
ねぇいつ帰ってくるの?
うーん、まだ帰れそうにないかな
そう
お母さん、長生きしてね
この言葉には多くの想いが詰まっていて
電話越しの母に私の声が震えているのを必死に隠した
この一言が私なりの今できる親孝行だと思う
やっぱりなんかあったでしょ、話していいよ
ないよ、本当にないよ
そう、ならいいんだけど
お母さん、もう電話切るね
うん、また電話してね美言、気をつけて帰ってくるんだよ
風邪ひかないようにね
うん、じゃあね、お母さん・・・
ぷーぷーぷー
電話を切ると私の中で何かが切れたように大きく泣いた
苦しかった
生きていたかった
でも私は生きていない未来を選択した
私が家に帰ったら母はどんな顔するだろうか
父はどんな顔するだろうか
おかえりってそう言うだろうか
私は死ぬことへの恐怖なんかより、自分のいなくなった世界が怖かった
私がいなくなった後、私の存在を忘れて楽しく生きることができるだろうか
悲しまないだろうか
私の後を追わないだろうか
そんなことばっかり考えてる
自分は幸せ者なのだ
リビング
どうでした?
結構集まった
これ見て
おおー、これすごいですね、小林さん
そっちは?
僕はこれしか集まりませんでした
これでも十分多い方だよ
じゃあお互いが集めたのを共有しようか
はい
これ、やばくないですか
うん、相当だね
2人が見ていた資料には
一家にトラックが突っ込む、父親以外即死
父親、胸の内を語る
と書いてあった
今日は結さんと食事をする予定になっている
いつも通りに接すればいい
泣いたことがバレないように少しメイクをした
余計なことは言わず
いつも通りに
もうそろそろ向かおう
そう考えているとドアをノックされた
はいー
あっ美言ちゃん?
ご飯食べよー
結さんだ
今行きます
お待たせしました
わざわざきていただきてすみません
わざわざって美言ちゃんの部屋近いんだから
そりゃ声かけてから行こうかなってなるよ
ふふっありがとうございます
なに食べたい?
んー、そうですねー
リビングにつくと橋本さんと小林さんが固まっている
結さんは声をかけた
なにしてんのー
えっ
うわっ
2人はガサガサと何かを隠した
ねぇなに隠したの
結さんは聞いていたが
なんでもないです
と返され、それ以上聞くのをやめたらしい
2人で並んで夕食を作り始めた頃、小林さんと橋本さんはコソコソ話していた
なにを言ってるのか聞こえないが、怪しい
結さんはまた声をかけた
ねぇさっきからなにしてんの
コソコソしちゃって、気になるんだけど
結さんは同意を求めるように私に視線を送った
私は少しだけ頷いた
橋本さんが口を開いた
いや、コソコソしている訳じゃないんですけど
調べ物してて・・・
おい、あんまり言うなよ
わかってますよ
結さんは少し呆れた顔をしていた
美言ちゃん気にしないようにしよ
はい
そう答えてまた食事を作り始めた
小林さん、これどうします
少し調べただけでこんなに情報が出てくるなんて思ってなかったですよ
勝手に首突っ込んだら田村さんに悪いんじゃないですか
今更なに言ってんだよ
もう調べたんだから気になるだろ
俺はもう少し調べる
だって犯人捕まってないって書いてあるだろ
田村ってもしかして犯人のこと・・・
え、やめてくださいよ
そんなこと言ったら怖くなるじゃないですか
そういう考えがでてもおかしくないだろ、もう俺ら死ぬんだから
もしも、もしもですよ
田村さんがそういう事してたらどうするんですか
俺らはどうもしないだろ
小林さん、2人に話してみてもいいんじゃないですか
なに言ってんの
俺らがやってることって悪いことだよ
そうですけど、一応言ってみませんか
僕、これ隠し通せる気がしないです
んーなにこれ
うわっちょっとやめてください
結さんは橋本さんと小林さんがみていた資料を持ち上げ、じっくり読んでいた
2人は見られてしまったからか、抵抗するのをやめたらしい
こういうことだったんだ
趣味が悪いね、人のこと詮索するなんて
結さんは少し悪い顔をした
勝手に見ないでください
橋本さんは少し怒っているように見える
でも私も気になってたんだよね
田村さんのこと
なんであんなに早く出かけたいのか、死にたいのか
ねっ美言ちゃん
私は何回も頷いた
