第2話
遥が初めて一樹と出会ったのは、大学二年の春だった。
文学部のサークルで、書くことに真剣な人は珍しかったが、一樹は違った。彼は毎週、何かしらの短編や詩を持ってきては、真顔で「全部、途中」と言った。完成させることに意味はない、と言う彼の目は、どこか投げやりで、だけど熱くて、遥にはそれが羨ましく思えた。
二人が付き合い始めたのは、夏の終わりだった。蝉が死にかけの声を振り絞っている頃、一樹は遥に「君の声を読んでみたい」と言った。遥は自分の声なんて意識したこともなかったが、それでもその一言が、心のどこかにずっと残った。
一樹は、遥にとっての“目印”だった。
感情が迷子になりそうなとき、彼の書いた言葉や、喋った冗談や、無言の背中が、遥を世界に繋ぎ止めてくれた。
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