結さんは少し笑って言った
調べてみようよ、田村さんのこと
さっき趣味が悪いって言ってたじゃないですか
橋本さんは少し膨れた
でもさー気になるじゃん
田村さんの後ろついて行ってみようよ
私たち、最後の時間を共有する友達じゃん
いや、僕らは友達になった覚えはないんですけど・・・
いいじゃん、橋本くん
みんなでついて行ってみようよ
いいんですか、小林さん
まあ、もしバレて怒られたら連帯責任ってことで、いいよね
おっけー、了解
じゃあ決まり、明日話し合いが終わったらついて行ってみよう
私は部屋に戻って考えた
本当に調べていいんだろうか
5日目、朝
おはようございますー米沢です
あれ、今日は皆さん早いですね
じゃあ早速始めましょうか
今日は山口美言さんにお願いします
はい
私の人生をお話しします
山口美言、高校3年生です
私の通っている学校の友達は今、受験勉強をしています
私は、自分が何をしたいのか、どうやって生きていったらいいのかわからなくて
毎日頑張ってる友達が羨ましいです
私は頑張れないから、頑張り方が分からないから
だから応援することにしました
でもその子達はそれが嫌だったみたいで、邪魔しないでって言われちゃいました
私は邪魔だったんです
気づかなかった、わからなかったです
それで、1人で行動することが増えました
私は頑張ってないから1人で行動してても後ろ指刺されてしまって・・・
あの子は受験しないんだってとか低学歴まっしぐらとか、そう言われるようになりました
私ダサいですか?1人ぼっちで
涙を堪えながら私は笑った
周りを見ても誰1人として笑っていないのに
それでちょっと、苦しくなってきちゃって
ここに参加しました
でも、暮らし始めてからどうしても死にたくないって思ってしまう瞬間があります
皆さんと出会って、朝リビングで会話したり、一緒にご飯を食べたり正直楽しくて
でも私たちは死ぬためにここにきたから、そういう気持ちを押し殺すのに精一杯になっています
私はそうやって1週間を過ごしています
私は私の思っている以上に弱虫で臆病でした
それが恥ずかしいです
1週間いろんなことを考えました
いろんなことが解決しないまま人生が終わりそうです
でも最後に父や母に手紙を出そうと思います
もちろんここで過ごしたことは書けないんですけど、遺書として家族に手紙を残そうと思います
死因は自殺
まあ、間違ってはないから嘘はついてないと思います
私は今になって自分の人生が好きです
好きになっちゃいました
また涙が出てくるのがわかった
一生好きになることないって思ってたけど、今は…
私は自分の目にいっぱいの涙を抱えながらこぼれないように必死に耐えていた
今、自分が愛されていたことに気づきました
どうしてでしょうか
どうして、生きているうちに気づけないんでしょうか
愛されているとか必要とされているとか知りたいのは今じゃないのに
なんで死ぬ直前でわかるんですかね
私の目から大粒の涙が1つ落っこちた
重力に引っ張られながらゆっくりと
それを右手で拭き取って無理やり話を終わらせた
私の人生は終わりです
自分が言った言葉に1番驚いているのは私だ
自分がこんなことを思っていたのか、自分は言いたいことを言えなくなっていた
そのはずだったのに
ここに来て私の中で何かが始まった気がした
それなのに、あと2日しかないなんて
今日は田村さんを尾行する日
本当について行ってもいいんだろうか
かなり気が重い
さっき話したこともあり、気が重い
部屋を出ると結さんが自室から出てきていた
美言ちゃん、もうそろそろ出るよ
はい、今行きます
橋本さんと小林さんと合流し車に乗った
田村さんの車は何台か前にいる
ドキドキするね
結さんはそう私に笑いかける
私が朝、話したことと泣いたことなんて気にかけていないらしい
それが私には居心地がよかった
ドライブみたいですねと橋本さんが話した
運転中の小林さんは楽しそうでなによりと返し、結さんはコンビニに寄りたいらしい
この空間が好きだ
車で1時間半くらいたった頃、田村さんの車が止まった
やばい、バレたかも
えっやばいじゃないですか、小林さん
ちょっと通り過ぎてみるわ
橋本くん、見えるからフードかぶって
はい
もういいよ、橋本くん
どうでした?
大丈夫そう
もお、びっくりさせないでよ
びっくりしましたね
私もそう言葉を出した
でも田村さん、ここ入って行ったよ
え、ここって…
とりあえず入ってみようよ
なに言ってんですか、竹田さん
いいわけないでしょ
橋本くん気になるんでしょ、行こうよ
うん、行ってみよう
小林さんまで
山口さんは?
私も行ってみたいです
もお、知らないですよ、僕
全員で車から降りる
少し歩いたところで田村さんを発見した
僕、あんまりこういうところ来ないんです
まあ、あんまり来るところじゃないな
私も滅多に来ないな
ちょっと隠れた方がいいんじゃないですか、皆さん
私たちは見えないようにしゃがみ、声を小さくした
あれみて
田村家の墓って書いてある
竹田さん視力いいんですね
そう昔から目だけは良くて、ははは
そんなこと言ってる場合かよ
すいません、気になちゃって
そんなに怒らなくてもいいのにね、橋本くん
田村家の墓ってことは…
うん、そうだろうね
亡くなられた奥さんや子供たちがいると思う
なんか話してるよ
耳をひそめて田村さんの声を聞く
今日もこれ持ってきたよ
2人が好きだったお菓子
あと、付き合った時に初めてあげた花
この花いつも好きって言ってたよね
あんまり聞こえないですね
橋本くんが話したらさらに聞こえないでしょ
すみません
そうだ、パパもうすぐそっちに行くんだ
もうすぐ、会えるよ
ずっと寂しい思いしてたよね
これからはずっと一緒
あと1日だから
田村さんはそう言ったあと俯いていた
1時間くらいすると立ち上がり歩き始めた
どこに行くんだろ
小林さん、もういいですよ、帰りましょう
これからどこに行くのか気になるだろ
確かにそうですけど・・・
っていうかこれ犯人捕まってないんだよね
はい
そうですね
もしかしたら、ってことある?
それ小林さんと同じこと言ってますよ
えっどういうことですか
あり得なくはないですね
ほら、こう思うのが普通だよ、橋本くん
竹田さんもそう思うなら行ってみますか?
これ竹田さんもまずいと思うよな
もちろん
えっどういうことですか
3人はそう言って車の方に走り出した
えっどういうことですかー
あっよかった
田村さんは宿舎の方に帰って行った
私たちも帰ろう
ですね、もう疲れました
そうですね
私は未だに皆さんが何に対してまずいと思っていたのか分からなかった
宿舎につくと田村さんの車が置いてあり、解散してそれぞれ部屋に帰って行った
私も少し睡眠をとった
起きたらすっかり夜になっていた
かなり疲れているが、頑張って起きた
夕食は何にしようかとぼんやりリビングに移動した
リビングには土屋さんがいて夕食を作っているらしい
美味しそうな匂いがする
土屋さんがこちらに気づく
何食べるの、山口さん
何を食べようか決まってなくて…
あら、そう
土屋さんは少し黙ってから
これ多く作りすぎたから食べて
と、私にコロッケをくれた
ありがとうございます
美味しそうです
私コロッケ嫌いなの
土屋さんが言ったことに対してものすごく、驚いた
えっじゃあなんで
私はコロッケ嫌いなの
でも夫が好きだったから
夫が私の作ったコロッケが好きって言ってたから最後に作りたくてね
そうだったんですね
いただきます、土屋さん
土屋さんは嬉しそうに私を見た
美味しい、とてもおいしいです
そう伝えると、嬉しいと顔を赤らめた
私は心の中で土屋さんの旦那さんにもお礼を伝えた
コロッケを何個かもらって部屋に戻った
素敵なご夫婦なのだろう
そういう方が私にもいれば変わっていたのか
もう少し生きる選択をしたら、
私をこの世界につなぎとめてくれる人が
現れたのだろうか
そしてその人とは、一生会えない
その人がどんな人かわからないけど、しあわせでいてほしい
そう願った
この一週間の中で今日が1番穏やか
あと1週間あれば…
6日目 朝
おはようございます、米沢です
さあさあ残すところあと、1日ですね
皆さん元気でしょうか
それぞれ少しだけ頷いた
そうですか、なによりです
じゃあ始めましょうか
今日は、田村翔吾さんに話してもらいます
田村さん、お願いします
田村さんは少し嫌な顔をしながら話し始めた
僕のことを調べている人がいるみたいなんですけど、その方はどこまで知っているんでしょうか
私たちは背筋が伸びた
まあいいです
もう全員死ぬんですから
田村翔吾、会社員をしてました
僕は家族を失いました
だから死を望んでいます
1年前、久しぶりに仕事が落ち着いて週末休みが取れたんです
それで家族全員でショッピングセンターに行きました
妻はいつも娘や息子のことを見てくれてて僕は仕事であまり家にいられなかったんです
だから妻に感謝の気持ちを込めて家族でプレゼントを買いに行きました
いつも頑張ってる妻のために子供たちは、プレゼントを一生懸命選んでくれて…
妻は子供たちが選んだプレゼントを見て、これは高いからと高価なものを選ばないようにしていました
そういう人でした
僕は妻の本当に気にいったものを購入したくて値段とか気にしていませんでした
結局妻は高価なものは買わず、子供たちのために自分のプレゼントを使いました
子供たちは大喜びで、妻も嬉しそうでした
帰り道、僕は妻が好きだった花があることを思い出しました
それを買って渡せば、妻は喜んでくれる
そう思って、僕は買いに行きました
その間、妻や子供たちにはゆっくり歩いて家まで帰ってと伝えました
花を急いで買って、急いで妻たちのことを追っかけていくとゆっくり歩いている家族がいて…
話が止まった
田村さんは涙を堪えているみたいだ
私も必死に涙を堪えた
声を震わせながら続ける
ゆっくり歩いている家族に声をかけたんです
それが最後の言葉
危ない って
田村さんは大きく息を吸った
僕は必死に家族を庇おうとしていたみたいです
妻のために買った花が空に舞い、赤黒い血液が顔に飛びました
トラックが僕たち家族に突っ込んだんです
そのトラックは逃走しました
妻も子供たちも、もう生きてない、そう感じました
でも僕は生きてしまった
僕だけが救急車に乗りました
救急車に乗る時、妻や子供たちの身体が小さくなっているのが見えました
本当に妻と子供たちなのか分からないくらい小さく端にいました
病院でのことはあまり覚えていません
救急車に乗るところから、家族とまた会うまでの記憶が抜け落ちているそうです
1年経った後でも思い出すことができません
家族とまた会った時には棺桶に入っていて
顔では誰だか分からなかったです
でも僕にはそれが家族だってわかりました
この時私の目から落ちた、水が
田村さんはそれを見ていたから、すぐに涙を拭いた
田村さんも泣いていた
1週間で見たことのないくらい、ボロボロと
僕は家族を墓に入れてからも
人と会うことができずにいました
そこから人と関わらないようになりました
あの日、家族を殺したトラックの運転手は昨日捕まったそうです
1年待ちました
ずっと殺してやりたかった
それなのにあいつは…出頭しました
僕の人生はこれで終わり
僕は、死を望みます
部屋の空気がものすごく重い
はい、ありがとうございました
米沢さんも言い出しにくそうだった
皆さん自由行動は今日までですよ
明日は最終日
建物の外には出られないので注意してくださいね
じゃあ解散
私はすぐに部屋に戻った
泣いた
どうしてかは分からない
話を聞いているだけで、苦しくて胸が痛い
涙が止まった時には寝ていた
起きても部屋からは出られなかった
今日は疲れた
両親への手紙を書かないといけない…
昨日は泣いた
手紙を書いていたらいっぱい泣いた
でも書き終えて日付を指定して出した
あとはもう死ぬだけ
他の人はもう覚悟ができているのだろうか
私は弱かった
覚悟が足りていなかった
私はどうやって生きていればよかったのか
どうやって死んでいけばいいのか
この2つの問題のうち、後者は時間が解決してくれる
もう目の前に解決がある
前者の問題は一生解決しない、それにまた泣いた
まるでこの世界にぶら下がっているようだ
崩れかけていた私の世界に未練があるように
私はあの人の言葉を思い出す
「1週間あったら何をしますか」
1週間、この生活を始めなければ当たり前に来ていた
今までは長くて苦しくて捨ててしまいたかった
でも今は
愛おしくて離したくない
7日目 朝
おはようございます、米沢です
今日は最終日ですね
今日で皆さんとはお別れですか
寂しいですね
皆さんはどうですか、嬉しいですか?
…まあ表情を見ればわかります
じゃあ今日は最後
藤原清さんに話してもらいます
藤原さん、お願いします
はい、藤原清です
私の人生をお話します
私は定年退職するまで一生懸命働いてきました
残業は当たり前でしたし、会食や上司との付き合いにも参加してました
今から15年前くらいでしょうか
会社内で早期退職を希望する人が募集され、退職を考えた時がありました
私の身体は動いていたのですが、妻は足腰が悪くなってしまって、これからゆっくりするのもいいと思いました
でも収入が無くなるのは不安でしたし、妻も辞めてほしくないと言っていたので続けました
そこから9年ほど働いて定年退職しました
妻の身体は徐々に動かなくなり、年金を受給し始めました
私はまだ働けたので、これからのために年金は残しておきたくて受給しませんでした
妻は妻が希望したリハビリを始め、体が動くように頑張っていました
だから私も妻に負けないよう高年齢者雇用に参加してみました
そこで警備員の仕事をしていたのですが、夜勤の仕事も多く、朝は早くて疲れが取れず、体調を崩してしまうことも多々ありました
それでそこの会社では長く働くことができず違う仕事を探しました
それもあまり簡単ではなくて…
お仕事を紹介してくださる紹介業者の所に行くと、長く続けられない人はどこも雇うことができないと言われてしまい、再就職はできませんでした
ですが今、ニュースなどでも取り上げられているように年金だけの生活では難しくて、妻もリハビリを頑張っていましたし、介護保険サービスの支払いもあったので
貯金を崩しながら1ヶ月ほど生活していた頃、妻がリハビリ中に転んでしまって骨折してしまいました
そこからは本当に大変で、妻の介護をしていました
足の骨折でしたから、歩けなくてずっとベッドの上にいるような状態が続きました
それもあってか妻はどんどん弱っていき、認知症のように物忘れがひどくなりました
妻は夜中に歩こうとして転んでしまうことが何度もあって、私1人で介護はできなくなりました
それで今、妻は施設で暮らしています
そこで楽しく暮らしているそうです
私は妻に年金を全て使うことにしました
私がここで死ぬと妻には年金が受給される
だから私は死を望んでいます
はい、藤原さんありがとうございました
私は今からそちらに向かいます
それまで自由にされてください
じゃあ1度解散しましょう
今日はこの建物から出ないようにお願いします
出てしまうとルール違反なので注意してくださいね
米沢健一の目が鋭くなっているのをみてしまった
今までそういう目をしたことがないのに…
リビングに解散の声が響いてもそこから離れる人はいなかった
少しの沈黙の後、話が始まった
今日死ぬのね
結さんが話始めた
まあ、死ぬために集まったんだろ
そうですけど、僕もちょっと…
橋本さんのその反応が正常ですよ
藤原さんもそう思われますか
はい、私も怖くなってきました
全部終わらせてすっきりしたいんですけどね
でも最期なんだですからもう少し明るい話しましょう
そうですね
何か飲まれますか
私、淹れますよ
はい、どうぞ
ありがとうございますj
1口飲んでから小林さんは話し出した
田村さん、僕田村さんのこと調べてました
勝手にすみません
私も
僕も
すみません私も
田村さんは少し黙った
いいんです
いつかは話さないといけないことでしたし
自分の中でも整理がつきました
田村さんはすっきりとした顔をした
そうでしたか、よかったですね、田村さん
はい
僕も整理できました
橋本さんは声を出した
もう死んでしまうから最後に友達に会ってきました
あの話した男友達に
私は驚いたが、それ以上に他の人が驚いていた
大丈夫だったんですか
うーん、まあ
もう最期でしたし…
そうでしたか、頑張りましたね
ありがとうございます、藤原さん
櫨本さんは少し笑った
で、どうだったの
謝ってもらったの
結さんは少し怒っているように見えた
謝ってもらいませんでした
なんでよ
いいんです、もう
よくないんじゃないの
土屋さんが入る
橋本さんは微笑みながら
いいんです、謝ってもらうために行ったんじゃないんです
嫌なこともありましたけど、楽しいこともあったので…
お礼を言いに行きました
橋本さんをここにいる全員がみる
今は、もうすっきりしてます
橋本くん、大人になったね
そうね、この1週間で…
橋本さんは照れくさそうに笑った
僕も
小林さんが手をあげる
この1週間で実家に戻りました
両親が住んでた家に
家の中のものを整理してたら小さい頃の写真と両親の手紙をみつけました
読んでみたの?
田村さんが聞いた
初めて話に入った田村さんを見てここにいる全員がこの場所で安心しきっていると感じた
読みました
小林さんは黙る
もっと早く見つけてあげたかったです
もう少し早かったら、変わったかもしれない
全員が下を向く
でも見つけられてよかったです
親の子と嫌いなまま死にたくなかったから
そんな小林さんを見て私は安心した
山口さんは?
土屋さんは私に聞いた
私…私は手紙を書きました、両親に
何日か後に届くと思います
そっか
わたし手紙か書いてないなー
えっ竹田さん書いてないんですか
うんー
書いた方がいいんじゃない?
私も田村さんに同意します
私も書いた方がいいと思いますよ
藤原さんまで…
じゃあ書こうかな
竹田さんは自室に戻った
でも手紙出せなくないですか
部屋に置いといたら届けてくれないかな
確かにそうですね
そこはお願いしたらいいんじゃないかん
そうですね
皆さんだいたい整理がついてるんですね
もう最期ですから
1週間お世話になりました
土屋さん、急に改まらないで下さいよ
リビングに笑いが広がった
久しぶりに笑いました、僕
私もです
ここにきてから笑うこと少なかったから
僕は楽しかったです
私も
僕も
みんなが穏やかになっていた
人生を話し合うことによって自分の中で整理され、
穏やかな気持ちになる
そう思った
でもまだ私には引っかかっていることがある
米沢健一のこと
ときどき感じていたこの不信感
何か引っかかるのに分からない
なぜ1週間の研究なのか
どうしてこの7人が選ばれたのか
分からない
あのメッセージを送って食いつきそうな人を選んだ?
それには私たちの人生を知らないといけない
掲示板の中には死にたい人しか集まらない
たとえランダムで選んだとしても7人全員参加するのだろうか
そういえば田村さんが自分の人生を話さなかった日
米沢さんが言った言葉
「この話では条件を破っていることになる」
それは条件を破る
つまりもっと詳しく説明できるということ
田村さんは会社員をしていたが、今はもうしていない
その理由を話せばいいと、とらえられるが、それでは周りに比べてエピソードが弱い気がする
米沢健一は田村さんの人生を知っていた
そう仮定するなら、会社員を辞めたことではない話を詳しく説明することが条件になる
それに橋本さんや小林さんの時も真面目に聞いていないような気がした
でも他の人の話は聞いているように感じた
田村さんはニュースや新聞に載っているからリサーチするのは簡単かもしれない
でも橋本さんや小林さんは違う
事件性はない
それなのに知っていたとしたら
私の頭は考え過ぎてしまったからか、同じことをグルグルと考えるようになってしまっていた
もうやめよう
どうせ死ぬんだから
とにかく絶対に言えることは
掲示板には自殺を希望していることしか情報がない
名前も住所も家族関係も知らない
もちろんユーザー名は掲示板サイトで勝手に決められる
個人情報を書く必要はない
だからここにいる全員お互いのことを知らない
それをなぜ…
12時47分
皆さん、集まって下さい
って皆さんリビングにいたんですね
仲が良くなられて主催している私もうれしいです
米沢さん、研究できそうですか
研究、ええ、まあ
竹田さんがリビングにやってくる
揃いましたね、じゃあこれから移動します
皆さんにはバスに乗ってもらい、移動して移動した先で人生が終わります
準備はいいですか
あ、そうそう
ここにある皆さんの荷物は遺品として遺体と一緒にご家族のもとにお返しします
引き取り人がいらっしゃらない場合には、こちらで処分いたします
じゃあ、とりあえず移動しましょう
皆さん目隠ししていただきますね
皆さん、移動しますよ
皆さんお疲れさまでした
到着しましたよ
ここで最後
どれくらい移動したのか分からないが、少し肌寒い
目隠しを外してもらう
目隠しを外した瞬間はまぶしいが、部屋自体はあまり明るくない
地下のような部屋
ふふっちょっとまぶしいですかね
皆さん今から多数決をとります
参加者はかなり動揺しているのか、顔を見合わせている
死亡させる手段が2つあるので皆さんには選んでもらうんですけど、普通に選んではつまらないので指で1か2を選んでください
じゃあせーの、で手をあげましょうか
いいですか
せーの
ほうほう、わかりました
じゃあその方法で死亡させます
何か言い残したことはありますか
あの
はい、山口さん、どうされました
米沢さんは私たちのことを知ってたんでしょうか
米沢さんは驚いているようだった
どうしてこの7人だったんですか
どうして1週間なんでしょうか
米沢さんはゆっくりと口を開いた
ああそういうことですか
皆さんがここに来たのは、偶然です
私が適当に選んでメッセージを送っただけです
彼はまた不気味な笑みを見せた
嘘だ
適当なんかじゃない
あなたは知っていた
私たちの人生を
だから声をかけた7人が全員参加した
山口さん、考え過ぎですよ
ふふ
じゃあどうして1週間なのかもお答えしましょうか
私は疑いが強くなっていた
それは私が1週間もあれば完成すると思ったからです
なにが完成するんですか
…研究です
本当はもう少し長く取ってもいいと思いました
じゃあ
でも、時間を長く取ると死が薄れてしまう
今のあなたみたいにね
これはあくまでも死の研究です
こちらとしてはずっと死を望んでてほしい
じゃないと、逃走する人が出てきて大変なんですよ
そういう人がいたんですか
いいえ、あくまでも私の想像です
米沢さん、私たちに一週間ください
笑った、米沢健一は
山口さん、今お話ししましたよね
時間を長くすると死が薄れると
はい、聞いてました
でももう一週間ほしいです
今日までの1週間は自分の今までの人生に使いました
でも私が今欲しいと言っている1週間は、この人たちと関わるための時間に使いたいです
だから…
お断りします、山口さん
それは契約違反ですよ
最初に言いましたよね
皆さんの一週間をくださいと
私は皆さんの一週間しかほしくない
だから…
私が山口さんのお願いを聞くことは契約に入っていません
それは承知ですか
私は黙るしかなかった
ふふ
大丈夫そうですかね
米沢健一は大きく息を吸った後、私たちに向かって言った
最後に研究に参加していただきありがとうございました
皆様の人生に関わらせていただいたこと、とても興味深い体験でした
安らかに
お眠りください
米沢はボタンを押し、もがき苦しむ人を見ながら悲しげな顔をする
これが私の最後の記憶
人生最後の記憶はこの男で終わった
静まり返った空間
ふう
ふふっ
あははははは
自分たちで選んだ死はどうですか
思ってた通りでしたかね
痛みのない死に方
そんなのないですよ
痛みは必ずある
皆さんが選ばなかった方は薬で一瞬だったのに
まさかガスを選ぶとはねぇ
はあ、くだらねぇ
なにが人生をお話ししますだ
つまらない話しやがって
研究の材料なんかにならねぇのに、ふっ
男は電話を取り出し誰かと話し始める
もしもし
7人全員処理いたしました
はい、はい
今から確認いたします
今回は成功しました
前回はトラブルが起きたので…
私はまた材料を探します
私は確認が終わり次第、次のステップに取り掛かります
はい
私も材料を探します
今回よりも面白いものを
全ては人類のために
一週間ください 佐原瑠花 @Sahararuka
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